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escape  作者: 紗凪 ケイ
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2

--- アカネ ---


 ホント、意味がわかんなかった。

 コウはああ言ってたけど、中に居た人が外に出てウワサを広めた以外にも可能性はあるのに。

 たとえば、外で待ってた人がいつまで経っても戻ってこない中の人に痺れを切らして帰ってみると、その人は結局帰ってこなかったーとか。

 ……やめよ、そういったの考えるとホントにそうなりそうだから。


 でもこの場合だと、あたしはトモを連れて出口を探すのが良いかな。

 男連中は一人でも平気だろうし、トモのこの状況はトモを連れてきたあたしに責任あるしね。

 あ、でも念のためって数人で分けて探すのかな。

 ちょっと広いけど、出口があるならきっと二階以上には無いだろうし。


「じゃあ、そうだな――」


 コウが口を開いた瞬間、上から『何か』が落ちてきた。

 べちゃり、と気持ち悪い音を立てて。

 あたしにはそれが何だか判らなかった。

 それと同時に、ズリッ、ズリッと、別の方向から何かを引き摺る音が聞こえてくる。

 判った。投げたんだ。あの『音の正体』が、私たちに向かって、あの気持ち悪い音を立てたものを。

 そう思ってさっき気持ち悪い音を立てながら落ちたものを見た。


 全員が息を呑む音が聞こえた気がする。


 真っ赤に染まったそれは、ところどころ肌色をしていて……。服だっただろう布をつけて。

 まさに肉塊という表現がぴったりな形をしていた、誰かの死体だった。

 それはそのまま、赤黒い液体を出し続けて凄いスピードでカーペットを染めてゆく。


「トモっ!」


 あたしは両手を胸の前でグーにして体を引き気味に構えて硬直しているトモの片手を掴んで、引っ張った。

 あの『音の正体』から逃げなくてはいけない。そう、心の底から思った。

 トモは、時々躓きそうになりながらもあたしに引っ張られている。

 廊下を走っている時、一度だけ後ろを振り向いた。

 トモしか居ない。まずい、皆と離れた。

 でも、あの音は聞こえてこない。


 気を張り続けるわけにはいかないけど、気を抜くわけにもいかない。

 あたしは一旦立ち止まって息を整える。トモもずっと一緒に走らされて相当キツかったんだと思う、前屈みになって肩で息をしていた。

 状況を整理したい、けどこの長い廊下で立ち止まり続けるのは、嫌な予感がする。


「アカネちゃん」


 ふと、トモが小さい声でわたしを呼んだ。


死体(あれ)、本物かな」

「……本物かどうかなんて判んないでしょ、見た事無いんだし」

「そっか、そうだよね」


 そう言うと、トモは呟いて勝手に納得していた。

 トモは怖がりだけど、こういった時にもしっかり頭が働くのは凄いと思う。まさか偽者かもしれないって発想は、あたしには無かった。

 ただ、本物でも偽者でも、どっちにしろ出口を探してここから出ないといけないんだ。

 もちろん、さっきの音の正体には接触しないようにしながら。

 不安な(イレギュラー)要素は極力排除していった方が良い。さっき投げられた死体が偽者だとしても、そういった変なものを作る人は多分危ない人だ。


 でもぶっちゃけ、参った。

 この館は、外から見ると大きな館だなーぐらいだったけど、廊下が迷路みたいになってるんだ。

 あたしはトモを連れて無我夢中で逃げてたから、来た道なんて覚えてない。

 男連中は多分無事だろうし、固まって動いてるだろうし……はぁ、なんでこう、後先考えずに逃げちゃったかな。

 こうなったら、男連中を探してうろうろするより、偶然合ったら良いなって感じでトモと出口を探した方が早そうかな。


「トモ、とりあえず出口を探そう。男連中は途中で見つけたら合流する感じでさ」


 あたしがトモにそう言うと、トモは左手を右ひじに、右手を口に当て俯いた。きっと、あたしの言った事を踏まえてこれからの行動を考えているのだろう。

 暫く考えているかと思ったけど、良いよ、と答えるまでのスピードは速かった。

 そうなると、やるコトは部屋を色々と見ていく必要があるのかな。廊下を延々と歩いて裏口にでも辿り着けるならそれが一番良いんだけど。

 真っ直ぐ、来た道とは逆の通路を眺める。

 電気がついているから、先が見えない事は無いんだけど、何故か(とつ)の形のようになっている壁が邪魔で、遠くまで眺める事が出来ない。

 それにまた、あの辺りは通路が分岐している気がする。今まで走ってきた道もそうだったから。


 まず、近場の部屋を見てみようかな。

 あたしは歩いてドアへ向かう。途中でトモに服の裾を掴まれた。

 やっぱり我慢してたんだ。この状況が怖くないはずないよね。単純に閉じ込められたってだけでも、食べ物とか飲み水の問題とかもあるし。


