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エピソード7 代替 <NaoTo Part>

おかしい、


二人が本当の兄妹であるなんて事、

母さんが 別の男と子供を作っていたなんて事、

有り得る筈が無い。


何でそう思えるのだろう。

…それがおかしい。



母さんは、どうして家を出て行ったんだろう。

そもそも、僕には あまり母さんの記憶が無い。



家の事は全部 家政婦がやってくれていた。

僕の面倒は、家庭教師と言う名のベビーシッターが見てくれていた。


もともと、母さんが居ない事がそれ程 不思議ではなかったのだ。



そう言えば、この森口家にも母親の気配がしない、

僕は余り違和感を覚えなかったのだが、これは普通なのだろうか。


配達用のお好み焼きを焼く 仁美に、聞いてみる、



直人:「なあ、」

仁美:「何よ、」


直人:「仁美んとこのお母さんって、どうしてるの。」

仁美:「二階に居るよ。 どうして?」


直人:「どこか具合悪いとか?」

仁美:「ううん、別にそうじゃ無いけど…ちょっと引きもり気味かな。」


直人:「家の事は全部 仁美がやってんの?」

仁美:「昼間は母さんがやってる。ただ、用事しない時はずっと部屋に引き籠ってる。」


直人:「ふーん、それって普通?」


仁美の手が止まる…



仁美:「何、あんた、うちの内情が気になんの? もしかして素性調査の一環? 私、不利になる様な事言ってないよね?」



直人:「何、慌てふためいてんだよ。

…うち、母親って居ないからさ、どんなんだろうって気になっただけ。」


仁美:「何言ってんのよ、居ない訳無いでしょう 直人が生まれて来る為には 絶対母親が必要なのよ。」


至極当たり前の事の様に、仁美は難しい事を平然と談ずる。



仁美:「はい、一丁上がり、 これ5つ、3丁目の高野さんとこ持っていって。 伝票は今書くから…。」


僕は、焼きたてのお好み焼きと小分けになった鰹節かつおぶしやらソースやらマヨネーズやらをビニール袋に詰めて、配達用の鞄に入れる。


僕は今、街の地理を覚えるのと一石二鳥と言う事で、主に配達を担当していた。



直人:「夕食にお好み焼きを食べるってのは、どういう神経なんだろうな。」


ボソッと言った独り言に、仁美が猛反発する!



仁美:「ふざけないで! お好み焼きはれっきとしたオカズよ。 オカズ。

コレ一枚在ればご飯が三杯は食べられるわ。」


仁美:「ほら、携帯持って来なさい。

…道に迷ったと思ったら、直ぐに電話すんのよ。 使い方分かる?」


直人:「分かるよ。全くいつも弟扱いなんだから。」


仁美が僕の頭をヨシヨシ撫でる、



仁美:「可愛い僕ちゃんだもんね〜

…お姉ちゃんに慰めてもらいたいんでちょ?」


直人:「五月蝿いなぁ、…行って来る。」




黒の業務用自転車に配達用鞄を括り付けて、僕は商店街を走り出す。


やっぱり身体を動かしている方が 気がまぎれる。



確かに、仁美が言う通り 僕を生んでくれた人は居る。

…今、何処で何をしているのかは分からないが、


生んでくれた事が母親の証明なのだとしたら、

僕の母親は やはり直子にとっても母親なのだろう。


生んでくれた事以外の母親の事を、僕も直子も知らないだけなのだ。




線路沿いの桜並木は鮮やかな薄黄緑へとその姿を 代え始めていた。


直人:「もう、桜も終わりだな。」







直人:「ただ今。」


店長:「おう、お帰り、ご苦労さん。」

直人:「これ、代金です。 確認願います。」


僕は集金袋を店長に手渡す。



店長:「直人クン、ちょっと良いか。」

直人:「はい、」


改まって店長が僕を呼びつける。



店長:「君と仁美は一体 何処迄 進展してるのかね?」

直人:「いいっ? 進展…って、、」

 

店長、ひそひそ声



店長:「今日、仁美の奴 やけにソワソワしているんだ。

…何だか、何をやっても身が入ってないと言うか、心此処にあらずというか、もしかして、何か有ったのか?」


直人:「いえ、そんな …何も無いですよ。」


店長、目を逸らしながら



店長:「処で、うちの娘の事を 君はどう思う?

