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エピソード5 秘密 <NaoTo Part>

時計の秒針を送る音が 血管にいていく。

ようやく朝の6時、、、


僕の左腕の中には、安心しきって眠る 直子の柔らかさと 温かさと 甘い匂いが沈殿していた。



直人:「いい気なもんだよな。」


すやすやと眠る 直子のほっぺたを指でつついて悪戯する。


たまらなくなって、もう一度 直子を抱きしめる。

うなじから 子猫だか赤ん坊だか みたいな匂いがする。



直子:「…苦しいよ、」


直子が寝ぼけた声を出す。


うるさい!

ちょっとは僕の身にもなって見ろって言うんだ。



直子は深刻な問題を抱えていた。

突然意識を失って、仮死状態に陥ってしまう。 「魂が抜ける」と直子は表現していた。 今まではブレスレッドが「御護り」になっていて、魂が抜ける事を防いでくれていたのだけれど、昨日から急にその効力が無くなった…らしい。


全てを鵜呑うのみにする訳ではないけれど、直子の不安は尋常では無く、 結局 再発を恐れた直子の 涙ながらのお願いで、昨晩 僕たちは 一緒の布団で寝る事になった…と言う訳だ。



僕の左脚に絡みついた直子に再びもたげ始めた秘密がばれない様、僕は少し体勢をずらす。


そして静かに溜息をつく。



もうちょっと悪戯しても罰は当たらないよな。

いっその事キスしてやろうか…、


そう決心した瞬間、直子が目を覚ます。



直子:「お兄ちゃん、エッチな事したでしょ、」

直人:「さあね、」


僕は意地悪を言う。


これ位は当然許されて然るべきだ。

何しろ僕は、一晩中「おあずけ」拷問を受け続けていたのだから。



直子:「良いもん、仕返しするから。」


そういうと、直子は パジャマの上から指先で 僕の乳首を…



直子:「命中!」


直人:「馬鹿っ! なにすんだよ!!」


飛び起きる!



