西郷さんがツンを連れて磯遊びに行くようです
冒険者ギルドで待っていると、ルシアナが熟練度10になって戻って来た。人気のない西の岩場近くで対物ライフルを撃ってみせた。
人間や獣人も善人ばかりとは言えない。今までの常識のアウトレンジから攻撃できる技は、誰彼かまわず教えられるものではない。
遠くにいたカニがこっちを見たが、襲っては来ない。生えている植物で霊気の濃さが判るので、ここまで来る事はないだろう。
「まず、消費5で撃ってみよう。こう、腕に出来た力を、一度手の中で圧縮するだろ」
全員が、は? と言う顔になる。
とりあえず口数の多いリタが発言する。
「なに、それ?」
「しないの? 圧縮?」
腕の霊力を武器に流すようにそのまま打ち出していたのだった。
「こんな簡単な事だったのか。LEDと白熱電球の違い」
奥義は睫毛、みたいな。
汗拭きのタオルを軽く丸め、腕に乗せて手の平に滑らせ、ぎゅっと握ってみせる。
「これで、イメージ出来るかな。ほんとにイメージの勝負なんだよね」
もう一度俺が撃ってみせる。
ルシアナは頷いて左手で右手を支えて構え、誰もいない海に向けて撃った。
何かに当らなくとも、空気が乱れるので有効射程はだいたい判る。
「対物ライフルだな。俺のと射程が変わらない。威力も同じだろう」
闘技も魔法も有効射程を出ると突然消える。
バリスタは20メートル強だが、ハンドキャノンも対物ライフルも50メートルある。
感動覚めやらずぼうっとしているルシアナに、ハンドキャノンを試すように促す。
五分割のイメージはみんなに話してある。
「ロード」
ファニングで五連射。リロードして一発ずつや二点射、三点射も試した。
ルシアナはしばらく自分の拳を見つめた後、俺の胸に顔を擦り付けた。
猫系の獣人共通の、目上の肉親に対する親愛の情の表現だった。
「兄ちゃんて、呼んでも、いい?」
「いいよ」
恋人じゃないので、ツンもアリアドナさんも嫌な顔はしなかった。
パイナップルくらいのマツボックリを拾い、中の松の実を集めていると、二本腕のカニがいた。
下半身のカニの口の横にチョキの小さな腕があり、松の実を出して食べていた。
小さ目と言っても、上半身はツンより少しでかい。
距離は約30メートル。上の口が吐く衝撃波的なロアも、シミター風の前腕から飛ばす斬撃も射程は20メートルだ。
ハゲの組合長を信じて、ルシアナと二人でカニと人間の境目に対物ライフルを撃ち込んだら、あっけなく倒れた。
まだ生きているので、ツン、リタ、ロレナが圧縮型闘気弾の射程20メートルまで近付いて死ぬまで撃った。
腕が二本足りないってのはヤドカリなんだろうか? タラバガニだってヤドカリだから不味いってもんでもないんじゃないかな。
売値は1匹4770ギムだった。カニは1杯かな?
ついでに拾った松の実だけでクリを軽く越えた。
ここの神殿は出張所みたいなものなので、寝泊りも食事もギルドでする。
金があるので、酒を飲まない分海の幸を食い荒らした。
なんでこんないい狩場が放置されてるんだと思ったが、俺達は虎の出る森に高性能ライフル持って松の実拾いに行っていた。高性能生体探知機のツンもいる。
カニはなまじ丈夫な外骨格が災いして、衝撃が体内に篭ってしまい、死ななくてもショックで動けなくなる。
断末魔の一撃も出せないので、アリアドナさんもボコボコ叩いたり突いたりする。この人そんなの平気。
カニは朝早くに来るので、3、4匹獲ったら午前中松の実を拾い、午後からはツン、リタ、ロレナはスライムの洞窟に行き、残りの三人で浜に行く。
初日にカモメが襲ってきたが、対物ライフル2発同時当てしてやったら近付かなくなった。
狙いはナメクジ。貝なので、干すといい出汁が出る。
茶色のでかいナメクジの下半身に人間の女の上半身が乗っている。繁殖するタイプではなく、メスだけが魔獣化する。貝ってオスメスあったっけ? この世界ではあるんだ。
浜に無数にいる小さいカニを食べに上がって来るのだが「水の矢」と言う射程20メートル強の貫通力の高い魔法を持っている。
カモメも近付かないので無心に小ガニを食べているのをアウトレンジから狙い撃つ。死に損なって逃げようとするのはアリアドナさんがボコる。体を鍛えるためか、砂浜走りたがる。
とろいので、30メートルくらい離れていても追い付ける。その時は俺達はカモメ警戒。
30匹くらい獲ったら魄が出てきた。薄水色の珠にひびの様な星が入っている。アリアドナさんに持たせたら「水の矢」が使えるようになった。
知力が高いので、ナメクジより威力がある。なぜか闘気弾を覚えられないアリアドナさんが遠距離攻撃を手に入れた。
全員がハンドキャノンと対物ライフルを使えるようになって、一旦カマキリを獲りに帰ることにして、漁業組合に挨拶に行った。
受付で済まそうとしたら、組合長が出てきた。
「トラステクトリの北西の湖にミズオオカマキリがいるだろ」
「いるんですか?」
「知らねえのか。いるんだよ。そいつの変種で色の濃い藍カマキリって奴がたまにいる。そいつはいい魚の餌になるんだが、カモメが恐れて近付かねえ面子なら獲れら。藍カマがありゃ、少し奥の浜から急に深みになってる場所で、水竜が獲れる事もあるぜ」
「あそこで漁するんですか」
「王族や大貴族、上位の騎士なんかが見てくれのいい鎧造るのに獲るんだ。騎士は自分で獲ったドラゴンの鎧欲しがるんだ」
水竜の篭手と革鎧か。夢と言うより欲望が膨らむな。




