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西郷さんがツンを連れてまだキノコ狩りに行くようです

 翌日は順調だった。無理をしないでエリンギ10匹を目標にしたが15匹獲れた。

 定食のエリンギの盛りが良くなったので食べてみたら、鶏肉と変わらなかった。

 植物性蛋白? とはいえ、ほぼ全身筋肉っぽいので謎材料の肉団子より蛋白質は多そうだ。

 ソーセージは一人一皿にして、モミジ8枚2ギムの皿を二つ頼んだ。

 ツンは定食のセットのモミジは食べるが取った皿のは食べない。

 人間と体が違うだろうから、無理強いはしない。4枚食べて百合組に渡すと喜んで食べる。もっと欲しいのかな。変に気が大きくなってもいけないが、4、5ギムをケチる事もない。


「モミジ一人一皿にするか? ツンは肉団子かエリンギかな」


 言った途端にモミジ三皿と肉団子一皿を追加したので、俺の分のモミジは取り消した。


 孤児院の食糧事情も良くなって子供達が会いたがっているらしいので、食後に会いに行った。

 焦げ茶色の木で出来た孤児院は、木造の古い小学校のようだった。実際、保育園から中学まで一貫の寮付きの学校のようなものだ。

 この世界の孤児院は、親が育成資金を積み立てておかなければある程度の能力がないと入れてもらえない。

 神殿や孤児院の前に子供を捨てる者はいない。「迷子」は行政側に引き渡される。引き取り手がなければ軽微な罪人と同じ強制労働施設に入れられる。働かなければ食べられない。


 人間は弱く、全体で助け合わなければ生きて行けないが、個人が勝手に産んだ社会の助けにならない子を社会が育てる余裕も義理もないのだ。地球の野生動物と同じく弱い者は集団のために死ぬ義務がある。

