エピソード2 接触 <NaoTo Part>
僕は金縛りにあったかの様に、外眼筋の自由を奪われていた。
僕の視線はその少女に吸い込まれたまま行き場を失う、
そして 見蕩れると言う言葉の意味を、生まれて始めて理解した。
礼子:「あらぁ? もしかして一目惚れしちゃったの?」
直人:「えっ?」
礼子さんの声に弾かれて、僕は ようやく自由を取り戻す。
少女は、怯えた様に眼を逸らす。
直人:「はは…、」
…まあ、そうだよな。
礼子:「仲良くしてとは言ったけど、高校生として節度ある行動は お願いするわね。」
30代後半のお姉さん?が、僕の肩に肘を乗せる。
礼子:「…と言うのは表向き。一応 貴方達のお父さんから任された手前ね。」
礼子:「まあ、年頃の男女が一つの部屋で寝起きを共にするんだから、大人しくしてろ って言う方が無茶な話よね。」
30代後半のお姉さん?の胸が、僕の腕に密着する。
礼子:「…と言う訳で、後は貴方たちの判断に任せるわ。」
礼子:「もしも、どうしても上手く行かない様なら言ってきなさい。 例えば 直人君に管理人室を使ってもらう ってやり方もあるから。」
それから 礼子さんは、一通り部屋の中をチェックする。
礼子:「直ぐに必要なモノって揃ってるかな? 歯ブラシ、歯磨き、石鹸、シャンプー、リンス、化粧品、大丈夫? 薬は、とりあえず うちにあるのを貸してあげるから、必要になったら言ってきなさい。」
続いて、シンク周りをチェック、
礼子:「食器は、…買わないと駄目か、それと 洗濯洗剤、食器洗い、調味料…、」
礼子:「後、必要なものは買う前にまず相談してみて、結構引っ越して行った人が残していったものがあるから。」
直人:「あっ、掃除機。」
礼子:「確か、どっかに余ってたから 買わなくていいわよ。」
そうして、部屋の鍵を僕に手渡す。
礼子:「じゃあ、二人してお買い物 行ってらっしゃい!」
目を細めて、冷やかしの微笑み…
礼子:「まるで新婚さんね~」
少女は、銀のブレスレッドを弄りながら 苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らす。
直人:「もう、からかわないで下さいよ。」
嫌われちゃったかな…
礼子:「直人君、折りたたみのテーブルが管理人室にあるから、後で取りに来てね。」
30代後半のお姉さん?が 掌をひらひらさせて 僕らを見送る。
スーパー「イチカワ」の隣が ホームセンター「タカヨシ」だった。
直人:「とりあえず、お茶碗と味噌汁のお椀と、お皿が二枚づつ有れば良いかな、…お箸は、これで良い?」
僕は2本セットの夫婦箸を棚から拾い上げる。
直子:「こっちの方が、可愛い…」
始めて、喋ってくれた?
声も可愛い…
直人:「コップと、スプーンも要る?」
相変わらず目は合わせてくれないが、黙ったまま頷いてくれる。
直子:「後、包丁とお玉、菜箸も、それと、お鍋とフライパン、」
僕は 片っ端からカゴに入れて行く、
直人:「結構、必要なモノって多いんだね。」
直子:「…、」
直子:「食器洗剤と、布巾も要る、」
僕は財布の中身を確かめる。
直人:「お金、足りるかな。」
手持ちは5000円ちょっと、
直子:「多分、大丈夫、…私も、持ってきたから。」
僕達はレジで会計を済ませて、袋に商品を詰めて行く。
周りからは、どんな風に見えているんだろうか、 まさか新婚夫婦には見えないだろう。 どちらかと言えば…兄弟? 身長130cm足らずの少女は、見ようによっては小学生にも見える。
直人:「調味料とか、今日の食材とかどうする?」
直子:「さっき買った、」
直人:「じゃあ取り敢えずこれ位にして、後は戻ってから足りないモノをチェックしようか。」
少女が、チラッと僕の事を上目遣いして…頷く。
何だか不安そうな顔、…そりゃまあ、そうだろう。
いきなり見ず知らずの男と 二人きりで暮らさないといけないなんて、女の子にしてみれば 普通にショックだよな。
買い物袋を部屋に置いてから、僕は管理人室を訪ねた。
直人:「すみませーん、テーブルもらいに来ましたぁ。」
礼子:「そこに立てかけてある奴、持って行って。」
礼子:「後、新聞屋から もらったお米あるから、それも持ってって良いわよ。」
礼子さんがトコトコ部屋の奥から出て来る。
普通に美人なんだけどな、…何で独身なんだろう?
直人:「色々、済みません。 助かります。」
礼子:「あっ、それと 使い始めのガス、電気、水道のメーターチェックしといてね。」
直人:「はい、」
礼子:「がんばってね、お兄さん!」
…お兄さん?
