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村人Aとお譲さま

魔属の進撃から2日がたった。

フローゼから報告を受けた領主は王都に使者の派遣要請を出していた。

この村と王都までの距離は通常の馬車で約3日はかかる。

早ければ、そろそろ到着する頃だろう。

魔族の死体は調査員のために近くの街に常駐していた魔術師によりその惨劇のまま冷凍保存されている。

量も量であった為数人の魔術師が一日かけて行われた。

現在は交代により魔術の維持が行われている。


フローゼを助けた私は何故あの場所にいたか聞かれたが、

『山菜を採りに森へ入ったらフローゼ様の声がしたので』

と適当に言い繕った。

元々、山菜を採りに森へはよく行っていたせいか疑問を持たれる事はなかった。

少しやり過ぎたと反省はしている。


あの日から変わった事といえばフローゼと話せるようになったことだ。

状況を利用してしまった事に若干の後ろめたさはあるが、それ以上に友達になれたことは嬉しかった。

今はいきなり死体の山を見てしまったせいで元気が無いがそれは時が解決する事。

・・・トラウマに成らなければいいが。


というわけで、今はフローゼ様のお屋敷にお見舞いに向かっている所だ。

けして、友達に合いたいからというわけではない。


「ウィ。あいたかっぜ。

って、あれ?こないだの小さい子は?ほら、あの良い打撃持ってる子」


「マリィなら旅に出ました」


「はぁ!?旅ぃ?あの子まだ10歳もいってないだろ!?」


道中いきなり声をかけられた。

何故こんな所にいるのだろうか。

まだ、王都には派遣要請は届いていないはずだ。


「そんな事より宮廷魔術師様。お役人様がいらっしゃるのは少なくとも後3日はかかると思っていたのですが」


「あ~、一応俺はね王都でも5本指に入るスッゴい魔術師なんだよ。俺ぐらいのレベルになると、こんだけの魔属が動けりゃすぐにわかるわけ。

まぁ位置的に君が居たから急いで来たんだけど、

・・・ご覧の通り、もうすでに終わっていたっていう間抜けっぷりさ。

切り口も、切り裂き魔の時と似てるし。この村には守護神でも居るのか。が殺ったか分からないと不気味だ。まぁ、良いんだけどね。

あと、俺の事はアランって呼んでくれ」


「そうでしたか。ありがとうございます、アラン様」


「上辺だけのお礼はいいから、俺と結婚しろよ」


万年発情期め。


「それよりも、アラン様。お国のお役人がいらしたのならちょうど良いです。さっさと視察なさって下さい。現場の維持にもお金がかかるようですし、領主様のところまで案内します」


「・・・・・・前から思ってたけど、君、子どもっぽくないよね」





◆◇◆◇◆





アランを領主様のところまで案内すると私はフローゼのもとへ向かった。


「アリサ!」


ベッドの上で半身を起こした状態でフローゼは私に笑顔を見せる。


「こんにちは、フローゼ様。体調は如何ですか?」


「うん。身体は健康だから」


あの日以来すっかり大人しく成ってしまった。

ちょっとツンツンしていた頃のフローゼが懐かしい。


私は持ってきた、調合済みのハーブを取り出す。

精神的なモノならハーブが良いのでは無いかと言う安直な理由からだ。

温めてあったティーポットにハーブを若干少な目に入れお湯を注ぐ。

少し時間をおいてからカップに注いだ。

ハーブ特有の香りが辺りに立ち込める。


「わぁ、良い香り。ハーブティー?」


「はい、私が調合したのでお口に合うといいんですけど」


「うん、楽しみ」


会話をしながら先ほど使用人の方に分けて頂いたハチミツを少量加えながら静かに回した。


「どうぞ。少し熱いので気を付けて」


フローゼはカップに鼻を近付けると目を細めた。

少し間を開けて口をつける。


「・・・美味しい」


「良かった。お母様以外に煎れるのは初めてだから緊張したんです」


「ううん、家のメイドよりも・・・。ねぇ、アリサ。私の執事にならない?」


ごっこ遊び?

