エピソード4 変化 <NaoKo Part>
昨日は、危なかった。
もうちょっとでお兄ちゃんに変態がバレる所だった。
お兄ちゃんのパジャマ抱きしめてるとか。 パンツ隠し持ってるとか。
今思い出しても、ドキドキする。
そして、そして、お兄ちゃんが抱きしめてくれた!
電流の様に温かな何かが ビリビリと私の身体に流れ込んで来た。
私の全ての強張りを解きほぐしてくれた。
「大丈夫だよ、一緒に居る」って言ってくれた。
不吉な気配と 私自身を包み込んでいた影は消滅し、
私は 世界が鮮やかだった記憶を取り戻した。
夜の闇でさえ眩しかった。
直子:「お兄ちゃん…か。」
私にとって、お兄ちゃんが特別な存在で有る事は明白だった。
コレ迄誰一人として、パパでさえ私から影を退ける事は出来無かった。
きっと、私とお兄ちゃんはバラバラでは生きていけない、そう言う関係に違いない。
探し求めていたモノが やっと見つかった。
私は、じっとしている。
体温計:「ピピピ…、」
…もう、熱も下がった。
壁:「コンコン…、」
…201号室から、壁を叩く音。
礼子:「直子ちゃん 起きてる?」
直子:「はい、起きてます。」
10時30分、礼子さんが訪ねてきた。
礼子:「プリン食べる?」
優しい管理人さんが 漫画雑誌を持ってきてくれる。
「本当にあった怖いお隣さんの話」…?
礼子:「アルアルで結構ゾ〜っとするのよ。 3つ目の話って、実際にこのアパートでも似た様な事が有ったの!」
礼子:「薬は飲んだ?」
直子:「朝、7時頃に飲みました。 お陰さまで熱は下がったみたいです。」
礼子:「明日は学校いけそうかな。」
直子:「はい、もう大丈夫だと思います。」
礼子:「後で晩ご飯、持って来て上げるわ。」
直子:「お兄ちゃんが作ってくれるって言ってました。」
礼子:「本当に作れるのかな?」
礼子:「今日一日は大事を取って、大人しくしてるのよ。何か有ったら壁叩いて知らせてね。」
直子:「有り難うございます。」
礼子:「じゃあ、お大事にね。」
お昼、お粥食べた。
お兄ちゃんのダンボール箱、物色した。
漫画読んだ。
直子:「あんまし 面白く無いな…。」
退屈…、
…インターネットでもあれば良いのにな。
直子:「あっ、Twitter 放置したままだ…。」
ふっと気が付くと、どうやらいつの間にか少し眠っていたみたい。
時計は…3時15分、
見ると、お兄ちゃんのパンツが、部屋の隅に放り投げられていた 。
危ない危ない。 急いでパンツを拾いに行く。
影のヒトは…見当たらない。
…お兄ちゃんの布団に包まっていたから、大丈夫だったのかな。
それにしても、寝ている間にお兄ちゃんが帰ってきて、私がパンツ握りしめてる処を見られたら…
直子:「…不味いよね。」
何処かに隠さないと、
さっきはパジャマの下に入れてあったのだが、多分 寝てる間に熱くなって取り出してしまったのだろう。
かく成る上は…
…お兄ちゃんのパンツを履く!
直子:「直接履いた方が、退魔効果は大きいと思うのよね、」
言ってる自分が馬鹿な子の様に思えて来る。
先ずは、自分のパンツを脱いで…
やっぱり、気になるから…
…二つのパンツの匂いを確かめる。
直子:「うえっ…。」
ちょっと、違う匂い。 やっぱ自分のは嫌!
もう一度、お兄ちゃんのパンツを嗅いで見る…
…何か付いてる?
直子:「妊娠しないよね…」
履いてみる。
直子:「何かスースーする。 頼りない感じ…。」
私…なんでこんな事に成ってるんだっけ、
そうそう、お兄ちゃんの匂いの付いた物を身につけていれば、影のヒトが消滅するんだよ!
改めてその必然性を自分自身に言い聞かせる。
でも、男物のトランクスを履いた自分って…変なの。
自分でも気付かない内に 好奇心が理性を屈服させる…
私は、健康女子の本能に促されるまま 「それ」の上から自らの最も敏感な部分を そっと擦って うっとりと、目を閉じる…
直子:「…って、馬鹿? 私、やっぱり馬鹿??」
思わず! 我に帰り、真っ赤になって 大声で叫ぶ!!
礼子:「何! どうしたの? 直子ちゃん! 大丈夫?!」
壁の向こう201号室から 礼子さんの叫び声、
直子:「す、すみませ〜ん! なんか ホントすみませ〜ん!!」
寝よう…
布団に入って、ぼーっと天井を見ている。
何だか変な感じ お腹が…重い?
