村人Aと入学式
結局お母様は結婚した。
話は私の知らないところで進んでいたみたいだ。
知らぬは子どもばかりだ。
正直、嫉妬というか喪失感というのか、ストレスで胃に穴が空きそうだった。
じっと耐え祝福した私を褒め称えて欲しいくらい。
結婚式の後は入学の為の試験が待っていた。
最初は学園側も元平民の同行に渋っていたのだ。
「おい、オヤジ。話が違うぞ」と思ったのはここだけの話。
条件として、出された試験をで優秀な成績を出す事が求められた。
優秀と言われてもラインが分からない。
どれだけとれば良いのか。
フローゼが期待の目を向けるのは良いのだかどの様な試験かも分からないのだ。
成るようにしか成らない。
出されたのは数枚の紙。
ペラッと捲ってみる。
「・・・・・・・・・・・」
12歳の子どもがやるにしては難しいのではないのだろうか?
まあ、学園としても成り上がりをホイホイと入れるわけにもいかないのだろう。
それを考えれば高いレベルが求められるのは理解出来る。
しかし、この国の教育レベルは文字が読めれば良い方だ。
精々四則演算だと鷹をくくっていた。
もう一度、用紙に目を通す。
【ある日国王は家来に言った。「ギャンブルで負けたくない。絶対に負けない方法を考えろ。金は幾らでもある」と。国王のしていたギャンブルはルーレットで、赤か黒に賭け、当たれば掛け金が倍、外れれば没収される単純なものだ。赤と黒の数は同数であり、1回の賭けの勝率は1/2である。この時の必勝方を答えよ。イカサマは認められない】
【遠く離れた塔に撤退の伝令を出したい。城から塔までの中間地点は無数にある。中間地点毎に伝令を伝えていった時、塔にたどり着いた時の伝令はどの様なものとなっているか。尚、伝令は10回に9回は正しく撤退を、10回に1回は開戦を伝えてしまい開戦を伝えられた人はそのまま10回に9回は開戦を伝えるが10回に1回は撤退を伝える。また、中間地点は少なくとも50以上はある】
等とパッと見ただけでも、論理的な思考が求められている。
情報が少なく人の直感を逆手にとった嫌らしい問題だ。
冷静に考えれば難しくない問題だけど。
考えても仕方がないと、筆を動かす。
結果は全問正解だ。
前世の合わせれば子どもとは言えない知識があるのだ。
当然か。
フローゼの期待に答えられて良かった。
フローゼも試験を行っていたようだがそれは、ハードルと言うよりも能力を見る為のものだった。
私の試験はそもそも落とす心算のものだったらしく、結果を見た教職員は驚いていた。
並みの試験なら難癖を付け入ることが出来なかったかもしれないし、かえって良かったかもしれない。
◆◇◆◇◆(2014/3/22編集)
――入学式――
一様に若者が一か所に集う光景は壮観だった。
この世界に学園は学び舎と同時に上流階級一つのステータスでもある。
この少年少女らは、何を胸に抱きこの場所に居るのか。
野望、はたまた只自身の体面の為か、単に個人の見解を広めるために来ているのか。
――己が望むも無く親に従ったが大半か。
普通はそんなところだろう。
私だってそうだ。
学園に対し何か思う所も無く流れるままにここに来てしまった。
普通ならば、私などは一生縁遠い場所である自覚はあった。
運命に逆らって数奇な道を辿っている。
もし、私に前世の知識と言うものが無かったのならば、果たしてこの場所に居ただろうか?
