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村人Aと領主の娘

あれはフローゼ。

薄い金色の髪が太陽の光を反射して光っている。


ふむ、どうしよう。

前回は普通に行って失敗してしまった。

女の子が喜びそうなもの。

花とかだろうか。

私はフローゼに似合いそうな青色のお花をいくつか見繕って近付いていった。


「こんにちわ。フローゼ様」


「・・・また、貴女。ごきげんよう」


露骨に嫌な顔をされる。

だけどここで諦めては行けない。

返事をしてくれるだけましだ。


「いいお天気ですね、よかったら少しお話しませんか?」


「いや。あまり私に話し掛けてこないくでくれるかしら」


「そう、ですか。あ、フローゼ様に似合いそうなお花をつんできたのでどうでしょう?」


「要らないわ、そんなの!」


「あ、」


フローゼが振り返った時に手が花にあたり、花びらが散りながら落ちる。

偶然だ。

わざとでは無いことは分かる。


「ちが、・・・貴女が余計なことするからよ!」


そう、言うとフローゼは走り去ってしまった。

咄嗟でフォローすることも出来ない。

難しいものだな、人付き合いは。

よくよく考えてみたら前世では一人も友達と呼べるものは居なかった。

強敵と書いてトモと呼ぶなら沢山いたがそれはちょっと違う気がする。

沢山の知識があっても、ちっとも役にたちはしない。

少しづつ頑張るしかないか。

難しいな。

そう、思うとまた、溜め息が出た。





◆◇◆◇◆【視点変更 アリサ→フローゼ】





いらいらする。

アリサ・・・。

あの、大人ぶった態度が。

見下されているようで。


ーでも、本当に苛立つのは自分自身だ。





初めて会った時は綺麗な娘だなと思った。

落ち着いていて、賢くて、優しくて。

素直に凄いなと思っていた。


ーー友達に、成りたいと思った。


だけど。


それは次第に変わっていく。

パパやママが「アリサちゃんは」と比べる度に好きだった綺麗な所、賢い所、優しい所が嫌いになっていった。

尊敬が劣等感に変わっていった。


アリサに合うと胸がざわつく。

感情が揺り動かされる。

冷静にいようとしても出来ない。


今日のことも謝りたかったのに。

出来なかった。

出来ない、アリサだけの前では。

強がりだってことはわかっている。

でも、どうしようも無いのだ。

嫌になる、そんな自分が。


頬を伝う涙の感触。


「ぐす、ひっぐ」


もうやだ。

助けて欲しい。

どうすれば。

どうしようも無い。

・・・もう、どうしようも。





◆◇◆◇◆【視点変更 フローゼ→アリサ】(2014/2/2結合)





「お姉ちゃーーん」


「あ、マリィちゃん」


「あれ、お姉ちゃんどうしたの?」


「ん、ちょっとね。お友だちつくるのって難しいね」


「えー?私、お友だち、たーくさんいるよ!とりさんにね、蝶々さんとくまさんとー。

それからね、アリサお姉ちゃん!」


「そっか。うん。ありがとうマリィちゃん」


「えへへ」


幼女の言葉に不覚にもドキッとしてしまった。

この子は将来女泣かせになる。


「そうだ、お姉ちゃん。あのね、お姉ちゃんに聞きたい事があったの」


「何?」


「えっとね、どうしたらお姉ちゃんみたいに強くなれるのかな?」


強くなりたい、か。

私も幼いころはどうしたら強く成れるかと、そればかり考えていたな。


「そうですね。人が強く成るためには、経験をつむことです。様々なものをみて、感じ、それを己のものとします。マリィちゃん」


「・・・けいけん。どうすればいいの?」


「うーん。旅をしてみるのもいいかもしれませんね。世界中には様々な人間、価値観が存在してそれに触れる事できっと膨大な経験が得られると思います」


「そっか!ありがとう、お姉ちゃん!」


「もっとも、マリィちゃんには早い話ですけど。あれ?マリィちゃん?」


隣を見ると既にマリィちゃんの姿はなかった。

うん。

私も落ち込んでいられない。

もっと頑張らなくては。





◆◇◆◇◆【視点変更アリサ→マリィ】





「おかぁーさーん!ちょっと旅に行ってくるねー!」


「はーい!気を付けて行ってくるのよ。・・・え?」


私はお母さんに挨拶をして家を飛び出した。

旅は初めてだけど強くなるなら頑張ろう。

『なんとかなる。進め』とはお姉ちゃんの言葉だ。

とりあえず、お日さまの方に向かって行こう。

きっとなんとかなる。


と、思ったけど、お日さまを見失ってしまった。

ずっと一生懸命に走って追いかけたけど逃げられてしまった。

ひとつ学んだ。

お日さまは逃げるのが早い。

これが、けいけんか。

そういえば、辺りは真っ暗だ。

こういうときは、どうすればいいんだっけ?

