エピソード6 告白 <NaoKo Part>
私は今、少なくとも3つの不安を抱えている。
まず一つ目、
今迄 影のヒトから私を護ってくれたブレスレッドの効力が無くなった。 お兄ちゃんの退魔エキスがブレスレットの能力を上回ってしまったのが原因みたい。 厄介な事にお兄ちゃんの退魔エキスには有効期限があって、半日しか効果が持続しない。 影のヒトから身を守る為、私は常にお兄ちゃんエキスを供給し続けなければならない身体になってしまった。
二つ目、
お兄ちゃんの退魔エキスを接種する方法が、どれも悩ましい。
パンツは、…匂いはそんなに気にならないけれど 流石に可愛くない。 それに体育の日とかばれちゃうし、履いていると何だか切なくなってしまう。
毛は、…ちっちゃ過ぎて直ぐに何処に行ったか分からなくなっちゃうし、もしも外で誰かに見つかった時のダメージが計り知れない。 また苛められっ子になってしまいそうで…怖い。
最も効果があって最も安全なのが 唾液。 朝、昼、晩、一日3回飲めば、ほぼ24時間カバーできる。 鼻炎用のクスリみたい。 それに、漏れなくお兄ちゃんとキスできると言う特典も付いて来る。
問題は、あんまりにも気持ち良すぎてどうにかなっちゃいそうと言う事。
そして三つ目、
どうやら初めて出会った時から、いいえ出会う前から 私はお兄ちゃんに恋をしてしまっているという事。
でも、この気持ちは絶対に気付かれちゃいけない。 お兄ちゃんは私の事を従妹だと思っているけど、本当は 私達は 同じお母さんから生まれた 血の繋がった兄妹。
もっとくっ付きたい、もっと触って欲しい、もっとベタベタしたい、もっと●●したい、…でも、そんな事は絶対に許されない。 だって兄妹だから。
それなのに、お兄ちゃんはどんどん私を甘やかして、寂しい時は優しく抱きしめてくれるし、泣いている時は頭を撫でてくれるし、怖くて眠れない時は一緒に寝てくれたりもする…
私が堪らなくなってお兄ちゃんを傷つけてしまうのは、もはや時間の問題の様に感じられる。
木曜日のお昼休み
私はおかずの内容は少し寂しいけれど、愛情だけは 目一杯詰め込んだお弁当を お兄ちゃんに届けに来た。
お昼休みのチャイムと同時に4階にある一年生の教室から2階の三年生の教室まで駈けて来る。 折角だからお兄ちゃんと一緒にお昼を食べよう!
ちょっと、隠し味的に私の体液(詳細は秘密)も仕込んである。 ムフフ、野生の犬を飼いならすのに飼い主の唾液を混ぜた餌を食べさせるのと同じね、
そこで、私は信じられない光景を目の当たりにした。
あの、野良猫女が 馴れ馴れしくもお兄ちゃんの机に腰掛けて 色仕掛けでお兄ちゃんを口説き落とそうとしているではないか!
私は野良猫女と目を合わせない様に そーっとお兄ちゃんの背後に近づく。
それで、お兄ちゃんのシャツの襟首を摘んで 引っ張る…。
直子:「お兄ちゃん、お昼一緒に食べよう。」
直人:「おお…、お弁当持って来てくれたんだ、ありがと。」
私は撫でてもらえる様に お兄ちゃんに向けて頭を突き出す。
…なのに、撫ででくれない〜
お兄ちゃんは、何故だか引きつって、固まってる?
…どうしてぇ? この女の前だからぁ?
仁美:「こんにちは、直子ちゃん。」
私は ツン! と 外方を向く。
当然、返事なんてしない、
直人:「直子、挨拶くらいちゃんと出来ないと駄目だよ。」
直子:「あうぅ…」
しかたないから、無言のままで会釈する。
直子:「お兄ちゃん、いい天気だから お外で食べようよ。」
ちょっと、この女にオカズの寂しいのを見られるのは…嫌。
仁美:「直子ちゃん、私も一緒に食べていいかな?」
直子:「駄目ぇ、お兄ちゃんは私と食べるの。」
野良猫、苦笑い…
仁美:「何か、嫌われちゃった? …みたいね、」
私は、こっそりお兄ちゃんに耳打ちする。
直子:「その後、午後の分も欲しいから…」
お兄ちゃんは、渋々顔で席を立つ。
直人:「仕方無いな…、 ちょっと行って来る。 仁美、また後でね。」
仁美:「うん、」
直子:「べえーだ。」
クラスメイトと下の名前で呼び合うなんて有り得ない。
不純異性交遊よ!
