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ヘビーメロウな夜

作者: 薬袋

〜プロローグ〜


「満月の夜は出歩いちゃいけない」

それは小さな子でも知っている常識だった。

もちろん、俺だって知っている。

小さい頃から母親に散々言い聞かされてきたからだ。


「満月の夜は異形の化け物がやってきて人間を攫っていくのよ」



「なんのために?」





1.

「今日も早起きね」

母が、そう声をかけてくる。

母に起こしてもらう前に目が覚める。

これは僕の数少ない特技の1つである。

これといって得をすることはないが、何かに頼らず自分で目を覚ますのは気持ちがいい。


「おはよう、母さん」

「はい、おはよう、ご飯の準備できてるわよ」

食事を済ませてから友達の家へ向かう準備をする。


「あ、そうそう。

今夜は満月だから早く帰ってらっしゃいね」


満月の日にはいつもそう言う。


「わかってるよ、いってきます」


僕もいつものように返事をして友達の家へ向かう。




コンコン!


「はーい、どちらさまですかー…

あら太郎くん、花子に用事かしら?」


お、きたきた。時間ぴったりに来るなんて相変わらずバカ真面目ね


「はい、テストが近いので一緒に勉強する約束をしてるんです」


「ありがとうね、あの子1人だと勉強しないから太郎くんがいると助かるわ」


ママはいつも余計なことを言う。


「太郎くんはしっかりしてるからうちの娘を嫁に貰ってくれないかしら」


ママは本当に余計な事を言う。


ドタドタドタドタ!


「ママ!余計なこと言わないで!」

「あら、聞き耳立ててたの?気づいてたなら早くきなさいよ」


「べつに聞き耳立ててたわけじゃないわよ!あーもう!太郎、早く部屋に行こう」


「お邪魔します」

「ゆっくりしていってねー」


バタン!

「あーもう、信じられない!

ママったら余計な事ばかり言って!」

「余計な事?なんか言ってたっけ?」

「思い出さなくていい!」


あーもう、こいつはしっかりしてるのか抜けてるのかよくわからないわね


「そんな事よりも早く勉強しましょう、私のテストはあなたにかかってるのよ」

「そうだね、じゃあ明日のテスト範囲の復習をしようか」


カリカリカリカリ


「レモンってレモン4個分のビタミンCが含まれてるんだよ」


「へぇ」


「レモンよりイチゴのほうがビタミンCが豊富なんだよ」


「へぇ」


太郎とは長い付き合いだけど未だに何考えてるのかわからない。

今日はやたらとビタミンCの話をしてくるけど昨日はずっとサメの話をしてきた。


でも私はそんなこいつに惚れてしまった。





2.

二頭身。

全身を覆う鱗。

顔の真ん中にある大きな1つ目。

お腹にある大きな口。

左右合計6本の触手。

身長1メートルにも満たない小柄な身体からは信じられない怪力。


それが、俺たち自衛隊が戦う異形の化け物だ。


あと数分で月が登る。

月が登ったら奴らが攻めてくる。

なぜ満月の夜なのかは分からない。

わからないが、何十年もの間ずっと満月の夜にだけ現れて夜明けとともに去って行く。

きっと、今日も変わらずに。



「俺はあの異形の化け物を倒すために自衛隊に入隊したからな!」

陽介はいつものようにそう豪語するが、隊員たちは奴らを倒すことができないと知っている。

無論、陽介だって知っている。


奴らの再生能力は異常だ。

鉛玉を何発撃ち込もうが痕すら残さず直ぐに修復する。

俺たちには夜明けまで奴らを足止めする事しかできない。


しかし、陽介の言葉に反論するものは誰もいない。

『奴らを倒す』それが無理だとわかっていても、否定してしまえば心が折れる。

隊員たちは例外なく奴らを倒せる日が来る事を待ち望んでいるのだ。


ウー!ウー!

サイレンが鳴る。

もうすぐ満月の夜が始まる合図だ。

「総員、戦闘配備!」

陽介の所属するF小隊も持ち場に着く。

「1ヶ月ぶりの戦いだ」

は身構えた。



陽介は高校を卒業して直ぐに自衛隊に入隊した。

しかし正義感に駆られて入隊したわけではない。

ある事件がきっかけで自衛隊を目指すようになったのだ。

陽介が高校2年生の夏、あれも満月の夜だった。





3.

「ふー、勉強おわり!」

私は座りっぱなしで疲れた体をストレッチさせる。


「お疲れ様、これだけやれば明日のテストも赤点は無いと思うよ、たぶん」


「たぶんって何よ、失礼しちゃうわね。

まぁいいわ、今日は勉強教えてくれてありがとう。」


「花子がお礼を言うなんて珍しいね、びっくりしたよ」

太郎が目をまん丸に見開いて言う。


「なによ!私だってお礼ぐらい言うわよ!」

私が怒って詰め寄ると


「冗談だよ、花子の事はよくわかってるよ」

そういって太郎が笑顔を見せる。


「〜〜っ!!」

予期せぬ間近での太郎の笑顔に顔が紅潮してしまう。

花子が照れ隠しで俯いてしまったので沈黙する2人。


「………」

「………」


「……あのさ」

沈黙を破ったのは花子だった。


「さっき、私の事をよくわかってるって言ったよね?」


花子は俯いたまま続ける。


「ん?うん。まぁね」


「じゃあさ、私の好きな男の子が誰だかわかる?」


花子は顔を上げて太郎の目を見ながら質問する。


「え?誰だろう?僕の知ってる人?」


あーもう、この男は…


「鈍感、私の事をわかってないじゃない」


勇気を出そう。


「私が好きなのは太郎、あなたよ」


言ってしまった。


自分の心臓の音がうるさく聞こえるぐらいの静寂。

いや、自分の心臓が今までにない程鼓動しているのだ。


「……困るなぁ」


太郎の口から出た言葉は花子を絶望の淵に追いやるには十分だった。


バンッ!