直人:「風邪はもういいのか。」

直子:「うん、もう全然大丈夫。」


直子は 猫の様に伸びをした。

妖しげな美少女が 悩ましげなポーズで 僕を誘惑する。



直子:「何か、こんなにぐっすり寝たの初めて。」

直子:「お兄ちゃん、ふにゃふにゃで起きられないよ〜。」


直子、再び布団の上に撃沈する…

僕は、一応 笑う…



直人:「何か食べる?」

直子:「うん、お腹空いた。」


長髪の美少女が、無防備な大の字で挑発する…、


まあ、元気になったって事か。

…そう言えば、昨日買って来た鍋焼きうどんの材料がそのまま残っていたな…


僕は未だ納まらない秘密がばれない様に背中を向けたまま鍋を火にかけた。 






この日、僕達は学校を休んで ブレスレッドに御呪おまじないを施してくれたと言う先生を訪ねる事にした。



お昼前の閑散とした電車の中で、

僕達はしっかりと手を繋ぎ、直子は僕に身体を預けている。


昨日から、直子はずっと僕にくっ付いたままだった。 それが病気の不安から来ている事は分かっている。 だから余計に切なくなる。



小田急線沿線の駅前ビル、

ひっそりとした3Fの一室に、その事務所はあった。


看板ひとつ掲げられていないその事務所は、まるで空きテナントの様にも見える。 僕は教えられた部屋番号だけを頼りに、その怪しげな事務所のドアを開けた。




猫耳メイド:「いらっしゃいませ。」


何故か、メイド服に猫耳を付けた可愛らしい金髪のお姉さんが現れた。


僕は、てっきり部屋を間違えたのだと確信する。



苦笑いしながら 後退あとずさって、出て行こうとした僕の手を 猫耳メイドが捕まえる。



猫耳メイド:「ようこそ! 加茂・萬祓よろずはらいモノ相談所へ!」


直人:「いや、…済みません。 間違えました…。」


直子は、…完全に固まっている。

何か見ては行けない物を見た? ミタイナ…、



美女:「ここで合ってるわよ。 昨日電話くれた朝比奈さんでしょ、中に入って。」


事務所の奥から、綺麗なお姉さんが声をかける。



美女:「あんたは良いから、お茶でも入れてきなさい。」

猫耳メイド:「先輩、私 そろそろ許して貰っても良い頃だと思うのです。」

美女:「未だ駄目よ、泥棒猫にはその格好がお似合いよ。」



美女:「こちらへどうぞ…。」


直人:「さっきの人は?」


僕たちは、衝立ついたての奥のテーブルに案内される。



美人:「気にしないで、一応うちの先生よ。」



不思議な…そして綺麗な女性だ。

瑠璃色がかった髪、芯の強そうな眼差し、スレンダーで黄金比なスタイル。


…年の頃は30歳前後だろうか。



美女:「お久しぶりね朝比奈さん。お兄さんは始めましてかな、北条です。」


僕は、昨日のあらましをスレンダー美人に説明する。



北条:「元々これは病気じゃないわ、先祖がえり的なもの? 動物とか、昔の人間とかには普通に備わっていた能力よ。 神と対話する能力。 言葉を持たなかった頃のコミュニケーション手段。」


美人の先生は、じっと僕の目を見つめながら 何だかよく分からない話を説明しはじめた。



北条:「直子さんはその能力が人一倍強いの。 所謂いわゆるシャーマンと呼ばれる人の体質よ。 こう言う人達は ある種のリラックス状態の時に 意識が自分の身体を離れた様に感じたり、自己を超越して神秘的なモノと交流したと感じたりするの。」


北条:「変性意識状態アルタードステイツって言われているわ。」


…チンプンカンプン、



北条:「直子さんの場合は、脱魂だつこん感覚以外にも、霊視幻覚もあったと思うけれど、普段の症状はどうなの。今も見えてるの?」


直子:「はい、見えます。」

直人:「見えるって、何が?」


直子:「生きてないヒト。今も、先生の後ろに男の人が立ってます。」


直子は、少し目を伏せながら 小さな声で呟いた。



誰が、…立ってるだって?


…僕が幾ら目を凝らしても、そんな人間は影も形も見当たらない。




先生が指で 直子の右耳タブを摘む。


北条:「これではどう?」



直子:「あっ、見えなくなりました。」

北条:「フム、」


僕は一人取り残される…。


二人が何をやっているのか、何が起こっているのか全く分からないから、余計に不安になる。



直人:「これって…何かの病気なんですか?」


北条:「聞いてなかったの? 病気じゃないわ。」



北条:「良い事、何が見えているか、聞こえているかは 結局脳が決めるの。 実際に其処に何があるかとは別問題なのよ。」


北条:「脳が像を結ぶ理由となる「何か」が其処に在って、それに反応しているのよ。 気配とか、不安とか、閃きとか、色々ね。」



北条:「人間は言語によるコミュニケーションを発達させる過程でこういう感覚を淘汰して無くしてきたのだけれど、 極稀ごくまれに、その能力を持って生まれて来る人がいるの。」


北条:「人体組織的に異常が発見されないから 現在の西洋医学で検証したり直したりする事は困難だわ。 一部の学会で研究も進んでいるけれども、治療薬と呼ばれるモノが一般に使われる様になるには未だ未だ時間が掛かるでしょうね。」


…脳? …言語?? …何???



北条:「私達はそれを待っていられない人達の為の悩みを解決するのが仕事っていう訳。 勿論もちろん慈善事業じゃないから、それなりの報酬と誓約書は交わして貰うけどね。」



猫耳メイド:「粗茶です。」


猫耳メイドが番茶を運んでくる。

なんだか、不思議な薫りがする番茶?




直人:「直せるんですか?」


美人の先生がムスっと しかめっ面になる。



北条:「貴方、人の話 聞いてなかったの? 直せないわよ。 病気じゃないもの。」


直人:「でも、ブレスレッドに御呪おまじない して貰ったって、」



北条:「そういう状態にならない様にする事はできるわ。 でも5年ももったんだから、十分ギャランティは果たしたはずよ。」


北条:「新たに依頼すると言うのなら勿論 請けるけど、高いわよ。」



直人:「幾らですか?」


北条:「まあ、学生割引で大負けに負けて150万円ってところかな。 言っとくけど、保険は利かないわよ。」



直人:「直ぐには用意できません。」


金が無い事が辛いというのを改めて実感する。




北条:「全く、…そんな情け無い顔しないでよ、ほっとけなくなるじゃない。 ずるいわよ、まるでうちの旦那ミタイ!」


美人の先生は「ヤレヤレ」と言った感じで溜息をつく。



北条:「まあ、変性意識状態になるのは 大抵 静かに落ち着いている時か、強制的にトランス状態に導かれた時よ。 普通に生活していて急になる事は滅多に無いから、放って置いても直ぐに危険という事は無いわ。」 


