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西郷さんがツンを連れてキノコ狩りに行くようです

 朝飯にもモミジが一枚付いていた。安くて栄養価のある野菜なので、キノコ目当てでもモミジガサも採って来て欲しいと買い取りの時に言われた。

 エリンギもモミジも森の霊気の余剰部分で、森がある限りなくならないそうだ。

 朝飯を食べ終わってから、気になっていた事をリタに聞いた。


「昼飯ってないの? まあ、前のとこでも昔は二食だったんだけど、おやつはあったんだ」


 食べ物の事をツンに聞いても正確な情報を得られない気がした俺だったのです。

 やっぱりツンが反応しているが、無駄口は利かない。


「戦闘とかしたら、何か食べるのもいいかもね。オヤツってなんだか判らないけど」

「子供は胃が小さいから回数分けて食べないとつらいだろ。だから食事の間にちょっと菓子を食べさせるんだ」

「貴族はそんなことする、と言う噂なら聞いたことがあるわ」

『前の世界でも二食のころは庶民は栄養失調が普通だったみたいなんだけど、余裕があれば食べてたみたいだな。ちょっとつまめる物を持ってくくらいの余裕はあるね。明日の宿代を心配してたのはいつの事だったんだか」

「一昨日でしょ」


 これってこの世界と俺のずれじゃなくて、リタの個人的なものだよな。


 売ってるとこで聞いたほうが早いので、神殿内の売店に行った。なんでこっちに気付かなかったんだか。

 持って歩ける食べ物は干しブドウと雑穀っぽいビスケット、ドライソーセージモドキがあった。

 ツンが無言で2本1ギムのソーセージモドキに反応するので8本買った。一人2本ずつだぞ。

 ちなみにブドウは干さないと甘味が足りないので生食の習慣がない。ブドウ酒はある。


 エリンギを怖がる必要がないので、少し奥に入ってからモミジを採る。待ってると来ないもんだ。

 四人ともモミジの袋がいっぱいになったのでもう少し奥に行ってみたら早速お出ましになった。

 跳ねたところに三人が闘気弾を放つが、勢いは落ちない。狙い撃ちの練習なので当ればそれでいい。

 着地して頭突き態勢に入ったところで俺が撃つ。

 エリンギが高速バク転して春風が来た。

 後頭部強打とかじゃなくて俺の攻撃で死んでるっぽい。だいたいキノコに脳ミソとかあるのか。

 俺の拳はなんともない。でも攻撃力上がるかもしれないから正拳腕立て伏せは続けるつもり。

 ツンが妙に気に入ったし。横から見るのを俺も気に入ってる。


 狩猟本能全開ダッシュでツンが獲物を取って来る。20キロ抱えても短距離だとあまりスピードが変わらない。

 これで獣人としては非力な種族の中でも小柄でまだ子供なんだから、大人の狼型とかどんだけ強いんだろう。

 ツンは草原や岩場で暮す小型の狼、コヨーテが獣人化したラース族だった。

 柴犬も狼に近いらしいけど。


 スライムジュースでMPを回復してから移動。エリンギ見つけたらサンドバック。これの繰り返しで7匹獲った。

 モミジが4袋あるからここまでの稼ぎだけで1100ギム。あと5匹獲れたら俺の取り分の半分が丁度400ギム。三日で三人にも硬革の手袋を買ってやれる。


 無理をしないで休憩にした。お待ちかねのソーセージモドキを配る。

 ツンがずるい目でこっちを見たが、2本いっぺんに咥えてやった。いつまでも負けてる俺じゃないよ。


 休憩の後3匹目を獲った時にツンが妙な声を出した。


「んぁあああ……」


 なんか別の事をしている時のようだ。ツンはそれしてても声出さないけど。


「レベルアップした?」


 リタに聞かれてツンは無言で頷く。

 しかしこれ、周りに敵がいたらまずくないか?


