西郷さんがツンを連れて柴刈りに行くようです
「もしかして、ツンて名前なのか」
そうとしか思えないが一応確認する。
「うん。ウサギ狩りに行くんだよね」
ツンは巻き尾をぶんぶん振って答える。
「いや、今言ったのは別の西郷さんとツンの話。苗字が同じでも一族ではないんだ。こっちのツンは犬だし」
犬じゃない柴犬顔が困り顔になってリタを見る。
「タカヒロはちょっと前に別の世界から来たばかりなんだよ。柴刈りがいいとこだね」
「柴刈りでもいいよ、連れてって」
柴犬娘は仲間になりたそうにこちらを見ている。
耳と尻尾に気を取られたが、細身でチビなのに胸はリタより大きい。二人とも貫頭衣一枚なんだと思ったら17歳の肉体が健康的な反応をしてしまったので、下の方の依頼を見るふりをして前屈みになる。
「柴刈りないぞ」
「わざわざ依頼出すようなもんじゃないから。荒地は霊気が薄いから魔獣は出ないけど、毒蛇くらいはいるからツンを連れてってもいいんじゃない。この子あたしらより勘がいいから」
「毒蛇とかサソリとか普通にいるんだろうな」
断れない雰囲気を作られてしまって、犬耳ロリ巨乳が仲間になった。
いやじゃないけど、腰のところしか縫われていない貫頭衣の横から小麦色の山の大部分が見えてしまうのが困りもの。
尻尾があるから後ろは、はしょってある。所謂山笠少女の褌抜きバージョン。
まだ子供で骨盤の傾斜が大きいのか種族的な特徴か、くるっと丸い。
ギルドには他にも獣人がいて、男女とも素肌に鎧みたいな格好だった。一々反応していたら限がないのかもしれない。
ツンはまだ13歳で孤児院の子で、一旦神殿に戻って外出許可をもらった。ついでに水筒に水を入れたり、5個10ギムのスライムジュースと言う名前がちょっと気になる安いMP回復薬を買った。
薄水色のビー玉のようなもので、口に入れると溶けるが戦闘中は無意識で口の中も霊障壁で覆われるので溶けないそうだ。胃でも溶けるが時間が掛かる。アミラーゼで溶けるんだろうか。
戦闘中に使用できない回復アイテムってこんな訳か。
この街トラステクトリはこの世界の街では大きい方らしい。トンネルのような分厚い街壁の正門を出ると、道の右側は荒野、左は胸より高い雑草で覆われていたが街壁にそって道がある。
荒野には箒の穂を逆さにしたような潅木が生えていた。これを根元近くから伐って薪にするのだそうだ。
毒蛇や毒虫避けに拾った枝で地面を叩きながら歩く。
「出来るだけ大きいのをね。アイテムバッグは一本は一本だから」
地形がそこそこデコボコなので、生えている木の高さが判らない。
リタはきょろきょろ探すが、ツンが見てない方向を指差した。手を引かれて連れて行かれると、潅木とも言えない3メートルくらいのがあった。
闘気斬の一撃で切り倒す。アイテムバッグのいり口を切り口に当てると、軽く押しただけで吸い込まれるように入ってしまった。
ガビランが欲しがったのが判る。霊力は50単位5万ギムで売れるらしい。子袋も入れて全部使ってしまった訳だ。
50本伐ったところで肝心なことを聞いていなかったのを思い出す。
「これ一本いくらだ?」
「3ギムのを選んでるつもりだけど大きいのはほとんど取ったから、もう後は2ギムかな」
「後20本刈るとして190ギムか。スライムジュースは必要経費として180を三人で分けて60ずつ。一日分の稼ぎにはなるな」
ツンが抱きついて来て顔を擦り付ける。猫か。
気持ちをどう表現していいのか判らないらしく、しがみついて足と尻尾をやたらばたばたする。
リタが説明した。
「二人ともただの案内だから10ギムでいいのよ。アイテムバッグあれば一人でやれる仕事なんだから。『育成』でもあたし達が六分の一ずつ、三分の二がタカヒロの取り分だよ」
「育成ってなんだ?」
「卒業に近い子を連れて出て、装備買う金をくれるの。能力のある先輩がしてくれること。あたし神殿で働いてるけど、神官の能力低いのよね。ほんとは回復の出来る戦士になりたいんだけど」
部屋で剣を見ていた理由はこれだった。
孤児院は15歳になったら出て働かなければならない。リタは14歳だがすでに職業があるので孤児院には戻れないが、育成を受けるのはかまわないのだと言う。15歳までに思うように資金が貯まらなければまた神殿に雇ってもらえる。
