放課後
「奏ちゃん!」
私の声で振り返るのは女の子みたいな男の子。
髪がふわふわで肩まである。目はパッチリしてて若干つり目。スポーツやるのに何故か色白な肌。
そして何より可愛いのは私より小さい身長!
「なに?俺部活の助っ人行かないとなんだけど。」
奏ちゃんの言葉で本題を思い出す。
「あ、そうそう。それなんだけど、いつ頃終わる?」
「わかんない。先帰ってていいんだよ?」
首を横にコテっとかしげるその仕草。あざとい。
「ううん。私も仕事あるから別にいいんだ。逆に待たせそうで…」
「俺は別に奏くん待っててもいいんだよね。取り敢えず終わったら連絡するから!」
ニコッと笑って走り去る小さな背中を眺めてひたすら可愛いなしか思えない私を殴りたい。
むしろビンタした。
はたから見たら変人でしかないだろう。
「王子。何してるの?いくよ?」
後ろから私に声をかけたのは私と同じ生徒会所属の女の子。
高2なのに未だにツインテール。でも似合うから許しちゃう。
「あ、悠音ちゃん。今行く。」
彼女の後ろを追いかける。
「王子さ、これから職員室行ってこれに印鑑もらってきてよ。それか生徒会室で寝てるであろう嶋崎会長起こしてよ。」
歩きながら後ろ手にプリントを渡される。
「あ、面倒なんで職員室行ってきますね。」
階段の踊り場で別れる。なるべくはやく階段を上がる。特別棟にある生徒会室は渡り廊下を渡るので階段で別れられればこっちのもの。
「あんのクソ会長がぁぁぁぁ!!」
階段前で叫ぶ悠音ちゃんの声。あの子を怒らせると怖いのでそっとしておく。
ここで悠音ちゃんの説明をしておこう。
合気道と剣道が強いと県内で噂の高校二年生。見た目は小柄でとても可愛らしい。強さと可愛さを兼ね備えた美しい人だ。
性格も真面目で、ダメなことはダメとはっきり言えるタイプ。だから会長のお世話係。
私がやると「甘いっ!」って悠音ちゃんが起こるのでやらないことにしている。
と、回想をお送りしているあいだに職員室前です。
「おう、小泉!ちょうど良かった。」
そういいながら職員室から出てきたのは今から会いに行こうと思っていた先生だった。
「あ、由紀ちゃん先生。これに目を通して印鑑ください。」
「ほいよ。」
由紀ちゃん先生。本名原田由紀。生徒会顧問の先生だ。
ノリはいいし、ここぞというときには頼りになるいい先生だと私は思う。
見た目は30前半に見られがちだが実際は45。若づくりババアってやつですよ。
「今すごくけなされた気分。」
「気のせいですよ。」
このように感が良すぎてたまに焦る。
「そうそう。先生何か用事あるんですか?」
印鑑をおされたプリントを返され、それと同時に先生の持っていたプリントも渡される。
「それ、6月の体育祭までの準備。よろしくね。」
「はい。了解です。今年も盛り上げてくださいね。」
「盛り上げんのお前らの仕事だろ!ま、がんばれ。」
ぽんと肩を叩かれ先生は再び職員室へ戻っていく。
取り敢えず仕事多くい…。手元のプリントをみてそれしか思わなかった。
そろそろ事態は落ち着いたと思われる頃を見計らい、特別棟にある生徒会室へむかった。
それまでのあいだは女の子たちとお話していたのであっという間に感じられたので問題ない。
1つの問題はこれが悠音ちゃんにバレると怒られるってことだけです。
とか思いながら扉を開けると案の定だった。
溜まっていた書類の整理を頑張る会長とそれを監視する悠音ちゃん。
「会長こんにちは。これ、由紀ちゃんからです。」
先ほど渡された体育祭の準備を促す紙をわたす。
「あ、印鑑もらってきたよ。」
悠音ちゃんには頼まれたプリント。
「そういえば門内先輩と相楽くんは?」
「2人なら部長会。ほら部活動調査しなきゃでしょ?新しい1年入ってくるんだからな。」
私の質問に答えたのは会長よ嶋崎先輩だった。
嶋崎先輩は常に眠たい人で、私でもなんでこんな人が会長になったのかわからない。