私達は、人気の少ない 体育館横の植え込みの陰に腰を落ち着ける。
昼練(昼休みの練習)するバスケ部がバッシュで床を擦る音が聞こえて来る。
直子:「お兄ちゃん、人前で女の人とイチャイチャしちゃって 恥ずかしく無いの?」
直人:「別に、話してただけだよ。」
直子:「嘘、あんなに太腿接近させちゃってさ、どう見たって誘ってるとしか思えないよ。 如何わしい…。」
直人:「この竹輪の磯辺揚げ、美味いな。」
お兄ちゃんは、話題を変えるのに必死になっている。
勿論、許してあげない。
直子:「お兄ちゃん、学生の内は 恋愛なんて有り得ないんですからね。 学生は勉強が本分。 どうしても女の子とイチャイチャしたかったら、仕方無いから 妹で我慢しておきなさい。」
直子:「聞いてるんですか?」
直人:「この卵焼き、ちょっと変わった味がするな?」
私は、自然と顔が赤くなる…
直子:「…残したら、…駄目なんだからね…。」
人気の無い 体育館裏
直子:「午後の分 頂戴。」
直人:「また、キスするの? …恥ずかしいんだよな。」
お兄ちゃん、目一杯 照れてる。
直子:「だって お兄ちゃんのが 半日しか持たないからいけないんでしょう。」
お兄ちゃんが、仕方無さそうな 振り しながら、私の腰に手を回す。
直子:「まって待って! 効率的にやらないと、誰か通りかかった時に見つかっちゃう! 家の中みたいに何分間も「ちゅー」してられないでしょ。」
直子:「まず、お兄ちゃん…口の中に一杯 唾液溜めてよ。 それから、一気に口移しして。」
お兄ちゃん、困った顔…
直人:「そんなに簡単に溜まらないよ…。」
直子:「梅干を思い浮かべるとか、レモン考えるとか。」
途端に、お兄ちゃんの顔が酸っぱくなる。
直人:「うっ… ふぁまっふぇ、ふぃふぁ…。」
お兄ちゃんは 上から覆い被さる様に 唇を重ね、開いた口から…溜まった唾液を私の口の中に流し込む…。
私は、うっとりと目を閉じる…
…これは仕方の無い事、治療行為と同じ。
移し切れなかった分が、口の端からこぼれて頬を伝う…勿体ない、
私は舌を伸ばしてお兄ちゃんの中に潜り込む。
私の口腔に溜まった唾液を、少しずつ喉の奥に 飲み下す。
大好きな人とのキス…
…変になりそう。
私が変な子なのは…全部、お兄ちゃんの所為なんだからね…
もう少し、…こうして抱き合っていたい。
ぼーっとお兄ちゃんを上目遣いして見ていると…
…お兄ちゃんが鼻血を流す。
つぅーっと流れたサラサラの血液が、お兄ちゃんの顎をたくる。
直子:「大変!」
私は、直ぐ様 ポケットティシュでその赤い液体を拭い取る。
微かな、鉄の薫り…
直子:「大丈夫?」
直人:「もう、大丈夫。 ちょっと、のぼせちゃった。」
お兄ちゃん、苦笑い。
直人:「今日、僕バイトだから、帰りは10時過ぎになる。」
私は、しかめっ面で「寂しい」をアピールする。
直子:「バイトって、何処でバイトしてるの?」
直人:「商店街の「風町」っていうお好み焼き屋、今日会った、森口さんの家だよ。」
直子:「森口って…お兄ちゃん!あの人のうちでバイトしてるの?」
直子:「怪しい…、本当に本当のバイトなんでしょうね。」
直人:「何を、疑ってるんだよ。 普通のバイトだよ。」
直子:「直子も一緒にバイトしたい。 一人で待ってるのは嫌!」
直人:「僕がバイトしてる間に、着替えたりお風呂入ったり出来るじゃない。 一緒にバイトしたら、またトイレとか風呂とか、かち合っちゃうよ。」
直子:「そんなの平気だもん。 お兄ちゃんがあの女と一緒にイチャついてるのを家でじっと待ってる方が嫌だもん。」
直人:「だから、いちゃつかないって…。」
直子:「駄目なら、毎日お客さんで見張りにいくから。」
直人:「分かったよ、じゃあ、今日店長に聞いてみるから今日は大人しく帰って待ってて。それで、美味い晩ご飯作って待っててくれると、お兄ちゃん嬉しいんだけどな…。」
ずるいよね、そんな言い方…
直子:「…しょうが無いわね、分かった。」
直子:「でも、放課後、帰る前にもう一回 キスしてよ、…夜の分。」
お兄ちゃんが、ドキッ!とする様な笑顔で私を見つめる…
…私は、結局の所 お兄ちゃんの言い成り。
直人:「分かったよ。」
直子:「ご飯作って待ってるから、…早く帰ってきてね。」
渡り廊下でお兄ちゃんを見送り、
周りに人が居ないのを確かめてから、ポケットのティシュを取り出す。
…真っ赤に染まったティシュ、
直子:「知ってるわ、どうせ私は 馬鹿な子だもん…」
…好奇心に抗えず、私は その血を ちょっとだけ舐めてみる。
そうしたら…急に…
立ちくらみ?
