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春が嫌いな私、春と共に訪れた君。


私は春が嫌いだ。


私は春になるとよく具合を崩しやすくなり、立ち眩みもする。


虫が大嫌いな私は、冬で眠っていた虫が春に目覚めて私の目の前に出てくる、それが嫌いだった。


また、年々ひどくなっていく花粉も嫌いで花粉症が辛い。


暖かいような寒いような、微妙な気温も湿度も嫌いだった。


春になって好きな事や嬉しい事など、花見くらいしかない。


それ故に、毎年春が憂鬱だったのである。










そして、高校3年生になった春も嫌いだった。


桜前線が到来したいつもの道を歩いて学校に向かう。


桜は大好きだった。


綺麗で羨ましかった、儚くて悲しかったが。


そんな桜を眺めながら、ふと前を見る。


この年、春と共に彼を連れてきた。


世に言う、運命の出会いだった。


彼のせいで少しだけ春が好きになったのである。


彼があまりにも春が好きだから。


私はいつの間にかその好きが移ってしまったらしい。


しかし、春はよく出会いと別れの季節と呼ばれている。


次の年、私たちは別れることになったのである。


また、春が嫌いになった。











大人になって久しぶりに訪れると、いつも通っていた道を歩いてみた。


すると、また春は彼を連れてきたのである。


高校3年生の時とはまた違って大人になった彼を。


私たちは再び出会い惹かれあった。


今度は離れないように固く手を握って離さなかった。


1度嫌いになった春が好きになりそうである。











また、彼を連れてきた春になる。


この春は、彼とずっと一緒にいるために同棲を始める。


出会いと別れを繰り返した、いつもの桜の木の下で。


出会った日と同じ日に彼から同棲を始めたいと告げられた。


私はその提案を当たり前のように受け入れた。


彼のせいでまた春が好きになってしまったのである。










大人になって社会に馴染んで数年の春。


また出会ったあの日と同じ日、同じ場所で彼に告げられた。


永遠の愛を誓う言葉を。


私は泣きながら、受け入れた。


この春、私と彼は結婚した。人生で一番幸せな春である。


彼のおかげで春が好きになれた。感謝で一杯だった。










2年後の春。


初めて私から出会ったあの日と同じ日で、同じ場所で告げた。


彼は嬉しくて泣きながら私を抱き締める。私も嬉しかった。


私たちの間にコウノトリが来たらしく、宝物を授けてくれた春であった。


この年の暮れに、元気な子が産まれた。男の子である。


私たちは大切に育てよう、そう誓い合った。










次の年の春。


息子と彼と共にいつもの桜を眺める。


私たちをずっと見つめてきた桜は少し年取ってしまったらしい。


それでも、変わらず私たちを見守ってくれている。そう思った。


春は苦手であるが、嫌いではなくなった。


彼が傍にいてくれるから、私はこの春も嫌いになる事なく過ごせる。









息子が幼稚園に入る春。


私のお腹は膨らんでいた。今度は女の子がいるみたいだった。


私と彼と息子。手を繋いでいつもの道を通る。


桜は今年も優しく見守ってくれるみたいであった。


夏に産まれた。息子はお兄さんになった春でもある。









息子は高校受験になる春。


私たちは年々しわや白髪が増えてきたなと感じる春が来たみたいだった。


娘も元気にすくすくと育ち、変わる事なく幸せな日々が続いている。


桜の木は高齢になり、桜の花が少なくなっていた。


それでも構わず、私たちをじっと見守っている。


息子は無事志望校に合格し、私たちは安堵と幸せで一杯であった。









息子が一人立ちする春。


大学に進学し、娘も高校に進学する春。


私たちは息子と共に過ごすこの春をめいいっぱい楽しんでいた。


寂しくなるが、それでも息子の成長が何よりも嬉しかった。


息子も春が好きで、離れていても桜で繋がっている気がしている。


桜はその年も元気で変わらなかった。









とうとう娘まで一人立ちする春が来た。


息子がいなくなってから数年、寂しさが余計に込み上げた。


それでも、二人とも元気に成長してくれた事が私たちにとって幸せである。


これからどんな春が来ても、私たちを思い出して会いに来てくれたら嬉しいな、そう思っている。


春はやっぱり出会いと別れの季節であるようだった。


また、二人だけで過ごす春になりそうである。









お互い定年を迎えた春。


二人で手を繋いでいつもの桜へと向かう。


私たちが出会うきっかけであり、ずっと見守ってくれた桜に感謝を伝えるために。


桜はもう花をつけなくなった。そろそろ年のようであった。


例え花をつけなくなって枯れてしまっても、私たちにとってこの桜は大切な家族であることは変わらない。










腰が折れ曲がり、杖をつきながら歩いて桜に向かう。


もう桜は枯れてしまい、そこには新しい桜が芽吹こうとしている。


彼は前の春に私から連れ去ってしまった。


とても穏やかな幸せそうな顔であった。


病室から桜が咲いていて、花びらが窓から1つ入ってきたのを覚えている。


その花びらが私から彼を連れ去ってしまったのだろう。


彼は春のような人であり、桜のような人でもあった。


彼は私にたくさんの大切な物を与え、教えてくれたのである。


この年になった頃にはもう、春を愛していた。


彼が私に春が大好きになる魔法をかけてくれたから。











これからも絶える事なく春が巡るだろう。


生きている物は巡る度に年老いていき、やがて死ぬ。


それでも、その永遠と呼ばんばかりのある一瞬。


その一瞬が、私たちが出会い別れを繰り返したかけがえのない日々であることは確かなのだから。












また春が来る。何処かの誰かにとって特別な春が。


私はそんな春を愛そう。彼が愛した春を。


春は私の人生そのものだったのだから。


例え私が最後の春を過ごし息絶えようとも、


生まれ変わってまた春が彼に会わせてくれる事を願って。













ーFINー

自分も春が苦手で、毎年体調が優れなくなって憂鬱になってしまうんですよね……(;´・ω・)

自分もこういう運命の出会いとかしてみたいものです(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 綺麗な作品ですね。時の流れの早さを感じる我が身には、とても感情移入できる作品でした。
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