確か、

『夜の森では動くな』と『寝ると死ぬ』だっけ?

・・・寝ると死ぬ、か。

けど、意識したら眠くなってきちゃった。

でも、死にたくないし。

そうだ、起きながら寝ればいっか。

よーし、明日はお日さまに負けないようにしなくちゃ。


「おやすみなさい!」





◆◇◆◇◆【視点変更 マリィちゃん→アリサ】





夕刻。

今は日が沈む少し前。

赤から青色のコントラストが空を染める。

私は先ほどから痺れるような悪しき気配を感じていた。


「アリサちゃん!」


「あ、マリィちゃんのお母さん」


急いだ様子で息を切らすマリィちゃん母。


「アリサちゃん、あの、マリィ見なかった?」


「マリィちゃんですか?」


「ええ、昼間に旅に行ってくるって言ったまま戻ってこないの。本当に旅に出ちゃったのかしら」


昼間・・・。

あぁ、あれか。

でも、多分大丈夫だ。

マリィちゃんなら大抵の事ならなんとか出来るだろう。

多分、単純なマリィちゃんの事だから太陽とか追いかけているんじゃないだろうか。

あの時間に太陽に向かって走って行ったならマリィちゃんの足なら遅くとも明日の夜までには王都につくだろう。

それよりも。


「すみません。みつけたら教えます」


「ありがとう。それじゃあ」


「はい。また」


この、村全体を覆い尽くす舐めるような視線が気になる。

数は10、100じゃないだろう。

完全に狙われている。

殺気の程からして仕掛けるのは今夜か。

やれやれ、厄というものは重なるものだ。

幸いにして、マリィちゃんが行ったであろう方角とは逆。

接触する事は無いだろう。


この規模、今から大人に言ってもどうにかなるレベルではない。

どうしたものか。

やはり、仕掛け始めに出鼻を挫くのが一番か。

私は流れる風に気配を溶け込ませるとそのまま森にへと向かった。





◆◇◆◇◆【視点変更アリサ→???】





幾年の時を経て我主も復活を果たした。

だが、まだ主の力は完全ではない。

なれば、我ら王の円卓の一柱として役目を果たさなければならない。


手始めにこの小さな集落を我ものとしよう。

人間どもの逃げ惑う姿を想像するとこの刃が疼くというもの。


「クックック。闇の帳は落ちた。蹂躙の時はきたれり」


「失礼。お楽しみの所ごめんなさい?」


「ッ!!?」


背後から耳元で囁かれた声に反応し咄嗟に爪を振り抜く。

だが、空を切るのみでそこには何も居ない。


「いきなりなんて失礼じゃない?」


正面からの声。

その距離は10センチにも満たない。

この魔王の側近にして円卓の一柱である我が二度も易々と接近を許すなど。

それも、まるで感じ取れなかった。

まるで最初からそこに居たように。

それは、溶けるようにして表れた。


「貴様・・・何者だ」


ただ者ではない。

姿形は人間の、それも童にすぎないが。

本当に人間か?


「何者でもありませんよ?私は、ただの村人。

本当なら貴方たちと交わることのない、エキストラの一人にしか過ぎないのだけれど・・・。

こんなにも熱い視線を貰っては答えないのは無粋でしょ?

そんな貴方こそ、こんな辺境まで。どちら様でしょうか」


村人?エキストラ?

わけの分からないことを。


「我は魔王様の側近にして円卓の一柱。第7位ウォルフだ」


「魔王?あぁ。魔王!!それは知ってる。魔族の中で一番強者。違う?」


なんだ、こいつは。

嬉しいそうに笑う少女の顔が虚勢でないことは明らかだ。

不気味だ。

異端。

我殺傷圏内に居るがまるで殺せる気がしない。


「それで?魔族の王様の側近がこんな辺鄙な村まで何しに?