…親馬鹿かも知れんが、あれで結構 器量は良い方だと思うんだ、小さい頃は商店街のマスコットやってた位だからな。 身体もいい感じに発育して来ているし、一男子として意見を言わせてもらえれば、結構食べ頃な感じがするんだが…」


このオヤジは、一体何を言わせたいんだか…



直人:「確かに、お嬢さんは美人だし、スタイルも良いし、優しいし、頭も良いし、言われてみれば言う事なしですね。」


そして店長、まっすぐに僕の目を見つめる



店長:「そうだろう、しかもだ、 アレは確実に君に惚れている。 始めてうちに連れて来た時点で分かった。 何と言うか、家族とか友達に対する態度とは明らかに違う振る舞い。仕草。喋り方。 確実に君に気に入られようとしている。」


このオヤジ…



店長:「更にだ、昨日の晩 俺が風呂から上がって寝室に戻ろうとした時、二階の廊下で聞いてしまったのだよ。 あいつが君の名前を呼びながら、…何をしている声を!」


僕は、真っ赤になる、

いや、僕以上に真っ赤になっている人間が居た。


何時の間にか 仁美が店長の背後に立っていて、…恐らく怒りの余り真っ赤になっている…。


店長の首筋に、店内用の大きな銀色ポットから冷水を注ぎ入れる!



店長:「つめっ…こいつ、何しやがんだ!」

仁美:「こっちの台詞よ、何娘の…の声盗み聞きしてんのよ!」


仁美、真っ赤。



店長:「俺は、お前の事を心配してやってだな。」


仁美:「放っといてよ、こっちにはこっちの事情ってモンがあんのよ。

…直人にだって、直人の事情があるの!」


仁美、更に追い打ちで頭から水を浴びせかける。



店長:「こら、やめろ!

…全く、体中ビショビショになっちゃまったじゃねえか!」


仁美:「さっさと着替えて来なさい!」


床中、水浸し…



仁美:「ゴメンね、変なオヤジで。

…気にしないでね、そんな 重く考えないで、」


仁美:「ほら、私だって健康女子だから…、たまにはそう言う事してみようかな…って事も有る訳よ。」


仁美はモップを持って来て床を片付ける。



仁美:「直人だって、男子だって、そういう事するんでしょ? …男子の生理って よく分かんないけど。」


直人:「まあ、無い事は無いけど…

…うち、あんなだから、部屋一つしか無くって しかも妹と二人だろ? しかもトイレには幽霊が居るらしくって落ち着けないし…」



仁美:「幽霊? アンタんち幽霊出るの?」


仁美、キョトン…



直人:「僕は見た事無いんだけど、妹には見えるらしい。

…直子に言わせれば、幽霊なんてそこら中に居るらしいけど、」


仁美:「直子ちゃん、幽霊見えるの?」

直人:「そうみたいだね。」


仁美、口が毛虫みたいになってる。

もしかして、…恐がり?





仁美:「それで、…家で出来なくって、どうしてるの?」

直人:「えっ?」


仁美がしつこく食い下がる…



仁美:「アンタばっかり私の秘密知ったんじゃお相子じゃないでしょ。 直人の秘密も教えなさいよ。」


おあいこって…



仁美:「学校のトイレとかでしてんの、」

直人:「しないよ!」


仁美、怪しい物を見る様な目で…



仁美:「ふーん、それで私のスカートん中に手、突っ込んで来たんだ。 よく分かんないけど …男子って、その、つらい物なの? 処理しないと。」


直人:「何聞いてんだよ!」


仁美:「いいから教えなさいよ。

…折角 人が協力してやろうかと思ってんのに。」



直人:「協力って?」


仁美、ちょっと照れながら…上目遣い?