「レベルアップの時にこうなると、敵いたらだめじゃないか」

「敵に囲まれた時だと隙が出来て死ぬこともあるよ。経験値は正確には判らないから、気を付けてないといけないの」

「レベルアップで死んじゃたまらんな」


 この世界はゲームじゃない。半歩踏み出し間違えただけで死ぬ恐れがあるのを再認識した。


 更に2匹獲ったところでリタとロレナが同時にレベルアップした。

 嬉しいのは判るけど、二人の世界に入って抱き合わないように。ここは敵地なんだから。

 俺なりの目標に達したのでとっとと帰ろうと思い、森の縁を回らずに直線で街道に出ようとしたのがいけなかった。

 道に出るまでに5匹獲ってしまった。しかも、最後の1匹で俺がレベルアップした。

 ちょっと速いエレベーターに乗ったときのふわっとした感じが全身の快楽で来る。

 こりゃ、声出るわ。快感が来る予備知識なかったら別のもんも出そう。


「あっしのレベルが上がりやした」

 

 独りでやってても虚しいが、ついやってしまう。何歳だったんだろう俺。

 なんか、リタの目が冷たい。


 そんなことで浮かれていられたのは森を出るまでだった。

 開けた視界と日に照らされて、自分のした事を理解した。俺は三人を殺すところだったのだ。

 もしエリンギが5匹一度に襲ってきていたら、俺は兎も角、三人はろくな装備も戦闘力もない。

 エリンギの体当たりは20キロの硬質ゴムが高速で飛んでくるのと同じだ。当ったらひとたまりもない。


 5匹以上が一度に出てくる可能性はかなり低いが、ゼロではない。

 森の縁を回っても複数に襲われる可能性はあるが、それは歩道を歩いていて暴走車に轢かれるようなものだ。

 俺は近道をするために車道を歩いた。

 ナイフしか持っていなかったチンピラが拳銃を拾っていい気になっていたようなものだった。

 ツンのレベルアップを見てこの世界の危険を再認識したつもりだったのに。


「済まない。みんなを殺すところだった」


 いきなり謝られて三人とも困惑顔なので説明する。

 リタがそんなこと、と言い掛けてやっぱりだめだよね、と同意した。

 気を付けようと誓い合って、妙に湿っぽく帰ったので、警備兵に心配されてしまった。

 訳を話してから、ステータスを確認してもらうとMPが31に増えていた。普通戦士系のレベル7では2か3しか増えないそうだ。

 ガビランがMP売ったのはこのMPが伸びやすい体質のせいもあったようだ。

 ハンドキャノンを6発撃てる。ハンドキャノンは5連発だったかな? 何かがちょっと引っ掛かる。


 神殿の買取係にエリンギを見せると「無茶しちゃだめよ」と軽く怒られた。

 無茶じゃなく、横着した結果なんですが。

 モミジはそんなに真剣に採らなかったので408、エリンギは1780で売れた。

 俺の取り分が1000ギム越え。昨日の見物料の残りを足せば三人分手袋を買える。

 自分達の分から出すと誤解されないように分け前を渡してから、銀貨を見せて提案した。


「三人分買っても400余る。結局買うんだから、早い方がいいと思うんだが」


 近道の危険性の事もあり、育成の一環として三人とも遠慮はしなかった。

 手袋を買ってギルドを出ると暗くなっていた。

 ガス灯のような街灯が点いている。光は青白い。

 見覚えがあるのはデジャヴュじゃなくて、LEDだな。ん?


「そうか、俺のハンドキャノンはLEDなんだ」

「何? また急に」

 

 当然のようにリタが俺の相手をする。


「前の世界電気を明かりにしてたけど、白熱電球の十分の一くらいのエネルギーで同じ明るさのが出来たんだ。音速を超えて飛ぶ武器の概念のあるなしだけでこんなに威力が違うのかと思ってたんだが、エネルギーの使い方自体が違うのかもしれない」

「何言ってるか判らないけど、何か判ったっぽいのは判ったわ」


 なんか、リタに見捨てられたっぽい。

 ま、それは置いといて、ハンドキャノンを伝えられる可能性が出てきた。

 たとえバリスタでも熟練度が上がればエリンギは獲れるだろう。モミジとエリンギ1本獲れれば孤児院を出たばかりの駆け出しでも生活が出来るはずだ。

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