それよりも、何でメイドじゃ無くて執事なのだろう。

でも、男装は嫌いじゃない。

友達とごっこ遊びというのも悪くないし、良いだろう。


「はい、喜んで。お嬢様」


うん、案外楽しいかもしれない。





◆◇◆◇◆(2014/2/3結合)





執事服を借りて着替えてみた。

結構本格的にやるようだ。


思っていたより機動性に優れて、スカートよりも良いかもしれない。


「どうでしょう、お嬢様?」


腕の裾を掴んで回ってみる。

フローゼを見ると何故かポォーっと顔を赤らめて私を見上げている。

どうしたのだろうか?


「お嬢様?」


「え、?あ、うん!凄い似合ってる。アリサ格好いい」


まさか、女に転生して格好いいと言われるとは思ってもいなかった。

少し、嬉しい。


「ありがとうございます」


「もうちょっと、こっちに来て」


「はい」


素直に近付く。

ベッドのそばまで来た。


「もっと」


これ以上近付いたらベッドの上だ。


「でも」


「良いから」


靴を脱ぎ、ゆっくりと膝をベッドの上にのせた。

フローゼとはくっついてしまいそうな距離だ。


「・・・だ、抱き締めなさい」


「(こう、かな?)はい」


一昨日の晩のように抱き締めてみた。

温かい。

女の子の良い臭いだ。

思わずフローゼの耳元で鼻をクンっと鳴らしてしまう。


「キュ~~~」


「あれ?お嬢様?お嬢様ぁ~」


急に感じた腕の中の脱力感にフローゼを見ると眠っていた。

疲れていたのかな?

そう思い、そっと横に寝かせ布団を被せた。


静かに寝息をたてるフローゼを確認すると私は使用人の元に向かった。

起きたときにはきっと小腹が空いているだろう。

お粥でもつくってあげよう。





◆◇◆◇◆





暫くしてフローゼが起き上がった。


「あ、おはようございます。お腹は空いてませんか?」


「えっ?あ、アリサか。うん、少しだけ」


運んできたお粥の器を手に取り、ベッドのそばで膝立ちする。

器からスプーンで一口分救い息で熱を冷ます。

そのまま、フローゼの顔へ近付けた。


「これは?」


「お粥と言います。消化に良いので作ってみました」


スプーンを口元に近付けると、おずおずとその小さな口をあけた。

口の中に入れると唇でお粥を救いとる。

もぐもぐと咀嚼するフローゼのあどけない表情が可愛い。

こくんと飲み干すと私の顔を見上げる。


「おいしい」


「良かった」


むずかゆく、温かい時間が流れる。

いいな、友達?というのは。


バン!!


「おいーっす」


音を立てて扉が開く。

ビクッとフローゼが肩を揺らした。


「・・・婦女子の部屋に些か失礼ですよ?」


「おお、すまん、すまん。つーか誰だてめえ、ってお嬢ちゃんか。よく化けたもんだ。そんな姿も似合ってるぜ。俺ほどじゃないにしろ、他の男がみたら嫉妬する程だ」


名前なんだっけ?←作者も忘れた

・・・宮廷魔術師に劣るならそれほどでも無いのだろう。


「貴方よりアリサの方がずっと格好いいわ」


「何だと!?辺境貴族の分際で」


「なんですって!」


「二人とも落ち着いて下さい。宮廷魔術師様、領主様は民のためを考えて最善を尽くせる素晴らしい御方です。そのような罵倒は聞き捨てに成りません」


「・・・アリサ」


「(名前言って貰えなかった。怒ってんのか?)悪かった」


「私もごめんなさい」


「なんか、しらけしまったな。まぁ要件も終わったし、件も件で急がなきゃなんねぇから俺は帰るわ。王宮の方も俺が来てる事知らねぇしな。あーあー、これでまた、昇進しちまうかも。まぁいいや。じゃあな」


