西郷さんがツンを連れて洞窟探検に行くようです
出来上がったサワガニガントレッドは、オーバーガードが赤かった。七面鳥戦の教訓から、俺とロレナも盾を止めてオーバーガードにした。
銅赤ガラスのような、黒ずんだ赤で、男物としても派手ではない。
「ほら、複合装甲ってやつ、試したんだ。全員分で一番効果的なのはそこだから」
カサンドラの茶色い頬も赤くなっている。ボタンエビの殻全部は強欲過ぎた。
「ボタンエビ張り付けたのか。カニより表面が硬い?」
「ああ、薄いけどな。下にそれなりの物がありゃ、その厚みのボタンエビと変わらねえ」
「それではこれはサワガニの篭手ではなく、ボタンエビの篭手ではないのか」
「なに言ってんでぇ、オーバーガードだけだから、篭手はサワガニでぇ」
「それなら、ボタンエビ食うか?」
「それなら、で話繋がらねえだろ」
「食わないのか」
「食うよ!」
皿を持って来させて、100グラム一切れを小袋から出して乗せる。
なんで最初に獲れた時に、100グラムの切り身が小袋に100切れ入るのに気付かなかったんだか。
「せめて、もう一切れくれよ」
「オケラについて、何か知らないか」
「人間そっくりな虫でえ」
「それだけか」
「日に当らねえから肌がなまっちろい」
「他には」
「虫のくせに乳がでかい」
「この話は無かった事にしてもらおうか」
ボタンエビの切り身をしまうふりをする。
「いいかげんにしろ! まともに話せ」
「30年以上前にオケラを獲っていた男について、ギルドにない情報が鍛冶屋にあるんじゃないかと」
「それ、オレに言ってどうなる」
「知ってそうなのをこれで釣れないか。オケラが手に入ればボタンエビ食べ放題だ」
「しかし、どんな事が聞きたいんだ」
「何時、どんな材料を持ち込んだかで、行っていた場所が判るかもしれない。今のところ一切手掛かりがないんだ」
猫にカツブシを預けるような気分でボタンエビ100切れをカサンドラに預け、早目の夕食を取って寝る。
翌日、北門が開くのを待ってスライムの洞窟に向った。
洞窟に到着後、スライムを潰しながら1層の奥に着いたところで丁度正午になった。
1日は円を四等分の三等分で24時間である。機械式の時計が存在していて、それ程高くない。コカマ大量虐殺の頃に一般的な懐中時計を買った。
ほとんど地軸が傾いていないので、庶民は日時計で十分だったりする。
暗くなるまでに外壁が見えるところまで帰るとすると、2時間くらいしか探索の余裕がない。
この洞窟のめんどくさいところは、帰りにスライムが復活している事だ。無駄に時間を取られる。
洞窟の内部調査をしたい訳ではない。目の前の降りやすい崖を降りて、下にいるコオロギを獲りたいだけだ。
まず、崖に魔法の発光袋を落とす。A液の入った透明な軟質ガラス(ビニール並みに薄く柔らかく、薬品耐性のある優れもの)の袋に、別のビンのB液を入れると光る。成分は企業秘密。
ツンとルシアナが降りて索敵、全員降りたところで一番霊障壁値が高い俺が正面に立って、もう一袋発光袋を遠投する。
それを返すように光が飛んで来た。盾を持っていた時の癖で左腕で受ける。盾を持っている時は攻撃を受けた事はなかったのだけど。
肩まで痛みが走り、左腕全体が痺れた。半減装備をしていてこれか。
アリアドナさんが即座に回復してくれるが、ツンの生体レーダーにも掛からないとは。
「ロード」
アリアドナさんのMPは回復用に温存し、残り全員でハンドキャノンを乱射する。MPは一番少ないロレナでも100以上、俺は200を越えている。
ナマズで闘気弾が跳弾するのは判っている。ここの壁でも跳弾するのも1階で確認済み。わざと壁や天井も撃ってまぐれ当たりを狙う。
MPを30消費したところで一旦撃ち方止め。薄明かりの中に3匹倒れていた。肌は白く、仰向けだと高学年の小学生にしか見えない。うつ伏せの背中には翅が生えている。
ハンドキャノンで止めをさす。
敵の気配が感じられないので、スライムジュースをなめてみたら溶けた。
MPを回復してから死体を回収し、落ちているかもしれない魄を探す。倒したのではなく自然死したのが落としたのがあるんじゃないかと。
夜目の利くルシアナと霊魂的なものを感じ取れるアリアドナさんが探し、他は周辺警戒。暗いとツンの視力は当てにならない。しかし、最初の不意打ちはどうやったんだろう。
2層は奥が右に曲がり、曲がり角に下に下りる比較的緩やかな坂がある。ここまではギルドで教えてもらった。
分岐点の手前までで「雷の矢」入り魄が三つ見つかった。肌に触れていないと装備した事にならないので、篭手の中に入れると、雷の矢が使える。少し強くなった感じもする。
人数分欲しいなんて考えると危険なのだが、、思い付きを説明して、曲がり道に発光袋を投げさせると同時に伏せた。
頭の上を雷の矢が通り過ぎる。ばら撒くように応射。他の者も5連射を撃ち込む。
壁際に1匹仰向けに倒れて死んでいた。相手のテリトリーに入り込んで一方的に殺しているのは他の狩りも同じなのだが、コオロギきつい。
素直に魄を渡せば命までは取らねえのによう。どんな悪党だ。自分の魄渡したら死ぬし。
それにしても、今まで伏射すらやっていなかった。
一人で壁に張り付き、しゃがんで移動する。曲がり道の内側なら、直線でしか飛ばない魔法の不意打ちはないはずだ。
相手が同じ側に張り付いている可能性を考慮して、左手にボタンエビカットラスを握っている。盾捨てて正解。
少し行くとツンがやって来て、服の裾を引いた。見えなくなったら俺の気配が感じられなくなったのだ。
「ここの壁、霊気遮断するのか」
不意打ちの仕掛けは判ったが、所々に突き出している岩の影に隠れられていると、かなり近くでも判らない。
前の背中が見えるくらいの距離を取ってしばらく進むと、広い空間に出た。
途端に複数発の雷の矢が飛んで来たので一旦退避。
発光袋を投げると、割と近くに全員隠れられる岩がある。
岩肌に張り付き弾幕を張る。その間にツンとルシアナが岩に隠れる。
魔法は移動しながら撃てるので、俺とアリアドナさんが援護しながら全員岩に移動して銃撃戦になった。
跳弾するのと弾数でこちらが有利で、手前の2匹が倒れる。しっかりした遮蔽物に隠れられていると埒が明かないので、天井を崩せないか対物ライフルを撃ったら、後ろの3匹が逃げた。
対物ライフルを撃ちまくったら全部逃げた。2匹死に損だな。
魄は7個落ちていた。コオロギが逃げて行った奥の道があるが、もう時間がない。
一番持久力のないツンに合わせて早足で帰ったが、カンテラの世話にはならずにすんだ。
ギルドの買取にコオロギを出す。高級食材で、依頼があらば高く売れるので、無理に売らなくてもいいと言われたが、売ってしまった。
この辺りの住人には色が白すぎて人間に見えないようだが、いわゆる肌色をしている。俺には小学生の死体にしか見えない。
金が入り、いつもの通り、みんなで騒ぎながら大飯を食う。念願の雷の矢の魄も人数分以上手に入れた。
銃撃戦でコオロギ達は明らかに協力していた。あの洞窟で魔獣化して、楽しい事はあったのだろうか。