仁美:「私の部屋、…貸してあげようか?」


…部屋?



仁美:「バイト上がったら、「昨日休んだ学校のノート写す」とかいう事にして私の部屋に行って、それで、ヤッテ良いわよ。 その間私は店の片付けしてるから。」


ヤッテって…



仁美:「その、変な匂いが充満したりしないよね、所謂 イカ臭いとか…」


今度は、僕の口が毛虫みたいになる。



直人:「無いって、そんなこと、…いやそれ以前に有り得ないだろう。 クラスの女子の部屋でオ、何…するなんて。」


仁美:「別に、無理にとは言ってないわよ。」


仁美:「あんた、よっぽど溜まってそうだったから、ちょっと可哀想かなって思っただけ。」


仁美、何故だか悪戯な笑い顔…



仁美:「その代わり、部屋の中の物 勝手にいじくったりしちゃ駄目よ。 …使って良いのはティッシュだけ。」








バタバタと、仁美が部屋の物を片付ける。


…これが、女子の部屋か、



自分の知らない匂い、自分の知らない空気、可愛らしいぬいぐるみ、きちんと畳まれた布団、何故だか出しっぱなしの洗濯物。



仁美:「15分位で大丈夫かな。

…それ位したら、私、戻って来るから、」


仁美:「じゃ、健闘を祈る!」


仁美はふすまを閉めて部屋から出て行った。



店長:「直人放ったらかしで良いのか?」

仁美:「大丈夫、学校のノート写すだけだから…」


下の店から話し声が聞こえてくる




直人:「はあ、」


良いのかな、本当に…、


でも、今日、このまま帰ったら 僕は直子を抱いてしまうかも知れない。 …血の繋がった兄妹で、やっぱりそんな事は許されない。


実際の所、僕には 生理的な欲求よりも、直子を諦めなければならない精神的なダメージの方が大きかった。



ベッドの脇に腰を下ろし、ぼーっと時間を過ごす。

仁美の匂いが詰まった部屋で、僕は何故だか安心に包まれていた。



僕は、仁美に依存している、甘えている。

それは間違いない。


でも、僕は本当に仁美の事をどう思っているのだろうか。

仁美の優しさを、好意を受けるだけの資格が、僕には有るのだろうか。




やがて、部屋をノックする音…



仁美:「入っても良い?」

直人:「うん、」


仁美が部屋に入ってくる



仁美:「済んだ?

…あんまし匂いしないね。」



直人:「悪い、やっぱり出来なかった。

…何だか 申し訳なくって。」


仁美:「そう…、大丈夫?」


仁美が、僕の直ぐ横に来て、座る。

…二人の間には、拳一つ分の距離



直人:「なあ、仁美、」

仁美:「何よ、」


直人:「キスして良いか、」


仁美:「…」


仁美は真っ赤な顔をしながらうつむく。



仁美:「いいよ。」


僕は、目を閉じた仁美の唇に、自分の唇を重ねていく。

ぎゅっと閉じられた仁美の唇から、痛い程の緊張が伝わって来る。



直人:「仁美、」

仁美:「何?」


直人:「触っても、良い?」


仁美:「…」


仁美は、黙ったまま 小さく うなずいた。



僕は、…仁美の首筋にそっと指を這わせていく。

でも、直ぐにその身体が…恐怖に震えているのを感じて、


引っ込めようとした僕の手を…、

…仁美が捕まえる。



仁美:「大丈夫だから…

直人が欲しいもの、全部あげるから…」


直人:「ゴメン。」


僕は、直子とは結ばれてはいけない

でも、だからと言って、こんな風に 仁美を間に合わせの身代わりにするのは、…もっと許されない。




直人:「帰る。」


感謝の言葉なんて言えない。

僕には謝罪の言葉しか見当たらない。


登場人物のおさらい

春日夜直人:主人公

森口仁美:クラスメイト、直人の事が好き

店長:仁美の父親、お好み焼き屋「風町」の主人

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