そう言って歩きながら手を振る。

数歩して、何かを思い出したように立ち止まると振り返った。


「そうそう。忘れるところだったわ。ここの所の領主さん?が二人を呼んでいたぜ。何でも頼みがあるとか。じゃあ、今度こそサヨナラだ。またな」





◆◇◆◇◆





「頼みとは何ですか?」


領主様はひとつ息を付くと私の目を見つめた。


「フローゼを学院に入れようと思っているのだ」


「え?」


「最近魔物も増えて危なくなってきた。・・・護衛として学園に入ってくれないか?」


「私が、ですか?ですが私など役にたつでしょうか?」


「謙遜するでない。動けなかったフローゼを抱き抱え魔物の群れから助けたと聞いている」


「ですが、私が居なくなったら畑が。それにお母様も・・・」


「畑は此方が責任を持ってなんとかしよう。それでな、アリサ。お前の母親の事なんだがな・・・」


私は今、領主様の瞳が揺れたのを見逃さなかった。

前世での男の知識のあった私にはすぐにピンときた。

こんなとき、男性が狼狽える事など一つしかない。


「まさか、お母様を側室に?」


私の母親は私に似て、いや私が似たのか、とても美人だ。

一児の母とは思えないスタイルとその若々しさ。

おまけに未亡人とくれば男が見逃さない筈がない。

今まで私が牽制して威嚇していた為、悪い虫は付いていなかったが。

まさか、こんな所に居たなんて。

このオヤジ(親父←❌爺←△)。

お母様程では無いにしろとても美人の妻が居るだろう。


「まぁ。それは素晴らしいと思います。学園の事もそうですが、アリサが妹になるのはとても嬉しいです」


うぬ!?

思わぬ所で援護が入った。

今まで黙って聞いていたフローゼが口を開いた。


「リーリア様はどうなさるのですか。リーリア様の意見がなければ流石に賛成は出来ません」


「リーリアは前からお前たちの事を気にしていたのだ。家で面倒をみることについては賛成してくれている。…それにな、私の娘になるなら学園にも入りやすくなるだろう」


リーリアはこのオヤジの嫁でフローゼの母親だ。

まさか嫁にまで側室の了承を得ていたなんて。

確かに前世と違って、一夫一妻でなくてはならないという風潮は無いが。

た、(たばか)ったな。

ここまで用意周到に手を回して居たなんて。

先ほどプッシュして損をした。

この狸オヤジが。

いや体型はスマートな紳士然とした感じた。

本当に狸みたいな体型ならその肉切り落としてくれるわ。


もしかして、学園の件も厄介払いが目的じゃなかろうな?

戻ってきて弟や妹が出来ましたなんて展開に成ったら私はどの様にすればいいんだ。

いや、十中八九そうなる。

・・・勿論、出来たら精一杯可愛がるが。

くそ、くそぉ!!

娘をとられる父親の心境というのはこういったモノなのか。

私の中の私は血の涙を流した。


「・・・それならば、私が言うことはありません。色恋は本人同士でする事ですから。学園の件も喜んで引き受けます」


私は力なく返事をする。

完敗だよパトラッシュ。


「そうか、そうか!応援してくれるか。よし!学園の方は任せておいてくれ。この村の事も心配しなくて良い」



・・・応援するなんて。


一言も言って無い。


いまさらなのですが、アリサ=メタノイアの名字の『メタノイア』とは「悔い改めよ」という意味なんですが、英語ではto have compassion with(人の痛み、苦しみを共感する)とも訳せます。つまり『メタノイア』という言葉には人の痛み、苦しみ、さびしさ、悔しさ、怒りに、共感・共有し見直して自身を改めなさいという意味が含まれています。

前世では剣のみを振り続けて人の機微に触れなかったアリサが人の心に触れ成長し『愛のため』剣を振っていって欲しいと思いこの名前をつけました。


※2014/2/3話結合

※2014/3/3内容編集

「使用人として」→「護衛として」に変更し、それに合わせて各微調整いたしました。

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