エピソード7 代替 <NaoKo Part>
何か変、
どうしてあんな事を言っちゃったんだろう。
二人が本当の兄妹だ なんて事、
それなのに堪らなく好きだ なんて事、
絶対に お兄ちゃんには話さないって 心に決めてた筈なのに。
…私、きっと どうかしてたんだ。
変になったのは、お兄ちゃんの血を舐めた後だ。
全身の力が抜けて、頭が真っ白になって、何もかもがどうでも良くなって、
気がついたら隠しておいた事をペラペラ喋ってた。
急に我に返って恥ずかしくなった私は 呆然とするお兄ちゃんを置き去りにしたまま 一人学校を飛び出して来てしまった。
早退不良女は スーパー「イチカワ」で晩ご飯の買い物を済ませた後、スカイコーポ中川への急な坂道を上っていく。
途中の児童公園の桜は、すっかり若々しい葉桜へと姿を代えていた。
…私も、あんな風に生まれ変われれば良いのにな。
アパートの前で管理人さんに呼び止められる。
礼子:「直子ちゃん、ちょっと お茶していかない?」
101号室
礼子:「昨日は、その ごめんなさいね。」
直子:「こちらこそ、お恥ずかしい所をお見せしてしまいました。 …スミマセン。」
礼子:「お兄さんと、上手く行ってないのかな、もしかして。」
直子:「いいえ、悪いのは私なんです。 一人で勝手に不安になって、」
直子:「時々、わーってなっちゃって、言わなくても良い事を言っちゃったりするんです。 私、子供なんですかね。」
管理人さんが、紅茶を入れてくれる。 …良い薫り、
直子:「そう言えば 礼子さんは、私のママと友達だったんですよね。」
礼子:「そうね、今でもそうだと思っているわ。」
直子:「どっちのママと、友達だったんですか。」
礼子:「直美が私の親友。 貴方を生んでくれたお母さん。」
礼子:「いいもの見せてあげるわ。」
引っ張り出してきたのは 古い写真、
ふざけあっている二人の女性、
礼子:「大学時代の私と、これが直美。 もう20年近く前の写真ね、 …凄い髪型、というか化粧酷い…。 この頃は流行ってたのよ、こう言うの。」
直子:「へえ…」
礼子:「こうしてみると、やっぱり貴方って直美に似てるわね。」
はじめて見る、ママの顔。
私なんかより ずっと溌剌としていて、ずっと綺麗。
直子:「やっぱり、私とお兄ちゃんは血のつながった兄妹なんですね。」
直子:「実の兄の事が好きになっちゃうのって、変ですよね。」
あの時、私は 本当の兄妹でも構わない、結ばれたい、結婚は無理でも、交わりたい。 本気でそう思ってしまっていた。
今は、やっぱりチョット怖い。
好きなだけじゃ上手く行かない事が有るのを私は知っている。
誰にも祝ってもらえない「好き」は不幸を呼び寄せる。
私を生んでくれたママ。
みんなから疎まれ、嫌われ、忌まれ、
多分、それで私達の前から姿を消した。
私を育ててくれたママ。
悲しい、辛い、悔しい 思いをして、
多分、それで重い病気になった。
私が生まれた事で、私の二人のママは不幸になった。
私は お兄ちゃんを不幸になんてしたく無い。
礼子:「実の兄妹って言っても 生まれてから 今迄一度も会った事無かったんだものね。 突然引き合わされて 突然一緒に暮らし始めれば、一人の男性として意識しちゃっても仕方ないと思うわ。」
直子:「どうして、パパ達は そんな事させたんでしょうか。」
礼子:「さあ、私にも分からない。」
礼子:「きっと貴方達は急激に接近しすぎて混乱してるんだと思う。 少し冷静になる為にも お兄さんと距離をとるのも良いかも知れないわね。」
礼子:「直人君にはこの管理人室を使ってもらう事にしましょうか。」
礼子:「家賃とかは気にしなくていいよ。 私、貴方達のお母さん代わり… 気分的には、お姉さんの代わり位に思ってるんだから、遠慮しないでね。」
直子:「はい。」
ほんの一週間前まで、私はお兄ちゃんと会った事もなかった。
…なのに今、お兄ちゃんが居ない生活なんて考えられない。
自然と涙がこぼれそうになる。
でも、きっと礼子さんが言ってる事が正しい。
時計は22時30分を回っている、
私はお兄ちゃんの布団で包まりながら、パジャマの匂いを嗅いでいる。
お兄ちゃんの帰りが遅い、
何してるんだろう…
あの女と、イチャイチャしてるんだろうか…
また、勝手に 涙が流れてくる。
お兄ちゃんを放したくない…
私だけのものにしたい…
不安な気持ちは 影のヒト を活性化させる。
うっすらと、影のヒトが動き回る姿が見え始めている。
風呂場から、ぶつぶつ囁く声が聞こえてくる 。
部屋の灯りが、次第に灰色の闇に包まれていく。