北条:「それと、突然 御呪いの効果が消えたのだとしたら、…何か別のモノに切り替わったかも知れないわね。 直子さん、なにか心辺りは無いの? ブレスレッドと同様かそれ以上の効果をもたらす何か。」


直子が、僕を指差す…



直人:「えっ?」

直子:「お兄ちゃん。」


直子:「お兄ちゃんに触っていると。 その、安心していられるというか…、霊が見えなくなります。」


それで、ずっと僕にくっ付いていたと言う訳? なのか…



北条:「そう、突然そうなったの? 何かきっかけになるような事はなかったかしら。」


なんだか、直子の様子がおかしい。

…真っ赤になってうつむいている。 



北条:「ふーん、まあ良いわ。それじゃあ、お兄さんに存分に甘えさせてもらう事ね。」


北条:「今日の所は以上で終わりよ、アフターサービスって事で無料ただにしてあげるわ。」


美人の先生は、僕らを促す様に席を立つ。



直人:「先生、教えてください。 …神様とか霊とかって、本当に存在するんですか?」 


北条:「私は貴方達の信仰に干渉する気はないわ、それは貴方達が決めれば良い事よ。」






夕方、僕たちは無言のまま家に帰り着く。

…僕は、直子を敷きっぱなしの布団の上に座らせる。



直人:「どうして…最初に言わなかったの?」

直人:「一人で、ずっと 我慢してたの?」


直子:「だって、」


直子の言葉は続かない…、

俯いたまま、それでも僕の手を離そうとはしない。



直人:「今も霊が見えるの?」


直子はフルフルと首を横に振る。



直子:「お兄ちゃんと手を繋いでいたら…見えない。 離すと、見える。」


直人:「この部屋にも…居るの?」


直子は、コクリと首を縦に振る。



直子が、僕の手を離す。

…深呼吸して、部屋の中を一瞥する。



直子:「段ボール箱の隣に背広を着た男のヒトが居る。 ロフトの上に、体中を包帯でグルグル巻きにした男の子が居る。 後、お風呂にも髪の毛が若布わかめみたいになった女の人が居る…。」


…居る? 居る?



直人:「いつも、居るの?」


直子がゆっくりと頷く。



直子:「引っ越して来たときから、多分 その前から、ずっと此処に居る。」


僕は、直子に言われた場所に目を凝らす。


…本当に、そんなモノが居るのか?



ゆらり


空気が動く気配を感じる…。



音:「カタン!」


風呂場で、突然音がする…。



背筋が、何かで突き刺された様にきしみをあげる!



直人:「何? 今の??」


何時の間にか、僕は後ずさりしていた。


立ち上がって、



直人:「気味・・い事…言うなよ…。」


突然! 直子が僕に飛びかかる!

必死の形相で僕の足に取りすがり、…しがみ付く!!



直子:「嫌! 逃げないで!」

直人:「えっ?」


直子:「嫌いにならないで! 私から離れないで!!」


僕は尻餅を付き、

直子は僕を押し倒して 馬乗りになる。


泣いている…?



直子:「お願い、…捨てないで!」



その時、玄関の扉が開く…



礼子:「直人クン、大丈夫なの…今日、学校 休んだ…って?」


礼子の後ろには…仁美??




6畳一間の布団の上で、朝比奈直子が泣き叫びながら 僕の下半身に抱きついている…って、どう見ても怪しい光景、


仁美は顔を真っ赤にして そんな僕達の姿を凝視している。


登場人物のおさらい

春日夜直人:主人公

朝比奈直子:妹、時々シャーマン

北条文華:「加茂萬祓いモノ相談所」のカウンセラー、28歳 既婚

加茂理夜:「加茂萬祓いモノ相談所」の先生、時々猫耳メイド 27歳 独身

中川礼子:管理人のお姉さん、まあ心配だったんですね、

森口仁美:委員長、無断欠席した直人の様子を見に来たんですね、

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