 ここの人間は小鬼の類が角や牙、爪を失って弱体化し、霊気の薄い場所に逃げて武器防具の製作技術を獲得した者だった。人型の魔獣なのである。

 獣人も同じように弱体化した魔獣が能力を補うために知力を発達させた結果、人に近くなった。知力が発達すると人型になる者が多いようだ。


 孤児院の子供達は神殿の教育もあって、いずれ人類を背負って活躍するような夢を抱いていた。そこに低レベルでも使える強力な技を持った俺が現われた訳だ。しかも異世界人。

 ずっと前から知っているここの出身者のように懐かれた。特にそろそろバイトを始めたかった12歳の男二人がべったりくっついて離れない。

 名前はリノとマルシオ、一度に二人に名乗られるとどっちがどっちか判らなくなる。


「右手を掴んじゃだめ! 武器なんだから!」


 俺の左腕を占領しているツンが怒る。だからって服の裾を掴まれるのも困るんだが。まだノーパンに慣れてない。

 この三人のせいで他の子が寄って来れない。じっと見てる大人しい目の可愛い女の子がいるんだけど。


 未完成だと断って、裏庭でハンドキャノンを撃って見せた。

 10メートルほど離れて闘技練習用のサンドバッグのように釣ってある藁束みたいなのを撃つ。

 大きく揺れて子供達から歓声が上がるが、何か違和感がある。

 あと5発撃ってもMPが1余るので、拳で闘気打を使って見ると威力は少し弱い程度だ。

 まともに3発当ればエリンギ倒せるかも。しかし今まで一方的だったのは格闘戦じゃなかったからだ。


「闘気弾てMP1で撃てないのかな?」


 リタを見たけど黙っている。世話係の十代後半くらいの神官が代わって答えた。


「誰もやらないので、判りません」

「誰もやらない事って、大概やっちゃいけないかやってもしょうがない事なんですよねえ」


 考えるでもなく子供達を見ると、ツンが大人しい目の子と手を繋いでいる。この子もそっちか。

 リタにもしがみついている女の子がいる。神官の能力があるともてるかもしれないが、いいのか、ロレナが側にいるのに。

 俺の目に気付いて、聞いてないのに言い訳した。


「去年イルダが転んで膝擦り剥いた時に、治してあげたいって思ったら治癒魔法授かったんだよ」


 だからその子が特別に懐いてると。

 これ以上教えられる事もないので、完成したらまた見せに来ると言って孤児院を出る。

 ツンは大人しい目の子に、あんたが姉ちゃんになるんだよ、みたいな事を言っていた。


 4日後に俺は鋼の篭手を買った。三人は1レベルずつ上がり、冒険者ギルドに登録した。

 リタはヒールを飛ばせるようになった。正式名称は初級回復でヒールとは言わないんだけど、俺がヒールと言っても理解される。


 ハンドキャノンの熟練度が2に上がると、少し問題が起きた。

 オーバーキルになってエリンギが割れてしまうのだ。

 ばらばらに切って使うから割れていても値段は変わらないが、MPがもったいない。


「やっぱ、MP1で撃てないかな」


 割れたエリンギを買い取り窓口に出しながら独り言を言うと、リタが答える。


「やってみればいいじゃない」

「こないだからやってるんだが、どうしても腕の中にMP1の力を出せない。5をばらそうとしても球を五等分のイメージがうまく作れなくて再吸収される」


 闘気打や闘気斬の霊力は拳や手の平に直接起きて、皮膚に張り付くような感じで飛ばせない。


「ソーセージみたいな形にして切れないの?」

「そんな形になるのか、霊力」

「そう出来ないのって聞いてるの」

「出来ないってのは、思い込みか?」


 腕の中に霊力を起こし、丸いパン種を伸ばすイメージで管状にする。五等分にして丸めようとしたら勝手に丸まった。


「出来た! ポンプアクションの弾倉みたいだけど。リボルバーの蓮根をイメージしてたのが間違いだったかも!」

「また訳わかんない事言ってるけど、出来たの?」

「やらせといてそれはないだろ。孤児院行って試し撃ちしたい。あそこのサンドバッグなら威力の比較が出来る」


 腕の中に力を保持したまま動こうとしたら消えた。MPが減った感じはない。


「弾持ったまま動けないな。今は出来ないだけかもしれない」


 出来ないが固定観念にならないように予防した。


 孤児院の裏庭に行くと、子供達が潅木を細かくして薪を作っていた。

 まだ終わってないのか、と思ったが70本取って来たんだった。他にも取って来たのがいるかもしれないし。

 そんな事を考えながら見ていると、リノだかマルシオだかが俺を見つけて、仕事を放り出して走ってくる。当然相方もやって来る。


「兄貴! 新しい技出来たの?!」

「新しいんじゃなくて、ハンドキャノンが完成しそうなんだ」


 どこかで見たような目で仰ぎ見られる。あ、肉欲しい時のツンの目だ。

 監視していた神官に目を合わせると、子供達に作業を中止させた。


「見せてもらっても、よいのでしょうか」

「え? あ、そうか。個人技は奥義とか秘技みたいな扱いなんでしたね。ハンドキャノンは孤児院の伝承技にするつもりです」

「それは、ありがたいです。神殿主様にお伝えしますので、お待ちいただけますか?」

「はい」


 若い神官は右手の拳を左手で包み、胸に付けて目を閉じて俯く。

 大概正神官以上は「心話力」テレパシーで話し合える。

 大事になったな。伝承技の寄進なんて言ったら神殿主様が来ないはずがないが。


 神殿主様の他にもぞろぞろといっぱい見物が出てきた。

 なんか恥かしくなってきたので、一礼してサンドバッグに向き合う。

 霊力を伸ばして等分するイメージを固定化するために、呪文のように「ロード」と呟いて見る。案外呪文もそんなものかもしれない。

 出来た五つの弾を保ったまま腕を動かしても、消えない。よし。

 撃つとサンドバッグが跳ね上がった。十分威力はある。2発撃ち、3発撃ち、ファニング的な高速連射も出来る。

 色々試した後、子供達に向き合う。


「ただで教えるから、出来るようになったら下の者に教えるように」


 それから神殿主様の前に行きもう一度一礼する。


「ハンドキャノンを伝承技として寄進します」

「母なる神の子タカヒロの誠意を受けました。何か、手伝える事がありましょうか」

「熟練度を速く上げる方法は、ないんでしょうか」

「上げるだけなら、スライムの洞窟に行くのが良いのですが」


 この人にしては珍しい、所謂奥歯に物がはさまった様な言い方だ。

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