ふと見ると…影のヒトが布団の上に乗っている!
直子:「どうして?」
足下の布団を捲られる。
私は咄嗟にブレスレッドを握り締める。
影のヒト に足首を掴まれて、引き摺りだされる。
ブレスレッドが利かない!!
直子:「嫌!」
引き摺りだされる。 …身体から、
宙に浮いている。 …何時の間にか、私…
見られてる。 …部屋中に、何かが居る…
パニック!!!
落ち着いて、私。
魂が抜けている!
落ち着け、
…前にもなった事がある。
私は、部屋の中をふわふわ浮かんでいる、
ロフトが見える。
天井が見える。
床が見える。
布団に包まったまま、眠っている 自分の身体が見える。
あっ、自分のパンツ出しっぱなしじゃ無い!
ちょっと、まて、
私は宙をぐるぐる回転する。
どうすれば、元に戻れるんだっけ?
思い出せ!
天井から頭が突き抜ける。
屋根裏?
更にそのまま、屋根を抜けて外に出る。
夜?
違う。
昼だけど、暗い。
空が影に包まれている。
身体に戻らなきゃ!
世界が折りたたまれる。
世界に歪に裂け目できる。
裂け目から、光が漏れて来る。
裂け目に…吸い込まれる。
まずい!
アレに吸い込まれたら キットまずい!!
どうすれば身体に戻れるんだっけ!
私は自由が利かないまま、無理矢理、光の中に引き摺り込まれる。
膨大な量の「何か」が、流れている。
流れに翻弄される。
「何か」が、頭の中に入って来る。 勝手に入って来る。
余りにも多くの情報が脳内を交錯する。
とても一つ一つに気を配っている余裕等無い。
ただ流されるままに呆然と「何か」を受け入れる。
想念の濁流の傍にあって、私は「何か」を眺めている。
やがて、誰かが私の腕を捕まえる。
1000kmに及ぶ超大な距離から、私を呼び戻す声。
私は、誰かに揺さぶられている。
抱きしめられている。
誰かが、私を必要としている。
私は、息を吹き返す。
視点が、現実の物に焦点を戻す。
暗い、狭い部屋だ、忌々しい天井だ。
誰かが、泣いている。
私を覆い尽くしていた影は、壁や床の隙間から、裏側の世界へと退散する。
酸素が、脳に行き渡る。
直人:「直子! 直子! しかっりしろ! 直子!」
私は、生まれたばかりの赤子の様に、産声を上げる。
横隔膜が、自律呼吸を再会する。
直人:「直子、頼む、死なないで…」
直子:「お、にいちゃ…ん、」
ぼーっとして、怠い。
直子:「だい、じょう、ぶ …よ、 寝てた、…だけ。」
お兄ちゃんが、私を抱きしめてる。
直人:「こんな、怖い寝方があるかよ。」
お兄ちゃんから、温度が伝わって来る。
…じわじわと、私は生気を回復する。
直子:「もう、…大丈夫だから、 …心配しないで。」
直子:「大丈夫だから…」
私は、お兄ちゃんの頭を撫でる。
直人:「病院にいこう。」
直子:「無駄なの。」
直子:「お医者さんには何回も見てもらった。」
直子:「でも、直らなかった。」
漸く、私の視覚が お兄ちゃんを認識する。
直人:「これって、風邪じゃないの?」
直子:「お願い、抱きしめていて。 もう少しだけ…」
お兄ちゃんが、私の体温を取り戻してくれる。
ようやく末端の感覚が戻って来る。
私は、大きな溜息をつく。
直人:「死んじゃったのかと思って心配した。」
直人:「何なんだ、一体これは。」
お兄ちゃんは、涙を流していた。
直子:「私も良くわかんない。 …魂が身体から抜けちゃうの。」
直人:「魂? …幽体離脱?」
直人:「でも、直子、息してなかった。」
直人:「何かの病気とかじゃないのか?」
お兄ちゃんは、ブルブル震えていた。
ゴメンね…、怖い想いさせちゃったね…
直子:「いっぱいお医者さんに診てもらった、薬も飲んだ、でも直らなかったの。」
私は、左手首をお兄ちゃんに見せる。
直子:「一人だけ、5年前に診てもらった先生が、直してくれた。」
直子:「このブレスレッドに御呪いをしてくれた。」
登場人物のおさらい
朝比奈直子:主人公
春日夜直人:お兄ちゃん
中川礼子:隣のおばさん、ゴシッぷ・ホラー好き