クラスメイト
体育の授業は4時限目だった、昼ご飯前にも関わらず男子側のコートでは主に運動部が火花が散らす、僕もその中に混じっていた。
「ヘイ!広輔!パス!」
「出せるものなら出してるよ!」
「いけるって!自分を信じろ!」
「意味わからないし!」
坊主頭が大きく手を振ってボールを要求するけれど、パスコースが完全に塞がれている。
「もうシュートでいいや、いけ!」
3ポイントの線よりは内側ではあるものの、素人の僕からしたら遠いその位置から、言葉に促されるまま投げやりにシュートを放った。ボールは浅い弧を描いてリングは向かう、当然、そのボールはリングに弾かれ枠の外へとこぼれ落ちた、が、そのとき、パスを貰うために逆サイド側にいた筈の坊主頭が、そのボールを空中で掴み取り、見事にキープして数歩のドリブルの後見事にゴールに沈めてみせた。
「ふぅ、どーよ弓道部とは運動能力が違うぜ。」
「あ、言ってはいけない事を言ったな、見てなよ弓道部の華麗な3ポイントシュートを見せてあげるから。」
「本当に出来んのかぁ?」
「そりゃ野球部の『23位』みたいに体力はないけど、ここぞのときの集中力で勝ってやる。」
「うし、じゃあパス回すわ。」
「望むところ。」
その後、『23位』が何度もパスを回してくれたけれど、僕のシュートは全く入らず、授業後の着替えの時に散々いじられる事になってしまった。
着替えが終わってクラスメイトからのいじりも落ち着いた後、また話題が再燃するのを避けるために校内に設置された自販機へと足を運ぶと『12位』が暖かいコーヒーを買っていた。
「や、お疲れ、体育の後にコーヒーってどうなの?喉の渇き潤う?」
「あ、広輔じゃんお疲れ〜、俺は動いてないからさぁ、全然平気。」
「そういえば、さっきの授業なにしてたの?」
「動きたくないグループで古今東西ゲームしてた。」
「へー、お題は?」
「学校七不思議でありそうな事。」
「……それって授業終わるまで続いた?」
「いや、最初の方で言い尽くしちゃったなぁ…。」
「そりゃそうだよ、だって七不思議だもの、なんでそれにしたんだよ。」
「20個くらい出たんだけどなぁ…それ以上はダメだった。」
「意外と出てるし…」
なんで七不思議候補が20個も見つかるんだよ、僕なんてピアノが鳴るとか階段が増えるとかしか思いつかないぞ。
その内容にはとても興味があったけれど、今はとりあえず渇いた喉を潤す、目の前の機械に銀色の硬貨を2枚入れると全てのボタンに光が灯った、コーヒーは苦手だしそもそも水分補給には向かない気がするので黙ってスポーツドリンクを選択する。その場で開封して喉の奥に流し込むと、甘い液が熱くなった身体を冷やした。
「いい飲みっぷりだねぇ。」
「激しい運動をして疲れたからね。」
「疲れるなら俺らと一緒に古今東西ゲームしておけばよかったのにー」
「運動は好きだから、それに、俺にも色々あるんだよ。」
人付き合いとかね。
「ふーん、まぁどうでもいいや。」
「『12位』が聞いてきたんだろ。」
「早く教室に戻ってご飯食べようぜぇ、今は待ちに待った昼休みだろ?」
「はいはい」
そのまま教室へ話しながら向かった、朝よりも騒がしくなった校内を2人で歩く、男子の集団の馬鹿騒ぎ、女子達のヒソヒソ話、数人のグループの身内話、男女ふたりの楽しそうな会話、僕達の会話もこの校内に溶け込んだ。
教室の前まで来ると見覚えのある姿が目に入ってきて、今の今まで忘れていた用事を思い出した。
「ねぇちょっと、昼休みに私のとこに来てって言ったよね。」
同じ文化委員の女子だ、朝に隣にいた子は今は見当たらない。
「『45位』さん、誤解だよ今から向かおうとしてたんだ。」
「ん、広輔なんか用事があったのか?」
そういえばあの時は『12位』は寝ていたんだっけか。
「文化委員会の仕事だよ、先週休んだから。」
「ああなるほどねー。」
「いいから早く職員室まで私と来て。」
会話を遮りながら『45位』さんは僕達の横をすり抜けた、彼女とは委員会の時に何回か話をしただけの関係だけれど、やっぱり強引な性格らしい。
「じゃあ俺は教室に戻るからー、後は頑張れー。」
そういって『12位』は片手を上げて教室に入っていった、僕は先に行った彼女に聞こえないようにため息をはいて、今歩いて来た道をもう一度歩き出す。この後ご飯を食べる時間はあるだろうか。
数歩遅れて職員室に着くと、僕の担任の先生を交えての文化祭準備についての連絡会が始まった。僕は新人戦が控えているからあまり出られないという話はしたけれど、新人戦より文化祭の方が早く訪れてしまうこともあり、準備期間である来週1週間だけは文化委員として仕事をちゃんとこなしてくれと言われた。
他にも文化祭のための細々な連絡があったけれど、連絡会は本当に連絡だけで終わった為、朝言われたように長い話になることはなく、職員室から出た後も時間はたっぷり残っていた。
「じゃあそうゆうことだから、来週からはちゃんと手伝ってね。」
『45位』さんはそれだけ言い放ってスタスタと先に教室へ戻って行ってしまった。あまり手伝っていない僕に落ち度はあるとはいえ、冷たい言い方をする人だな、僕だって流石に準備期間は手伝うつもりだったのに。
文化祭準備期間は学校中がお祭り騒ぎとなり当日に負けない活気をもつようになる、そうゆう楽しいイベントなのだから皆んな仲のいい人と過ごしたいと思うのは必然で、クラスとは別行動となることの多い文化委員は誰もやりたがらず、結局は先生が委員会に所属していない生徒の中から男女を1人づつ決めることになり、その貧乏くじを僕達が引いて、今に至る。当時『45位』さんとは話したことすらなかったので、2人とも凄く渋い顔をしていた、まぁ今も仲良くはなれていないけれど。
ため息を吐いて僕も教室に向かう、『12位』はもう昼ご飯を食べ終わってしまっただろうか、教室の賑わいの中1人弁当を広げるのは少し嫌だな…。
とぼとぼと歩いていたら、遠くの方で『45位』さんが友達に囲まれて楽しそうに話しているのが見えた、愛想よく友達の中心で笑う、何人も友達がいるということはきっと悪い人では無いのだろう。
教室に着き、周りの様子を伺って状況を把握すると、まだ皆んな弁当を広げていた、僕は少しホッとして自分の席のリュックへ向かって弁当を取り出し、体育の時間に一緒に古今東西ゲームをしていたという仲間達と弁当を広げている『12位』と合流した、僕はその『12位』周りの人達とも良好な関係を築いている。
「あれ?早かったなぁ。」
「本当に連絡だけだったからね。」
「そうかー、まぁ座れよ。」
「うん、ここの席借りるよ。」
そうして 空いていた席に座って会話に参加し、そのまま楽しく昼休みを『12位』『26位』『27位』と共にする。
ここ最近、両親としか話をしていなかったからか、今日話した会話の全てを、僕はとても楽しく感じていた。僕は友達が多くて幸せ者だ、家にも部活にもクラスにも大切な友達がいて、どこにいっても僕の居場所がある、ああ…友達ってなんて素晴らしいものなんだろう。そうしていつもより口数の多い僕は、今日も友達と楽しく過ごした。
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