 ドアを開けようとノブに手をかける。やっぱりこの洋館自体が古いからか、回して開けるタイプのノブだった。

 ……。

 大きく深呼吸。

 ドアを開けるって行為がこんなに怖いと思ったのは久しぶりだね。

 ゆっくり中を覗き込みながら開けるけど、特に何もなさそう、かな。


 入ってみると、わりと綺麗な部屋だった。

 ちょこちょこ埃は溜まってるけど、それだけだ。

 少し気になったのは、部屋の中にまたドアがあること。

 今度はドアを開ける事自体あまり怖くなかった。一度平気だと慣れちゃうんだろうね。


 その先には、当然のようにまた部屋があった。

 こっちの部屋も、さっきの部屋とあんまり変わらない。ただ、部屋から部屋ってなんか気持ち悪いと思った。

 で、またドアがある。ホント、この館はなんなんだろ。

 今度は二つドアがあって、片方は廊下側に向かってくっついてるドア。もう片方は更に奥に進めそうなドアだ。


 まずあたしは、廊下側のドアを開けてみた。こっちはやっぱり廊下に繋がっている。

 ここからでもさっきの部屋に入るドアが見えた。廊下と部屋でぐるっと回ってるようだ。

 なんでそんな造りになってるのか判らないけど、ウィンチェスターハウスを思い出す。

 じゃあ、もう片方のドアはどうなってるんだろ、と軽い気持ちでドアを開けた。


「ひっ!」


 驚いた。そこは一面、壁になっていた。ドアを開けると壁だった。

 このドアが何のために造られたのか判らない。なにより、この光景は奇妙すぎる。

 

 ため息をついてドアを閉める。その後、あたしは近くのベッドに腰掛けた。

 多少埃が舞ったけど、とりあえず腰を下ろして落ち着きたかった。



 トモは立ったまま、あっちへキョロキョロ、こっちへキョロキョロと落ち着かない様子だ。

 あたしがトモに、座って落ち着けば? と言おうとした時、先にトモが口を開いた。


「ね、ねえ? ここちょっと埃っぽいし、他の場所に行こう?」


 留まろうとしないなんて、怖がりなトモにしては珍しい。どっちにしろ、この館で埃っぽくない場所なんて無いだろうに。


「ねえほら、そのベッドも汚いよ、それに時間が経っちゃうと喉も渇いちゃうし」

「急にどうしたの、少しぐらい休んだ方が良いって。トモも歩き疲れたでしょ?」

「疲れてない! 疲れてないから……早く出口探そうよ」


 なんかおかしいな。トモはさっき開けた何も無い(・・・・)ドアを見つめている。

 あたしは黙って何か音でもするのか確かめてみた。

 ……何も聞こえない。なら、何でトモは焦っているのだろう。


「トモ、どうしたの。なんかおかしくない?」


 そう聞くとトモは首をブンブン振った。良いから早く行こうよ、といった感じだ。

 あ、なんとなく察した。


「判った、トイレ行きたいんでしょ」

「そ、そう! さっきから探してたの」


 少しだけ休みたかったあたしは、仕方ないなぁとベッドから腰を上げた。

 そのままトモに促されるまま外へ出た。


 暫くトモはあたしより早く歩きながら、さっき出てきた方を見ては前を向き、また後ろを見ては前を向きと変な行動を繰り返したいたので理由を聞いてみたら、あたしは戦慄を覚えた。




--- トモ ---


 アカネちゃんがベッドに座った時、ベッドの下に鈍く光る何かを見た気がした。

 よく見ようとしたけど、その光る何かを持つ手が見えた瞬間、私は目を逸らした。

 そして、アカネちゃんを早くここから出さないと、と思った。


 でもアカネちゃんはくつろいでるし、簡単に動いてくれそうに無い。

 さっきの何も無いドアが、丁度ベッドの端を捉えられる位置だったので、それを眺めながらどうアカネちゃんに説明したら良いのかずっと考えていた。

 アカネちゃんが私を気遣ってくれてるのは判る。でも、そこじゃなくて。

 怖かったけど、またベッドの下を一瞬だけ盗み見た。

 とにかく光ったものの正体を確かめたかった。これが刃物だったら、それを持っている『誰か』は今ベッドに座っているアカネちゃんの足を切り裂く事なんて簡単にできてしまうだろう。

 今のところ動きは無いけど、それでも、急いでアカネちゃんの腕を引っ張ってでも外へ出た方が良いのかもしれない。


 見た先には、頭があった。


 うつ伏せで、こっちを見てなかったから良かったものの、いつこっちを向くか判らない。こっちを向けば、アカネちゃんの足が目に入るだろう。

 早く、早くアカネちゃんをここから出さないと。

 そう思っていたけど、案外アカネちゃんは予想外の発言をしてここから出る事に納得してくれた。


 外へ出て、何度か振り返る。さっきの『誰か』は、付いてくる様子は無い。

 アカネちゃんが不思議そうに私の行動について尋ねて来たので、理由を説明すると驚いていた。


 でも、確かに疲れた。ちょっと休みたい。

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