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西郷さんがツンを連れてクリ拾いに行くようです

 何があるか判らないので、出掛ける前に装備を整えた。

 全員鋼の篭手、その上に俺とロレナは鋼のバックラー。後は鋼のオーバーガード。盾一つより防御力が低く値段が高いが、両手が使える。

 両手で闘気を撃てるようになりたいツン、リタ、ルシアナ。この三人は二挺拳銃と言うか二刀流なんだが。関係が有るんだろうか。

 アリアドナさんは杖が両手持ちの武器で盾が持てない。さらに杖を銀の頭と石突の付いた紫檀に換えた。


 体は全員硬革の胸当てと硬革の前掛け。人間は膝下までの長い半袖シャツを着ているが、獣人二人は素肌に付けている。硬革の裸エプロン状態。尻尾があるので後ろがない方がいい。

 船や浜で働くときは腰縄に武器を吊るすだけが普通だとルシアナが言っていた。

 海を見に行きたい。


 この世界の人間の足はどのくらい丈夫なのか判らないが、半日で100キロ歩けるとは思えない。

 考えてみると30ギム、3000円のバス代高い気がする。6人分俺持ちだし。

 ネズミの味がそこそこ良くないと腹の虫がおさまらない。ツンがかなり乗り気なので、悪いはずはないんだが。


 南門の神殿でクリ用の袋を貸してくれる。霊気の濃い森のクリは大き目で、約100グラムまでの小袋に入らないのもあるらしい。

 門から遠くに森が見えるので、迷う心配はなかった。この世界では森にはほぼ名前がない。ここは南門東の森だ。

 東の森は湿った地面むき出しの北の森と違い、アマゾンの動画で見るような起伏のある地面にそれなりの下草が生えていて、歩き辛かった。

 それでもさほど苦労なく、ツンがネズミを見つけて合図する。体長は秋田犬くらいだがデブい。

 ロードの気配に気付いたのか、目が合ってしまったので3発撃ち込んだら倒れた。

 ツンが喜んで持って来るが、ちょっと重そう。


 3匹獲ったところで栗林に着いた。

 拾ってるところにイガが落ちてこないように、バックラーで幹にシールドアタックをかます。

 バレーボールより一回り小さいイガに、小ぶりのおにぎりくらいの実が二つ三つ入っている。

 全員鋼の篭手装備がこんなところで役に立つとは。

 モミジと違い重いので、小袋から先に入れ、四つがいっぱいになって休憩しようと思った矢先、ツンが腕を引いて呟いた。


「七面鳥」

 

 ツンの視線の先に、首と脚の太いごついエミューみたいなのがいた。

 いないはずの強敵がいる。ツンとルシアナの両親を奪った「事故」だ。

 この世界では、家の中にトラックが飛び込んで来るようなこんな事故が割と起きる。


 七面鳥と言われなければ、でかくて太ったヒクイドリだと思っただろう。

 脚はドラゴンのようだ。この世界のドラゴンは見てないが。

 それは俺と眼が合うと、短い翼を広げ滑空するように飛んだ。

 魔獣は羽ばたかずに「飛行力」で飛ぶ。

 思っていたより遅い。


「ロード」


 弾倉を満たし、全弾を濃紺の胸板に撃ち込んで左に跳び、大木の陰に隠れる。

 七面鳥は俺の手前に着地したが、ダメージがあるようには見えない。全員適当な木を盾にして、ツンとルシアナは木を駆け上がる。


「リロード」


 上を見た鳥に向ってわざと叫ぶ。再び俺を見た鳥頭に4発の闘気弾が降り注いだ。

 ダメージは小さくとも視界が塞がれる。その間に俺は実際にリロードし、首の付け根を狙って連射した。

 羽毛が飛び散り、デブ鳥が後退る。痛いことは痛いようだが、ダメージが少ない。


「攻撃力不足か」


 左手のバックラーを捨て剣を抜く。逆手に持ったまま右腕の弾倉を満たした。

 再び四方向から頭に攻撃、それに合わせて右側からアリアドナさんが首筋に渾身の突きを入れた。

 巨鳥は仰け反りながらドラゴンのような左足を上げる。その股に5連射!

 それでも千鳥足で下がっただけだった。

 もっと一発の威力がなければ倒せない。

 弾倉にせずに、MP5のまま撃ってみれば?

 スラッグショットか、いや、12.7ミリでさらに強力な……


「対物ライフル!」


 俺の想いから放たれた力は七面鳥の胸元の羽毛を剥ぎ取り、首が鞭のように振れて垂れ下がった。

 足はふらつきながら数歩歩いたが、何かにつまずいて倒れる。

 横倒しのまま最後の蹴りを放ち、痙攣して力が抜け、命の風が吹いた。


「七面鳥獲った」


 ツンが木から飛び降りて駆け寄り引きずるが、地形に邪魔される。

 迎えに行ってアイテムバッグに入れる。もの凄く嬉しそう。喜色満面てこうだろうな。

 もう1羽いるとまずいので足早に森を出た。


 ギルドで七面鳥を見せると感心されたが、受付の女の人がなんか素っ気ない。


「キロ35ギムよ。ネズミは30」


 100キロ近くあったので3395ギム。ネズミ3匹足して100キロちょっとで3025ギム。


「ネズミと大して変らないんですか?」

「経験値高いけど味はそんなもんなの。それよりお楽しみ袋開けた?」


 ツンとルシアナが同時に「あっ!」と叫んだ。


「その二人猟師の子ね。あんた達のレベルでこれ獲ったら舞い上がらない方が変だけどね。鳥は魔獣化しても砂嚢があるのが多いの」

「魔獣ならただの石ころなんか飲んでないでしょうね」


 特別に解体所で開けさせてもらったが、メノウと水晶だけだった。全部で50ギム。ま、おまけだし。

 50ギムは晩飯のネズミのステーキになり、飯を食いながら対物ライフルの説明をした。

 みんな新たな希望に胸を膨らみ切らせて食欲も絶好調だったが、熟練度が上がらないとバリスタも覚えられないわけだ。

 

 ギルドで晩飯にしてから神殿でクリを売ったが、100グラムないものが多かったので全部で375ギム。基本的にネズミ獲りのおまけらしい。

 ネズミが10匹以上取れればカマキリより儲かるが、熟練度は上げ難い。クリ拾いは論外だった。

 海を見に行きたい。

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