いや、生涯を農夫の娘として生きただろう。
外見は良いから何所かの貴族に買われていたかもしれない。
そもそも、魔族の襲撃で死んでいたか。
学園に対して思う所は無かったが、いざ来てみれば感じる事もある。
志を持った若者に会えば、その可能性を試してみたくなる幼心も沸いてくるものだ。
「少年よ大志を抱け」などと言った男の気持ちも今なら少し理解できる気がする。
壇上に目を戻すとご年配の方が話をしていた。
尊大な風貌がその威厳を表している。
あれが学院長だろう。
年老いて尚、隙のない佇まいは尊敬に値する。
いつかお手合わせ願いたい。
「若さとは、可能性だ。何者にもなれる力を宿しているのだ。自分の未来は定まっていると思っている者もおるだろう。それはそれでよい。ほかの道を消し我が道を突き進むのは間違っていない。だが、諦めは違う。そこが、己の限界と見定めることは怠慢である―――」
怠慢か。
確かに私の今は惰性で生きてきただろう。
だが、どう生きてもいいかも定まらない。
そう考えると、途端に疎外感を感じる。
何のために生きるか。
果たして見つかるのだろうか。
「どうした?」
「え?」
「いや。なんか、浮かない顔してたから。そんなに学園長の話つまらなかった?」
隣に居た少女が話しかけてきた。
考えを表情に出していたことを思うと、自身の未熟さを痛感する。
「いえ、大変有意義な話だと思います。…どちらかと言えば貴女の方が退屈に見えます」
「あはっ。確かに。君、面白いね」
私が眠そうな眼の少女に笑いながら返すと、目を細めながら笑った。
『静粛に』
行動に女性の声が響く。
小さな声で話していたが、数も集まれば『ざわざわ…』といった騒音になる。
「…また、後でね」
波紋のように静けさが広がる。
年寄の話は長いのは古からの掟か。
◆◇◆◇◆
入学式が終わり教室に入る。
教室に入ると視線が集まるのを感じた。
無意識だろうフローゼの手の掴む力が強くなるのを感じる。
気持ちは分かる。
人の少ない村で育ったのだ。
同年代の人間が集まる事に慣れては居ない。
私はフローゼの手を握りかえすと出来るだけ優しく微笑んだ。
少しして教師だろう人が入って来る。
年は20くらいか。
ウェーブの髪がそのほんわかとした印象を強めている。
「みんなぁ~。席についてくださぁ~い」
パンパンと手を叩きながら叫ぶが威厳が足りない。
しかし、そこは貴族のご子息が集まる学園だ。
静かに席についていく。
「はァ~い。今日から皆さんにはここでしっかりと学んでもらいますがぁ、まずまずはここにいる人となりが分からないと何かと大変だよね?ということでいきなりですけどぉ皆さんに自己紹介をしてもらいたいと思います。
ちなみにぃ、私はこのクラスを担任のシェリル=ノースウエスト、気軽にシェリルちゃんセンセって呼んでね♪受け持つ教科は魔法学。びしばしいっちゃうから宜しくね」
一人づつ自己紹介をしていく。
私の番は近い。
「初めましてアリサ=メタノイアと申します。戸籍上こちらのフローゼ様の妹に当たりますが私の性は母ガタとなっております。皆様の迷惑に成らないよう勉学に励みたいと思いますのでどうかご鞭撻のほど宜しく願い致します」
教室がざわめく。
「なんで使用人の恰好をしてるの?」「でも凛としてて素敵…」「スラッとして、格好いいわね」「辺境貴族のクセに生意気」「・・・男?」「ッチ、すかしやがって」「性が違う?妾の子か?」「顔だけの優男だろ」
呟かれる内容は様々だ。
私に対して、憎悪といった負の感情が5割、好意的な感情が3割、フローゼに対しての負の感情が2割、その他といった所か。
私は良いがフローゼに被害がいかなければ良いが。
なるべく、私が引き受けたいところだけど。
「みんなぁお静かに。みんなぁ仲良くしてくださいねぇ~」
私は注意が教師に向いたのを確認すると音もなく席についた。
◆◇◆◇◆
「やっと終わった。分かりきった事をじっと聞くのは拷問だね。クソッカスが」
「お疲れさまです。ルサルカ様」
「や、アリサ君」
ルサルカ=ジル=メルクーア。
先程入学式直前に話し掛けてきた女子生徒。
冗談か本気か私でも分からない抑揚の無い声でなかなか過激な事をいう女児だ。
先の自己紹介でも「将来の目標は世界征服」と言っていた。
大志を抱くのは良いことだ。
「ねぇ、私と結婚しよう」
求婚は三人目だ。
この国には出合ったら求婚しなさいという法律でもあるのか。
というか私は女だ。
今は男の格好をしてはいるが。
法律はよく分からないけど無理があると思う。
取り合えず断ろう。
「だ、駄目に決まってるじゃない。アリサは私のなのよ!」
私が口を開きかけたとき側で聞いていたアリサが叫んだ。
ぐいっと腕を掴んで寄せる。
「何で君が返事するのかな?」
「アリサは私のモノなんだから私に決定権があるのよ!」
そうなのか?
初耳だった。
「へぇ、まぁいいや。友達からどう?」
「はい、構いませんよ」
フローゼが口を開く前に私が答えた。
味方は多い方がいい。
ここは、私たちにとって未知の世界なのだ。
フローゼは「え、?」と言いながら私を見上げる。
「お嬢様共々よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「・・・よろしく」
しぶしぶと言った様子でルカルカから差し出された手にのばす。
早速できた二人目の友人。
幸先やよし。
100人まで残り98人。
・・・なんてね。
因に適当に入れた入試試験の問題の答えですが、
1問目はただの「マーチンゲール」です。
2倍づつ上げていけば、勝った時に元が取れます。
問題点は指数的に上昇していくので負けが続くと天文学的な掛け金になっちゃうのですが、お金は幾らでも出すんだから問題ありませんね。
2問目は「少なくとも」とか曖昧な言葉で誤魔化していますが答えは50%に収束してしまうので50回以上ならすべて正も負も半々です。どんどん小さくなっていくだろうという確率の穴をついた引っ掛け問題です。
最初はただの計算式入れようと思ったんですがちょっと捻ってみました。
※2014/3/3内容微調整
※2014/3/22調整に合せ、内容変更




