章一のバレンタイン
章一 × 恭弥な作品を書いてみました。
……今日が何の日だろうが、僕には関係ない。
そんな思いで学校に来て部室の戸を開けて、自分の席を見るとそこには1つ上の先輩、黒田恭弥がいた。
「……なんでここに?」
「やあ、章一。おはよう……って、そんな嫌そうな顔しなくても」
「答えてください。なんであなたがここにいるんですか?」
「何だ? わからないのか? 役割的には君からだろ」
この男は……どうしてそう偉そうにできるんだ。僕には考えられない。
こんな傲慢で身勝手な人と。良いところなんて顔だけじゃないか。
「……そんなものありません。僕はこういったイベントには興味もなければ付き合う気もありませんから」
「……ははっ、お前らしいな。そんなこと言いだすと思って、はい」
にっこりと微笑みながら彼が差し出してきたのは、パッケージが左右反転している市販のチョコだった。
「……これは?」
「逆チョコだってさ。面白いと思って買ってきたんだ」
「まあ、確かに……発想は面白いかもしれませんが」
「んー? 章一、チョコ嫌いだったりする?」
「いえ、別に……そんな事は」
「じゃあ受け取ってくれ。たまには、な」
「……ありがとうございます」
流石に受け取らないのもどうかと思い、僕はおずおずと箱を掴んだ。
……が、取ろうと思ったら取れなくて一瞬戸惑った。
しかしそんな事を考える暇もなく、
「いただきますっ………えっ!?」
黒田先輩は口付けたまま僕をぎゅっと抱き締めた。
ぬっ……抜け出せないっ……息苦しい……!
「んんっ……ぁ、はっ……」
ようやく解放されて、息切れした僕は息を荒くした。何なんだ一体!
「ふっふっふ、章一の唇は美味しいな」
「なっ、何言ってるんですか!」
「好きな人の唇っていいぜ? 章一はそう思わないのか?」
「おっ……思い……ます、けど」
「くふふっ……あっはっは! 顔真っ赤にして目そらしちゃって! 可愛いな、章一。あはははっ!」
「わっ、笑わないでください!」
「ひーっ、はいはいわかったわかった」
「はいもわかったも1回で十分です!」
「はい、わかりました。んじゃ、じゃーね。もうちょっとで予鈴鳴るし」
「もう二度と見たくありませんっ!」
「はっはっは、ひどいなぁ。じゃあねー」
まったく何なんだ。
黒田先輩が教室を出ていった後、僕は大きく溜息を吐いて自分の席に座った。
机の上に置かれたチョコを掴んで、机に突っ伏す。
「……黒田先輩の、バカ」
彼の笑顔が脳裏から離れなくて、僕はぽつりと呟いた。