でも1つわかるのがなんだかんだで頼りになるってことだけ。
それは今度お話しましょうか。
「ねぇ、王子は誰に向かって話してるの?」
「え、私の脳内を読み取ってくれる女神さまたちに。」
「お前、素で言ってんなら病院進めるわ。あと何気なく俺を馬鹿にすんなよ。」
「すみません。つい。」
「ついってお前なー。少し顔がかっこよくてモテるからって調子のんなよ!」
「王子は王子だからいいんです。会長はャはやくそれ目を通せ下さい。」
「敬語は正しく使えよっ!」
会長はいじりがいがある方でいい人ですよ。
「お前黙れよ!」
そんな感じでやんややんやしてる私の放課後。
俺は本当にこれでいいのだろうか。
奏ちゃんと呼ばれ、可愛いともてはやされ、しまいには姫と呼ばれる。
これでもれっきとした男である。
「奏ちゃんシュート!」
ボールをサッカーゴールに向け思いっきりける。
「奏ちゃんナイスシュート!!」
ゴールキーパーの指をかすりネットへ突き抜けたボール。
部活内の練習試合とはいえ、みんな手を抜かずにやっている。
そんな中怪我人分を埋めるため呼ばれた俺。運動はどこかの王子とは比べものにならないほどある。
しかしその王子に勉学は敵わない。
「姫っ!下がって下がって!!」
「はーい。」
走りながらも考えるのは王子の事。
姫と王子の差はなんなんだ?性別的に逆だろ?
確かに王子はイケメンだけども。男である俺も羨ましいレベルのイケメンだけど。
モンモンと考えながら試合終了までプレイを続けた。
「奏ちゃん。何考えてたの?」
話しかけてきたのは小林。タオルとドリンクを俺に渡して地面に座り込む。
俺を見上げてニヤッと笑う。
「当ててやろうか?王子のことだろ。」
「え?な、なんで…」
「俺の感。まぁ座れ。」
小林は座っているすぐ横の地面をポンポンと軽く叩く。
横にストンと座ると小林より小さい。
「小林は大きいよな。羨ましいよ。」
はははっと笑う。
「俺はそんなにでかくねーよ。お前が少し小さめなだけだ。」
頭をくしゃくしゃとされる。
「や、やめてよ!俺だって男なんだよ?男が男の頭なでても誰も得しないって!」
「いや、一部のお姉様方には得なんだよ。」
こいつはなにを真顔で言っているのだろうか。
「まあ、王子は女子にしちゃでけーだけで、本人も気にしてると思うぞ?」
「いや、奏くんは自分が女の子にモテることを楽しんでるような人だよ?それはない。」
あーと空を仰ぐ小林を横目に地面に小石を投げつけた。
「しょうがないと割り切ればそれでいんだけどさ。あ、そろそろ帰るわ。奏くん待たせちゃう。」
「そっか、今日はありがとな!」
奏ちゃんを見送る小林はなんであいつあのしゃべり方で一人称が俺なのか。まずなんであいつは男なのかが気になった。
『部活終わった。今から着替えるから。』
それだけのメッセージを奏くんにいれて着替え始める。
着替えは割と早いほうなのですぐに部室をでることができた。
『迎えに行く』
既読のつかないメッセージを閉じ、特別校舎に向かった。
コンコンとドアがなる。
ノートパソコンの画面から目を離さず返事を返す。
ドアが開かれるまで誰かが対応するだろうと思っていた。
「奏くん。」
この声の主を見るまでは。
「え、奏ちゃん?ごめん、メッセージ見てなかった。」
「いいよー。それより。まだ終わらない?」
「んー後10分くれれば終わらせられそう。」
「じゃーいつものところで待ってる。」
ひらひらっと手を振り合い、画面に目を戻す。
急がねば。
「王子、後はやっておこうか?」
「ん?あ、大丈夫だよ。本当にあとすこしだし、自分の仕事は自分でやるべきだからさ。」
「わかった。頑張れ。」
軽く頷き資料と打ち込みを見比べる。入力ミスはなさそうだ。
かれこれ数分がたち、できた文面を会長に確認してもらうため印刷。印刷した書類を会長の机に置き、荷物をまとめる。
「お疲れ様でした!」
ドアを閉め走り出す。中庭のベンチにいるはずの人物の元へと。