貴方たちのいさこいに手を出す心算(ツモリ)はなかったし、

どう転ぼうとも、そのまま時勢に任せようと思っていた。

魔王とは少しばかり踊ってみたいとは思ったけど残念ながらパートナーがいるみたいだしね。けど、」


今まで、虚無を思わせていた少女から殺気が沸き上がる。

気付けば自身の腕か震えていた。

恐怖?

今まで魔王様以外に恐怖したことはなかった。

人間風情が魔王様と同格だと。

認められない。


(ヤイバ)を向けられてまで黙って要られるほど、我慢強くは無い。もう疼いちゃって・・・。

シャルウィダンス?」


更に膨れ上がる少女の殺気にかえって冷静になる。

目の前のそれは確かに危険だがここで戦う必要があるのか。

相手の戦力は未知数だが勝てる見込みもたっていない。

当初の目的は手始めに人間の集落の蹂躙の筈だ。

わざわざ危険を侵して戦う必要があるのか。

否。

それこそ、魔王様の力が戻ったときに始末すればいい。


「ふん。貴様とわざわざ戦う必要もない。今日の所は見逃してやる」


「そう、残念。一日で2回もフラれちゃった。本当にコミュニケーションって難しい。でも、良いわ。今日は楽しめたし」


楽しめた?

そう言われ、言葉の端が疑問となり初めて気が付く。


辺りが静か過ぎる事に。


我が眷属は1000近くも居た筈だ。

この静けさはあり得ない。

それに、むせかえるような血の臭い。

この空間に生きた者は二人しか居なかった。


何故気付けなかった。

いや、理由は明確だ。

こいつの殺気に呑まれていたのだ。


こいつが。

こいつが、我が眷属を殺したのか!


「き、貴様ぁ!!!」


「ん?気が変わった?」


部下を大事に思っていたわけではない。

仇なんてどうでもいい。

ただ、人間一匹に魔族が蹂躙されたという事実に。

魔族のプライドが許せなかった。


「死ねぇえぇぇ!!!!」


「凄い気・・・でも、怒りだけでは私には届かない」


静かに少女は呟く。

少女の気配が一気に鋭くなった気がした。

そうだ、これだ。

今までは確かに強大な殺気を放っていたが戦うもののそれではなかった。

今は、この圧力は、本当に恐ろしい。


けれど此なら許せる気がした。

魔族を殺す者たりえる狂気。


「あぁあぁぁあああぁ!!!」


全ての魔力を腕にのせ降り下ろす音速の一撃。

当たれば、城すらも崩せるだろう。


(捉えた!)


攻撃の余波で木々が薙ぎ倒される。


(・・・やったか?)


トンッ。


それは、剣が地面に刺さる音。

終わりを告げる音だった。


いつの間にか背後に佇む少女は静かに口ずさむ。


紫電(シデン)七勁(ナナケイ)


ーーアリサの七色七通りの剣の内最速の型。

その残像は誰にも捉えることは出来ない神速の太刀ーー


この世界の物とは別の次元にある強さに思えた。


(魔王様と同格、あるいは・・・よりも・・・)


「貴女の憤怒は覚えておきます」


先ほどまでの羅刹にまで思わせるような少女の狂喜は本来の形通りの町娘と変わらない静かなものとなっていた。


(こんなモノが、群れのなかで潜むか。人間とは恐ろしいな)


「地獄で・・・待つ」


「・・・・・」


死に際の、呪いの言葉。

そう、言い残してウォルフは肉片へと崩れていった。


これが、世に知られることのない魔族と人間の最初の戦。

時代は主軸からほんの少しずれて動いていた。





◆◇◆◇◆【視点変更 ???→フローゼ】(2014/2/2)