何が起こったの?
…私が、鼻血を噴出している。
濃厚な刺激物が直接 脳を麻痺させる…
口の中に広がる微かな瀞みのある錆の味、
一気に視界は歪み、三半規管は平衡感覚を失う。
何が…起こったの?
何時の間にか、私の顔は床に押し付けられている。
私、どうして倒れているの?
手足が、上手く動かせない。
眩暈?
昏睡?
変性意識状態?
いや、違う…、
もっと、シンプルな……絶頂。
私、…何が何だか分からない内に、昇天っていた。
手足が、小刻みに痙攣する。
2年生の女子が助け起こしてくれる。
女子:「あなた、大丈夫?」
女子:「貧血? かな、」
女子:「やだ、鼻血 出てるよ!」
女子:「保健室に行きましょう。」
未だに、正気に戻らない。
朦朧とした意識のまま、私は肩を借りて何処かに連れられていく。
保健室のベッドで横になる。
校医(女)と2年生女子が何やら話している。
だんだん、意識が…はっきりとして来る。
お兄ちゃんの血は、危険だ…
理性 等と言うちっぽけなものは 一瞬で吹き飛んだ…
この雄の血を受け入れないなら、私には生きている意味がない。
下腹の奥の方が、過度な収縮を繰り返している。
私の雌の部分が、全ての柵を帳消しにしてしまう。
私が我慢しようとしていたもの。
私が一人で抱え込もうとしていたもの。
覚醒した 私の本性 は、そんな物から とっくに自由だった…
私は、人間である以前に 生き物だった。
全て、どうするべきかは、私の身体が知っている。
この気付きは、私の根源に関わる一大事だった…
5時限目の授業中、
お兄ちゃんが訪ねてくる。 どうやら、噂を聞きつけたらしい。
直人:「直子!…大丈夫なのか。」
直子:「うん、…平気。」
…でも、本当は平気じゃない
直人:「また、幽体離脱か?」
直子:「違う、」
お兄ちゃんの味が口の中に蘇る。
再び、私の下腹が疼き出す…。
私は考える…
私はお兄ちゃんとどうなりたいんだろう。
別れるなんて事はありえない、
でも…ずっと一緒にいる為には、超えなければいけない壁が幾つもある。
なのに、そんな考えよりも ずっと素早く、
私の口が、勝手に喋り出す…
直子:「お兄ちゃん、…切ないよ。」
直子:「私、お兄ちゃんが欲しくて堪らないの、」
直子:「お兄ちゃんの事、好きで堪らないの、」
直子:「キスするたびに、どうにかなっちゃいそうなの、」
直子:「直子、変な子かな?」
椅子:「ガタン!」
音を立てて、校医が立ち上がる、私の方を不思議そうに見ている。
…でもそんな事、どうでも良い、…構わない。
私には、お兄ちゃんしか見えていない。 聞こえていない。
お兄ちゃんは、私に向かって優しく微笑む。
直人:「そんな事無いよ、」
直人:「僕だって、直子が欲しくて堪らない、」
直人:「何時でも、直子と抱き合っていたい、キスしたい、」
直人:「もっと、全部…直子が欲しい、」
お兄ちゃんが、私の手を握ってくれる。
私は、自分でも気付かない内に涙を流している。
直子:「嬉しい。」
直子:「あのね、ずっと言わないでおこうと思ったんだけど、」
直子:「私を生んでくれたの、春日夜直美さんなんだ。」
直子:「私、本当のお兄ちゃんの妹なの。」
直子:「…それでも良い?」
お兄ちゃんは、不思議そうな目で 私を見つめている。
ずっと、黙ったまま…
私、どうして こんな事を…喋っちゃってるの??
自分の意志を超越して、何かが 私を支配している…。
登場人物のおさらい
朝比奈直子:主人公
春日夜直人:兄、運命の人
森口仁美:盛りの付いた野良猫