ダダダダッ!!

家の中を全速力で走り抜け、外へ飛び出す。

「ちょっと花子、こんな時間にどこに行くの?」

母親の言葉も置き去りにして走り抜ける。


「〜〜〜っ!!!!」

泣きながら走り続ける花子。

「キャッ!」ドサッ!ゴロゴロ!

何かにつまづき派手に転んでしまう。

身体中泥だらけだ。


太郎に振られて。

泣いて顔はグシャグシャで。

おまけに身体は泥だらけ。

「あーあ、昨日に戻りたいなぁ」

無理だとわかっていても言わずにはいられない。



「相変わらず足が速いね」


後ろから声をかけられる。


「……」


「なんであんたがここにいるの?」

振り向かずに問いかける。


「何でって、急に走っていっちゃうから追いかけてきたんだよ」

声の主はもちろん太郎だ。


あーもう、この男は!


「何で追いかけてきたのって聞いてるの!!」


「私の気持ちは迷惑なんでしょ!?

私の事を好きじゃないんでしょ!?

だったら放って置いてよ!!!」



「順番に答えるね」

太郎は淡々と続ける。

「気持ちは迷惑じゃない、花子の事を好きだ、たから放って置けない」


「………え?」

唖然とする花子。す


「聞こえなかった?もう一度言おうか?」

嫌味じゃなく真剣に聞いてくる太郎。


「いや、そうじゃない、そうじゃない!!」

え?何で?拒絶されたはずなのに?私の事を好き?え?どういうこと?


「さっき…困るって言ったじゃない」

花子は必死に最適な言葉を繰り出した。


「うん、僕から言うつもりだったから」


「へぁ?」

思わず間抜けな声が出てしまう。


「キミから言われたら困る」


あーもう、こいつは

私が好きになったこいつは、そういうやつだった。



空には綺麗な満月が輝いていた。





4.

「クソッ!」

陽介は自身が所属するF小隊から孤立していた。

持ち場を離れることは部隊を危険に晒す事になるため禁じられているが、陽介は見つけてしまった。

月明かりに照らされる迷惑な2人を。



「隊長!あんなところに民間人が!救助に向かいましょう!」

「ダメだ、助けたい気持ちは良くわかる

しかし、我々がここを離れるわけにはいかない」

「………ッ!」

「2人の命を救うためにより多くの命を危険に晒すわけにはいかない!」


正論だ、隊長は隊長として正しい判断をしている。

しかし…


陽介は駆け出した。

「陽介、どこへ行く!戻ってこい!命令違反だぞ」

「隊長!すみません!俺は正しい判断ができませんでした」

振り返らず全速力で2人の元へ向かう。


「はぁ、はぁ、はぁ」

2人に襲いかかろうとしている化け物を銃で撃つ。

ターンッ!ターンッ!

銃弾が命中し、化け物がよろける。


よろけるが、すぐにこちらにターゲットを変えて飛びかかってくる。

化け物をうまく交わし、2人の元へ。


「こんな時間に何してんだバカヤロウ」

怯えて震える2人を一喝する陽介。

「う、うしろ!」

男の声に振り向くと先程とは違う化け物が飛びかかってきていた。

ターンッ!

なんとか迎撃したが、周りを見渡すとすでに化け物に囲まれていた。


このままではやられてしまう。

何とかして小隊の元に戻らないと…!


俺が化け物を銃で牽制しながら3人で走り抜ける…それしか無いか。


「あそこに俺の仲間がいる、一気に走り抜けるぞ」

2人に指示をする。


「あのっ!お、俺!足が震えてて…」

「私…走るの苦手だから…」


「苦手だの何だの言ってる場合じゃねぇんだよ!走らなきゃ死ぬぞ!」


「よし!今だ!!」


全力で走りだす2人。


その場で銃を構える陽介。


「俺は走りながら撃つなんて芸当できねぇからよ、ここからお前らを援護してやる」


ターンッ!ターンッ!ターンッ!


「これが罪滅ぼしなるなんて思っちゃいねえが」


ターンッ!ターンッ!ターンッ!


「沙織……俺にしちゃ、上出来だろ?」


目の前に化け物の触手が迫る。


ドチャッ!






5.

「見て、綺麗な満月よ」


「キミの方が綺麗だよ」


「よくそんな事言えるわね、恥ずかしくないの?」


「恥ずかしい?なんで?」


「あーもう、何でもない」


「あ、そういえば今夜は満月だから早く帰ってこいって言われてるんだった」

「ごめんね。僕はもう帰るよ」


ムードもへったくれもない。

なんでこんな男を好きになってしまったのか。


「家まで送るよ」

スッと手を差し伸べてくる太郎


こんな男だから好きになってしまったのだ。






〜エピローグ〜


「……〓±‰§◎*」

俺は……生きているのか?

身体が動かない…ここはどこだ?

「☆○〜◎☆♢〜」

「○〻⇒∝」

耳元でやつらの声がする、俺は捕まったのか?

「「「∂○&☆∩」」」


メギョッ!











……どうだ?太郎、美味しそうだろ?

今日は生け捕りにできたんだ


そうだね、すごく美味しそう。

こんな芳醇なお肉は満月の夜にしか食べられないからね


それじゃあいただきましょうか


「「「いただきまーす」」」


メギョッ!



おわり


やっぱりハッピーエンドが1番

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