ブレスレッドの効力を失った今、私はお兄ちゃん無しでは まともな生活も送れない。
私は再び、影の中に引き摺り込まれていた。
そう、私はもともと影の中に棲んでいた。
お兄ちゃんに出会って、初めて影の無い世界を知った。
それはとても心地よかった。 眩しかった。 温かかった。
でも、私には陰の中に棲まなければならない理由があった筈、
…私は穢れていなければならない
…私は壊れていなければならない
お兄ちゃんだけが、私を完全にする事が出来る
だから私はお兄ちゃんが欲しい
だから私はおにいちゃんを手に入れてはいけない
扉:「カチャリ」
ようやく、お兄ちゃんが帰って来る。
直子:「お帰り。」
直人:「ただ今。」
私はパジャマを抱きしめたまま 玄関迄迎えにいく。
直人:「今、礼子さんから話を聞いた。 僕、管理人室に移るよ。」
お兄ちゃんは 後ろを向いたまま、靴を揃えながら返事する。
直子:「お兄ちゃん。」
直人:「何…。」
お兄ちゃんは私から目を逸らしたまま部屋の奥へ、
私はお兄ちゃんに引っ付いて歩く。
直子:「ごめんなさい。」
直人:「直子は、…何も悪い事なんかしてないよ。」
振り向いてくれたお兄ちゃんの顔は、それでも何だか辛そうだ。
直子:「…ママの事。 傷ついた?」
直人:「…直子は、嘘はついてないんだろう。」
私はこっくりと頷く。
直人:「だったら、何も謝る事なんて無いさ。話してくれてありがとうね。」
お兄ちゃんは笑ってくれる。 でも…元気が無い。
直子:「お兄ちゃん、直子の事、嫌いになった?」
直人:「嫌いになる訳 無いよ。」
きっと、私 泣きそうな顔してる。
直子:「血がつながった兄妹でも、優しくしてくれる?」
直人:「当たり前だよ。」
私は、何時の間にかお兄ちゃんのシャツを摘んでる。
直子:「抱っこして。」
直人:「何で?」
だって、…不安で溜まらないんだもの、
直子:「だって、…お兄ちゃん、直子の事 抱っこしたい、キスしたいって言ったじゃない。」
私は、無理矢理お兄ちゃんにしがみ付く。
その途端 …温かさと、明るさが、私に蘇って来る。
直子:「キスして、」
直人:「でも…、」
直子:「…夜の分、頂戴。」
直人:「そう言う事なら…、歯を磨いて来る。」
直子:「いいの、そのままで良いから。 お願い。」
私は目を閉じて 、
…お兄ちゃんが唇を重ねる。
奪う様に舌を絡ませ、
…次第に二人の呼吸は激しくなる。
私の動悸は まるで早鐘の様、
…これから起きる事を畏れ、期待し、自然と全身が強張る。
そのまま床に崩れ落ち、抱きしめ合い、貪り合う。
…お兄ちゃんの掌が、私の胸を弄り、
…私の硬く尖った部分が、敏感に異性を感じる。
全てが済んでしまうまで、意識を何処かへ避難させられれば良いのに、
…蝗の羽音が 頭の中を響き渡る。
私は、お兄ちゃんの唇を噛み千切り! 零れ出した赤い血液を舐める! 吸う!
…何も考えられない、
…既に身体の自由は奪われている。
ガラスに映った私の姿は、雄を求める雌の様に両手両脚で男を抱え込み、艶かしく蠕動している。
…黒い蝗が、私の背中にしがみついている。
直子:「いやあ…」
私の絶望の呻きに お兄ちゃんが我に返る!
直人:「直子、ゴメン…」
私は、虚ろな目で天井を見上げ、弛緩した手足を 無様に痙攣させ続けている。
吸血の絶頂を越えて、やがて緩緩と冷静さを取り戻す。
トロトロと鼻血が流れ出て、何時の間にか口元を濡らしていた。
既に黒蝗の姿は見当たらない、
…あれは、見間違いだったのだろうか?
お兄ちゃんが、優しく私の頬に触れてくれる。
タオルで、私の鼻血を拭ってくれる。
直子:「お兄ちゃん、ゴメンなさい。 …痛かった?」
お兄ちゃんの唇は、赤く腫れて血を滴らせていた。
直人:「ちょっと、びっくりした。」
直人:「やっぱり、一緒に居るのは ちょっと危険だな。
…きっと、僕、我慢できなくなる。」
お兄ちゃんが照れくさそうに笑う。
直子:「…私も、我慢できないかも、」
私も、つられて笑う。
直人:「僕、…やっぱり管理人室で寝るよ。」
直子:「うん、分かった …また明日ね。」
直人:「また明日。」
お兄ちゃんが 部屋を出て行った後 、私はゆっくりと身体を起こす。
お兄ちゃんエキスを充填された私は、すっかり温かさと鮮やかさで包み込まれていた。
幸い、鼻血は直ぐに止まった様だった。
直子:「あっ、」
気づかないうちに、ちょっと失禁している…
登場人物のおさらい
朝比奈直子:主人公
春日夜直人:兄
中川礼子:管理人、春日夜直美の親友