「この木明日来るとまた3ギムのが見つかるのか? 他にも取りに来るのもいるだろうし。少なめに見積もって稼ぎが130。多めに渡しても25ギムだぞ。部屋代も稼げない」
「そりゃ、柴刈りならね。モミジガサ採ればもう少し儲かるよ」
「依頼の一番下の山菜か」
「外壁左に行くとある森にいっぱい生えてるんだよ。ちょっとでも奥に行くとキノコ出るけどね」
「出てくるって事はモンスター? マイコニドみたいな?」
「そう、人食いキノコ。あの森で白いものが見えたら攻撃していいの。白い服とか入れ物とか持ってっちゃだめ」
「肌白かったらどうするんだ」
「死にたくなきゃなんか塗るの」
神の子は神殿に売っていいと言われて、潅木を神殿に売った。
孤児院の裏に連れて行かれてそこに積み上げる。アイテムバッグ持っていると楽だと喜ばれた。子供達が薪にして、仕事として小遣いが払われるそうだ。
二人のおかげで早く柴刈りが終わったので、食堂は空いていた。
食事前に二人に30ギム払い、更に客用の夕食代を出す。四人掛けのテーブルで向いにリタ、左にツンが座る。
ツンは俺の左手を掴んで放さなかったが、料理が来た途端に飲み込むように食べ出した。
メインはなんだか判らない肉の肉団子だった。山盛りではないがそれなりの量がある。味はマトン寄りの魚肉ソーセージ。
スープは朝のよりは少し何か入っている感じ。あとはナンじゃないのが三枚。
あっという間に自分の肉団子を食べてしまった柴犬が俺の皿を見て尻尾を振る。そんな目で見るな。俺だって育ち盛りだから。
少し遅れて正面からも視線を感じるようになった。団子があと二つになって耐えられなくなった。
「肉団子だけ頼めるなら、一皿とって二人で分けろよ」
明日からは一皿余分に獲るのが当然になるんだな。200円で機嫌が良けりゃ安いもんだ。
食事を終えて明日二人をモミジ狩りに連れて行く許可をもらう。
側で聞いていたポンチョ風の短い袖口に控えめな模様の入った神官に、ツンがいれば大丈夫でしょと言われてリタはむくれた。
「明日は早く行かないと入り口辺りのは取られちゃうから、寝坊しないでね」
八つ当たりする14歳。ま、まだ子供だ。
食う物がなくなってまた俺にしがみついたツンが答える。
「だいじょぶ。あたい一緒に寝て起こすから」
おい、何言い出すんだ。
「一人部屋に二人でいいのかよ」
「泊まる方が狭くなきゃいいのよ。朝飯代二人分になるけど」
むくれた14歳が答える。
一瞬、なんで飯代こっち持ちと思ったが2ギムでツンと一晩過ごせるのか。地母神の神殿だから、その辺りの戒律は緩いのだろか。
リタの話では寝る時は基本着てないなので、もし、子犬がいつも一緒にいたい的な気持ちだったとしてもかまわない。
ツンが抱えた俺の腕を引っ張る。
「部屋の洗い場の水桶自分で汲んで持って上がればただだよ。寝る前に水浴びして、服は洗わないと。臭いと獲物が逃げたり魔獣が寄ってきたりするから」
「そんなに敏感なのか? 魔獣の方が臭そうだけど」
「孤児院ではそう教えられるけど、洗い場の下水は神殿の畑に繋がってるの」
1歳違うだけで情報がだいぶ違うな。
部屋に四つあった備え付けの木の手桶を二つずつ持って、宿泊施設の裏の井戸に行った。
手押しポンプが付いていた。文明全体中世ではないようだ。
桶を洗ってから水を入れ、飲める水なので水筒も入れ替える。ここから流れた水も畑に行くのだろう。
部屋は日本人の感覚では全体に広めと言うか大きめに造られていた。ギルドにいた獣人の男には2メートル近いのもいた。種族で大型のもいるのかもしれない。
半畳ほどのトイレ兼シャワールームの洗い場の前に桶を置くと、ツンはさっと貫頭衣を脱いだ。
アンダーバストやウエストが想像していたより細い。体つきに比べて大きめだと思っていた胸はアンバランスに大きい。
華奢ではない。手足も細いがしっかり筋肉が付いており、腹筋も割れている。顔は柴犬だが体はドーベルマンだった。
背中は毛があるかと思ったが、こちらと同じく首から下には体毛がない。
「先に洗うか」と声を掛けると「いっしょに」と笑いながら答える。
もう隠すこともないので脱ぐと、ツンは手じゃないところを持って引く。
引っ張りやすい形状にはなっているのだが。
「それ、持つとこじゃないから」
「うん。どう使うか知ってる」
ツンはかまって欲しい子犬ではなかった。
この世界に来て初めての夜は長かった。