西郷さんがツンを連れて手袋を買いに行くようです
ロレナは全体的に平均より能力が高いが、突出したものがないのでパーティーでは使い辛いのだそうだ。
オール3.5より、2いっぱいだけど5もある方が冒険者としてはいいんだね。
パーティー入りのことは後で話して驚かせたいとリタに言われて、まず防具を買う。
丁度装備売買の窓口がロレナだった。
小麦色の肌は同じだが全体にリタより細い、直毛と思われる髪をポニーテールにした大人しそうな子だ。
今のところ人間は黒髪しかいない。
「この手に合う手袋を下さい」
日本人にもほとんど判らない事をしてみる。どうせ自己満足ならツンの手でやったほうが良かったかな? 防具などが装備者に合わせて魔法で大きさが変わるのは来る途中で教えられた。
ロレナはきょとんとした後、助けを求めてリタを見る。
「昨日話したタカヒロよ。時々別の世界のことを言うから気にしなくていいわ」
気にしなくていいのかよ。
ロレナはとりあえず仕事する。
「装備はある程度大きさの融通は利くから。鍛冶屋の魔法なの。手袋でいいの? 」
「や、値段によるけど篭手とかでも。ファイティンググラブとか、バトルグローブみたいな攻撃用でもあるのがいいんだが。1000ギム以内で」
「金属製なら殴っても痛いけど、それっぽいのはこれかな」
丈夫な革の手袋に追加装甲的な厚革をナックルと甲に張ったものを出してきた。
「硬革の手袋400ギムね。攻撃力は600ギムの硬革の篭手と同じよ。この上だと銅の篭手800ギム」
「ちなみに一番高いのは?」
「ここだと鋼の篭手3000ギムね。その上は鍛冶屋が売ってるか材料持ち込みで造ってもらうの」
「そうか。今のぺらぺらの皮手袋でも2発撃てるから、硬革の手袋でいいかな。エリンギ獲りまくって四人分鋼の篭手買ってから一つ上の獲物に行くくらいでいいんだよな」
「四人?」
いぶかしむロレナにアルカリックスマイルを見せてから、リタに引き継ぐ。
「あんたも一緒に来ないかって。経験値は何人でも一緒だから」
「ここを辞める事になるなら取り分は六分の一だ」
ロレナは「えぇ?」と言って両手を合わせて口を押さえて固まる。
なんか、凄く少女っぽくて可愛い。
どこからか現われた黒ジャガ支部長に肩を叩かれて、ロレナはぴくっと震えた。
「外壁警備から連絡があった。こいつ面白い個人技出来るぞ。キノコなら安全みたいだ。キノコが舐めて襲ってくる低レベルが10倍消費で狩るのはよくあるんだが、普通は殴って獲るんだよ。キノコは群れねえがたまに何かの死体に何本かたかってる事がある」
さり気なく情報をくれる。軽く頭を下げると、ジャガイモがにっと笑う。
「カマキリ狩りに良さそうな技だからな。若いの育ててくれると街が助かる」
草原に小型のカマキリの魔獣がいるのだと言う。地球のカマキリとほぼ同じ虫がいて、それが比較的簡単に魔獣化するので定期的に狩る必要があるらしい。
カマキリは魚を誘き寄せる餌になるので外壁周囲にいる小型のでも100Gで売れる。
エリンギを獲っていた方が安全だが、バッタの干物を酒で戻して焼くと寄って来るので、確実に倒せるなら探す手間がいらない。
熟練度が上がったらやってみると言ってロレナを加えてギルドから出ると、中央通を武装のない兵員輸送車のような大型の装甲車が走っていた。
「なんだこれ。車あるのか。魔法で動くのか? ガソリンエンジン?」
俺に返事をするのはリタの役目になっている。
「蒸気で動く乗り合いバスだよ。街の間の移動はこれに乗るの。荷物の輸送なんかもね」
「こんなのあるならもっと文明発達しててもよくないか?」
「あんまり強い魔法で動くの造ると魔獣化するの。ずっと前に人間滅び掛けたんだって」
機械文明トラウマなのか。霊気の濃いところには強力な魔獣もいるから石油なんか掘れないのかもしれない。
買った手袋でどのくらい連射出来るか試すために外壁に行く。
警備兵にバリスタは闘気弾の熟練度が10じゃないと習得出来ないと報告された。
三人にも空撃ちでもさせた方がいいか。
猟師の子のツンと傭兵の子のロレナが闘気弾を使えるのは不思議はないが、小作人の子で神官見習いの下の「お使い」のリタもなぜか使える。
スライムジュースで回復して四連射してみたが、一発殴った程度のダメージしかなかった。
拳を鍛えればいいのかもしれない。よし、寝る前に正拳腕立て伏せだな。
後は特にないので飯食って寝るだけである。眠るまでに色々あるけど。
定食はメインが肉団子とエリンギの炒め物が選べた。
見本の皿のエリンギはちょっと盛りが少ない。無難に肉団子にする。
小皿に焼いたモミジが1枚乗っていた。かじって見ると厚手のポテトチップ緑黄色野菜味だった。
スープには刻んだモミジの茎が入っていて、少しコクが増していた。
金があるので定食の他にソーセージ一皿6本3ギムと言うものを二人で一皿取った。
見た目はやや細身のフランクフルト。3本ずつ取り分けて1本食べてみる。
地鶏的な癖のある鶏肉のようだ。
何で出来ているかリタに聞く。異世界のソーセージの中身を聞くのはかなりな冒険かもしれないが。
「魚とバッタだったと思う。小魚は湖で獲れるの。海の使うと味が違うらしいけど」
「バッタそんなにたくさん獲れるのか? 原っぱ危ないんだろ」
「普通人間サイズの魔獣の方をバッタって言うの」
まあ、異世界だし。肉団子より味がいいので2本は取って置いて団子を片付ける。
エリンギより安い肉団子が何で出来てるかは考えるのよそう。
団子が終わったところでうっかりツンと目を合わせてしまった。
もちろんツンの皿には何もない。
ツンの幸せは俺が一緒に飯を食うことではなく、俺と一緒に飯を食うことだ。
俺は居ればいいだけで俺が食えるかどうかは関係がない。
いや、俺の飯を一緒に食いたい。2本ある俺のソーセージ……。
美味しい物は先に食べると心に誓った俺だった。
食う物がなくなると途端に無口な子犬がなついて来る。
朝出る前に部屋は確保しておいたので行こうとすると、リタが変な事を言う。
「一人部屋二つ借りると60ギムだけど二人部屋なら50ギムだよ。まだ変更出来るから」
「ツン今日は一緒じゃないの?」
「あたいはずっと一緒だよ。でも姉ちゃん達も、もう神殿や孤児院には泊まれないの」
ツンが答える。なんか珍しい気がする。
「まあ、それは、そうか。しかし、二人部屋で四人泊まるのか? 俺、大人の男な訳だが」
「ロレナは女同士の方が気が楽ってだけで、男が怖いわけじゃないから」
リタがさらっと言った。
「や、夜寝る前に正拳腕立て伏せ以外にもする事があるのは判ってるよね?」
「気になるほどうるさくなきゃいいの。孤児院でも好きな子同士は一緒に寝るよ」
それでいいのか。地母神偉大だ。母なる神に感謝します。
ツンが声出さないのもそう言う事か。慣れてるってこと?
その辺は気にしない方がいいな。
二部屋頼むことにした。宿代は食事と同じにリーダーの払いになる。
二人の裸をちらっと考えなかったとは言わないが、一晩中四人はちょっと気が散る。
ツンがいてくれればいいんだ。