重い(まぶた)をあける。

太陽は沈み辺りはすっかり暗く成っていた。

アリサと別れた私は東にある森に来ていた。

一度気持ちをリセットしてから家に戻ろうと思ったのだ。

泣いて思ったより神経を使っていたせいか木陰で木に寄り掛かると、すぐに眠ってしまったようだ。


「・・・帰らないと」


そう思い立ち上がってすぐに異変に気が付いた。

辺りを漂う濃厚な血の臭い。

それは、森の奥から流れて来ていた。

行ってはいけないと脳が危険信号を発するが私は奥にへと歩を進めた。


「これは・・・うっ、おぇっ!」


眼前に広がった光景にショックを受け私は胃の中のモノを全て戻してしまった。

見渡す限りの血と肉と、血、肉、血血血肉血肉肉・・・。

ぐしゃりと於曾毛を誘うような足下の感触。

地獄があるのならきっとこんな場所だろう。

衝撃が大きすぎると悲鳴も出ないのだなと他人事のように思った。

よくみると、手足はあるがその肉は人のモノではなかった。


「ケホッ、ケホッ・・・魔属?お父様に知らせないと」


私は急いで戻ろうと振り返った。

しかし、そこにあったのは闇に煌めく無数の点。

獣の金色の瞳が周囲を囲んでいた。

血の臭いに誘われ魔物が集まって来たのだろう。


魔物はゆっくりと包囲網を狭めて近づいてその姿を表した。

ダークウルフ(D級指定)。

全長二メートルにもなる大きな狼のような魔物。

私はなんかでは、抵抗の統べなくして彼らの餌に成ってしまう。


いや。

いや、こんな所で死ぬのは。


「助けて・・・パパ、ママ」


その、巨体からは想像出来ないスピードでダークウルフは旋回すると群れの一匹が飛び掛かってくる。


「いやぁ!!」


(アリサァ!)


なんで、彼女が浮かんだのかは分からない。

私は恐怖に目をつむり、来るべく痛みを覚悟した。


「キャンっ!」


ダークウルフの鳴き声とその後に続く巨大な質量の衝撃音。

浮遊感と私を包むかのような謎の温もり。

待っていた痛みは何時までたっても来なかった。

もしかして、もう死んだのだろうか。

そう思い恐る恐る私は目をあける。


(・・・綺麗)


初めて出合った時のように、素直に私はそう思った。

私を包んでいた温もりは彼女の腕。

その胸の中から見上げた、月光に照らされる彼女の顔は美しかった。

アリサ=メタノイア。

私の一番嫌いで、大好きな少女。


「フローゼ様、お怪我はありませんか?」


「・・・うん」


「良かった。少し走ります。私の首に掴まれますか?」


「うん」


私は、細い首筋に手を通す。

途中、「んっ、」とくすぐったそうにするアリサが少し色っぽい。

危機的状況の筈なのに、助かる事を確信するような安心感があった。


私が抱き付いたのを確認するとアリサは地面を蹴った。

それに追従するようにダークウルフ達が飛ぶがアリサはそれを交わし、或いは持っている木の枝で受け流す。

まるで、寄せ付けずにダークウルフ達を突き放していった。

追っては来ない。

餌なら沢山あるからだろう。


村にまで戻るとアリサはそっと優しく私を下ろす。

今までの緊張感から力が一気に抜けてその場にへたりこんだ。


「大丈夫ですか?」


「駄目触らないで」


「え、?」


そっと伸ばしてきたアリサの手を私は突き放した。

危機から逃れ安堵し気が弛んだ瞬間失禁してしまった。


「わたし・・・今、汚ない」


言い訳のように呟く。

アリサもなんのことか気付いたようだ。

恥ずかしくて消えたくなる。

だけどアリサは何故か優しく微笑むと


「大丈夫です。汚くなんて・・・ありません。ほら」


そう言って私を抱き締めた。

私のおしっこで汚れることも構わないと言うように。

今までの恐怖も相まって私の涙腺から涙が溢れる。


「う、うぅ・・・アリサァ。アリサ」


「うん」


「ごめんなさい。ごめんねアリサ」


「うん」


今までの分まで謝るようにアリサの胸に顔を押し付けて繰り返した。

塞き止めていた、気持ち、想いが溢れてくる。


アリサは抱き締めていた腕を開くと、少しだけ体を離して私の目を見つめた。

アリサにしては言い辛そうにそわそわして、決心したようにキリっとさせた。


「あの、その・・・友達に、成ってください」


友達。ともだち。

特別なモノじゃない。

だけど、私達にとっては簡単なモノじゃなかった。

友達に、私もなりたい。


「・・・・・・うん」










2014/2/2四~六話結合

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