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名もなき神学者の偽書  作者: уТ
第1章 テセウス
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第1章 5節 淵

 この国では、毎日大量の命が消費される。わたしは、見えない目でその光景を見てきた。見えない分、同情の念も薄いのか、実際に自分にされたことを思い出さなければ、死というものへの恐怖は薄かった。でも、痛みの極限だったり、音楽を聴いたりできなくなるのが死なのだとしたら、それはすごく怖い。でも、生は苦しい。皆、今は死を生きている。馬車に揺られる間、いつの間にか夜になっていた。下着みたいな服だから、カーテンに遮られていても日の火照りが死んだのが伺える。わたしの好きな神話では、太陽は毎日死に、毎日生き返る。その神話では、ある呪文があって、その呪文を唱えると世界が変わるらしい。


 さきみたま、くしみたま、まもりたまえ、さきあたえたまえ。


 愛すべき仮説、神話。神様は死んだと思うけど、信じて無害ならば、信じて心が楽になるならば、唱えよう。しかし、忘れてはならない。直線や完成された円など存在はしない。どれだけ完成を超えた想像であろうと、わたし自身、親指の爪の付け根の部分、そこを地べたにくっつけることはできない。そういうことができるという現実は、永劫回帰中、その中で、親殺しの許容される社会で成り立つのだ。現実は曲げられない。駄目だ、溺れるみたいな感じで肺に正体不明の郷愁が入り込む。


──呼吸が憎悪。


 一般に、盲目の人間が見るとされる風景は深淵と呼称されている。わたしはこの光景がとある老人の見たライオンの夢と形容するに相応しいなんて思ってる。夢の中では一番なんだもの。淵なんて、見たこともないし形ではないもの。さて、マクレーンさんの屋敷についたようだ。馬車からGが消え失せ、開かれたドアに吹く風が、到着を知らせる。

「降りろ、約立たず共」

 不意に後ろから、腰に、蹴りが入り、大人の身長の高さ程はある馬車からわたしは転げ落ちた。また傷が痛む。風が傷を撫で、空気が痛みを食べる。妙に風の吹く地域で、なにか不気味な感じがする場所。ながらく倒れているともっと蹴られるのは目に見えたことだ。わたしは立ち上がり、石畳を足の感触でつたいながら屋敷の入り口に向かった。

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