表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

母のこと

作者: かちゃ

 母の日が近いので、うちの母のことを書いてみます。


 いわゆる「お母さん、育ててくれてありがとう(感動)」というような内容じゃないです。読んでいて楽しいエッセイでもないです。


 人によっては、母を毒親だと思うかもしれません。


 まあ、母は母なりの正義を掲げて一生懸命生きています。


 母の目から見れば、私も自覚なくひどいことをしているのだと思います。



↓ ここから本文です ↓


 

 私が子供の頃、母は、普通の明るいおばさんでした。


 関西人らしく、私と兄にお笑いのノリツッコミの英才教育を施してくれましたし、お皿を洗いながら一人歌謡ショーをやっていました。


 働き者で、フルタイムのパートをしながら家事も頑張っていたんです。掃除はとくに気合いを入れていて、木の廊下はお寺の境内みたいにピカピカ光り輝いていました。


 でも、息抜きもちゃんとしています。たまに晩酌していたようです。安い赤玉パンチのワインといかり豆を買うのが、唯一のぜいたくでした。


 今にして思えば、母がなんとか頑張っていたおかげで、私は明るい子供時代を送れていました。


 母はたまに頭が痛いといって寝込んでいたので、じつは自分のキャパシティー以上に無理をしていたのかもしれません。


 私が高校生になった頃、母はだんだん寝込む時間が増えていき、不機嫌な顔をしていることが多くなりました。


 私が就職で家を出てからは、どんどん出来ないことが増えていったようです。


 ピカピカだった家の廊下はつやを失ってしまい、パート先でも必要なことが覚えられなくてパニックになり辞めてしまいました。


 私が結婚したあと、母の状態はさらに悪化して、精神的にかなり不安定でした。


 この頃は、一日中「死にたい」「死にたい」ばっかりで、料理も出来ず寝込んでいた印象があります。


 読者さまは、こう思われるかもしれません。「死にたい」なんて、俺(私)も何回も思ったことある! 甘えだ! 逃げだ! と。


 「生きるの辛い、死んだら楽になるかな」と夢想する余裕があれば、甘えと言われても仕方ないでしょう。


 あれは衝動です。私も近年、二度ほどそういう状態になったことがあるので、母も辛かったんだろうと想像はできます。


 どんな生理的欲求も、あれほど暴力的に強くはなりません。「今すぐ駆け出して、ベランダから飛び降りたい」という衝動に襲われて、それをこらえるので必死で、楽とか楽じゃないとかは正直どうでもいいのです。


 これは単なる私の想像で、科学的ではない大ざっぱなたとえだとは思いますが、麻薬の禁断症状とか、アル中にかかった人がお酒を我慢するときに、こういう辛さを経験されるのじゃないかと思ったりします。

 

 うちの母はお酒にはまったりしませんでした。その代わり、大病をしました。


 幸いなことに、早期発見で命に別状はなく、心臓にメカニック加工をして今は元気にしています。進行すれば死ぬような病気をすると、「死にたい」とか言わなくなるものですね。




 ――お母さん、いろいろ大変だったけど、元気でいてくれてよかった! ありがとう!――



 なんて風に、めでたしめでたしで終わると思ったでしょう? いえいえ、そんなスイートな話では済まされませんよ。


 母は、「大病をしたのは、ストレスが原因だ」と主治医に言われたのがきっかけで、モンスター化します。


 ストレスを溜めないという大義名分のもとに、エンドレスで愚痴を吐くようになりました。


 愚痴の内容は100%父のことです。


 父は若いときにいろいろ勝手をして母に苦労をさせているので、その古い話をほじくり返して、味の無くなったガムみたいにいつまでも噛みしめています。


 聞いてもらって一時的にスッキリするのなら可愛いものですが、言っているうちにどんどんヒートアップして、いつしか恫喝(どうかつ)になって、自分でも止め方がわからなくなるようです。


 父と兄はしょっちゅう聞かされているので、無言でスルーしています。


 私は、なるべく聞き役になっていました。年に数回帰省したときぐらいは、ガス抜きさせてあげようと思ったんです。


 とはいうものの、恫喝が20分くらい続くと私も頭が痛くなってきます。


 なので、頭痛がするのでいったん話を止めて休ませて欲しいと、私の頭がスッキリしたら続きを聞くからと伝えたのです。


「私の気持ちはまだ収まってないのに、この辛さをどないしてくれるねん!」


 と、母はよくわからない逆ギレをして、恫喝はさらに30分くらい延長されたのでした……。


 そのとき私は、もう受け止めきれないとあきらめました。


 以来、私一人で帰省するのは止めて、夫と一緒に帰るようにしています。


 夫がいれば、母もさすがに気を遣い、恫喝はしませんので。


 母も何か感じるところがあったのか、愚痴をショートバージョンにできるようになりました。


 もうすぐ帰省するので、母の日のプレゼントに花鉢を買っています。かわいい紫の小花です。



 これで、めでたしめでたしと言えるのかはわかりません。


 自分の辛い話ばかりを人にベラベラしゃべるなんてと、母は怒るかもしれません。


 みんな何かしら辛いものを抱えながら明るく見せかけて生きているのだから、我慢しろと叱られると思います。


 私は母のようになりたくないので、吐き出すことにします。


 文章という瓶に詰めて、匿名でネットの大海に流すことにしました。


 身近な人をサンドバッグにして、外でまっとうな大人のフリをするよりは、若干ましだと思うからです。


 うちの夫以外、リアル知人に話したことはありませんし、話せる内容ではありません。


 リアル知人に親のことを聞かれても、「健在ですよ」とニコニコ返事します。


 たまたま瓶を開けてしまった読者さま、お目汚しで失礼しました。どうか親御さんを大切にしてくださいね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