直人:「そうですよね、…僕って、お兄さん なんですよね。」
何だか妙に納得する。 同時にチョット、残念になる。
礼子さんは口を「への字」にして 小さく溜息、
礼子:「ちょっとおいで、」
人差し指をクイクイ、
礼子:「どうしても我慢できなくなったら、」
こそこそと耳打ち、
…我慢?
礼子:「仕方が無いから お姉さんのところに来なさい。 …処理してあげるから、」
…お姉さん? 処理??
3秒掛かって血が巡り… 僕は思わず赤面する、、、
直人:「ば! 何を、言って…、
全く、…何処から突っ込んだら良いモノやら 分かんないんですけど!」
今度は礼子さんが、赤くなる
礼子:「やあね、心配しなくてもちゃんと教えてあげるわよ。」
直人:「いや、違う! そうじゃなくて!!」
そして僕は、始めてヒトに ご飯を作ってもらえる事の有難味を知る。
直人:「美味しい!」
直子:「ほんと?」
直子、ちょっと喜んでる。
その微笑みの所為で、
慎ましやかな野菜炒めが、これまで食べたどんなフルコースよりも愛おしく感じる。
直人:「これから暫く大変だけど、力を合わせて頑張って行こうね。」
直子は、恥ずかしそうに顔を赤くしながら、小さく頷く。
すっかり平らげた後の午後7時、
ところで部屋にはプライバシーを守れる空間が何処にも無い、
直人:「僕、ちょっと出かけてくる。 2時間位は戻らないかな。…その間に 先にお風呂とか入っておいて。」
しかし コレと言って行く宛も無いから、崖下の児童公園で 夜桜を見て時間を潰す。
引っ越し荷物の中から出て来た父親の手紙を街灯で照らす。 引っ越し前、ドタバタしていて 結局中身を見ないまま 段ボールに放り込んだのだった。
〜〜
直子は俺の親友の大切な娘だ、
そしてお前の母さんの妹の娘だ、
お前にとっては従妹にあたる、
直子はもともと精神的に強い方ではない、
あの子にはお前の助けが必要だ、
どうかあの子を護ってやってくれ。
当座の資金を入れておく、
後は…何とか自分で凌いでくれ。
〜〜
封筒には 10万円が入っていた。
部屋に戻ると、
何故だか、パジャマ姿の直子が待っていた。
直人:「先に寝ててくれて良かったのに…って、こんなに早く寝られないか。」
思わず、女の子のパジャマ姿に どぎまぎする。
直人:「テレビもないし、退屈だよね。 その内バイトでもして買おうか。」
直子、頷く。
直人:「ところで、直子さん…って幾つなの?」
直子:「15、」
アヒル座りした可愛らしい裸足の指が、パジャマの裾からはみ出している…
直人:「僕 17。 二つ違いだね、学校は?」
直子:「南高校。」
緩いパジャマの襟元から、慎ましやかな膨らみの片鱗が覗く…
僕は、思わず視線を逸らす、
直人:「同じだね、じゃあ 一年生?」
直子、頷く。
濡れたままの長髪がヤケに艶っぽい…
直人:「そっか! ドライヤ無かったね、大丈夫?」
直子、頷く。
直子:「今、乾かしてたとこ…」
だんだん、直子の顔が真っ赤になる。
そりゃそうだよな、僕も何だか変な感じ… 一体何なんだよ! この会話、
直子はさっきからずっと、手首のブレスレッドを弄っていた。
銀の鎖に、アクセントの赤い石がはめ込まれている。
直人:「綺麗だね、」
直子、途端に真っ赤になる!
直人:「あっ、いや、その、アクセサリ。」
直子、ちょっと俯く、
直子:「お母さんの形見…」
…不味いこと聞いたかな、
…会話が続かない。
直人:「僕もお風呂入ろうかな、」
直子、頷く
そそくさと直子がロフトに上がり、僕はロフトからは見えない位置で服を脱ぐ。
ユニットバスは、風呂の洗い場にトイレと洗面台を無理矢理詰め込んだ 本当に小さなモノだった。
直子が入った後のお風呂に浸かる、
古い浴室にこびりついたカビの匂いに混じって、シャンプーの匂いと、微かに甘い直子の気配。
パジャマ姿の 美少女の物憂げな表情が脳裏に蘇ってくる。
自分と同じお湯に浸かった 銀色の少女の肢体が妄想される。
父さん…護ってやれって言うけどさ、…僕が一番危険だよ。
シャワーの音に紛れて 僕は静かに自らを慰める。
登場人物のおさらい
春日夜直人:主人公
朝比奈直子:従妹
中川礼子:30代後半のお姉さん?