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エピソード1 転落 <NaoTo Part>

桜の花びらが、まるで妖精のダンスの様につむじ風を舞い昇る。


人気ひとけの無い昼下がりの公園で、低いブランコに腰掛けながら僕は「明日」を見ていた。




これ迄の僕の人生は そう捨てたモノではなかった。


家政婦付きの豪邸には、カラオケ専用シアタールーム、弾けやしないスタインウェイとバラエティしか見ない80型の液晶テレビ、乗せてもらった事の無い6台の高級外車と使った事の無い8つのトイレが有った。 そして、この家で最も高価だと言われていた巨大な木のテーブルでカップヌードルを食す。


超有名私立高校への通学は お抱え運転手付きのベントレーで送り迎え。 クラスでは毎朝 ご学友達がご機嫌伺いに現れ、昼休みには 学園のアイドルと成人病になりそうなランチを食べる。 ちょっとは勉強もした。




そして、父親が事業に失敗した。


屋敷、家財は一切差し押さえられ、殆ど着の身着のままで追い出される。 金の切れ目が縁の切れ目で ご学友も学園のアイドルも みんな僕の前から消えた。 


父親は事業立て直しの為 共同経営者である父の親友と二人で南米へこもり、僕の住処は 父親の後輩が経営する都内のアパートへと引っ越す事となった。




僕:「良い天気だな。」


でも、まあ 身軽なのも悪く無い。

春だから寒く無いし、幸い僕は花粉症でもない。 もしも母親が居たら今の状況を嘆き悲しんだかも知れないが、運良く僕が小学校に上がる前に家を出て行ったので そんな母親を慰める必要も無い。


新しい公立高校での新しい友人との出会いも楽しみだと言えなくは無いし、なによりも一人暮らしと言うのにチョットした憧れっぽいものも感じていたりする。


人生、悪い事ばかりじゃないな…



僕の名前は 春日夜直人、今では 前向きな性格だけが取り柄の、何の変哲も無い高校3年生である。



直人:「確かに、ここの筈なんだけどな…。」


もう一度 葉書の住所を読み返す。



女:「もしもーし、そこの君!」


振り返る、いや 児童公園の裏の崖の上を 振り見上げる?と さくを乗り出して女の人が手を振っていた。 …遠目には結構美人 しかも胸がデカい。



女:「もしかして春日夜クン? 春日夜直人クンでしょ?」


美女は、ぼけーっと見蕩みとれている僕の名前を連呼する。



直人:「あ、はい、春日夜デス!」


女:「うちはこっちよ、上がって来て!」




崖の上に、そのアパートは有った。


スカイコーポ中川、

東京メトロから徒歩10分、築26年、家賃2.8万円+管理費・共益費0.2万円。



女:「初めまして、私 中川礼子。 貴方達・・・のお父さんの友達、宜しくね。」


その美人、茶金に染めた胸迄のワンレングス・ボブに毛先は軽くパーマネント。 ムチムチのデニムに 黒の見せブラが透けた白シャツをラフに着こなし?ている。 


やけに 若造りなおばさん? …うーん、スタイル崩れてないから贔屓目ひいきめに見てお姉さん と言う事で納得する。



直人:「こちらこそ、宜しくお願いします。」


握手した手は、やっぱり…



礼子:「2階の202号室を使ってね。 ちなみに私の部屋が201号室。 困った事が有ったら、遠慮しないで直ぐに言うのよ。」


この人が、一応 僕の身元引受人と言う事になっていた。




礼子:「さあ、入って。」


白い玄関を開けて直ぐ左側に電気コンロ一台とシンク一個付きの小さなキッチン、その直ぐ隣が収納。 玄関入った直ぐ右側にユニットバス。 奥へ進むとフローリングの6畳間、 取り敢えずロフト付き、取り敢えずエアコン付き。


そして、南向きの小さなベランダからは 崖下の街の風景が一望出来る。

春の風に桜の花びらが舞踊っていた。



直人:「へぇ、良い所ですね。」


礼子:「ありがと、次震度5が来たら崖ごと崩れるって言われてるんだけど…これは内緒ね。」


礼子さんは可愛らしく人差し指を唇に立てて内緒のポーズ。


直人:「ハハ…、」



礼子:「私からの引っ越し祝いに、中古だけど洗濯機と炊飯器と湯沸かしポット。 後、新しい布団を用意したわ。」


直人:「ありがとうございます。 何も持って来れなかったんで、助かります。」


何故か、布団が二組ある。



礼子:「後、コンロは電熱だから、油だけ気をつけてくれれば大丈夫かな。」


ふと見ると、荷物の段ボールが多い?

殆ど、洋服と学業品ばかり、段ボール2つにまとめた筈だったのに、部屋の隅には合計6つの段ボールが重ねられてあった。



直人:「あの、中川さん。」


礼子:「みんな礼子さんって呼んでくれるのよ、なんなら お姉さんでも良いわよ。 」


礼子さんが人差し指を立ててクルクル回す。 まるで魔法使い?



直人:「それでは 礼子さん、ちょっと荷物が多い様な気がするんですが。」


礼子:「ああ、これ? もう一人の分よ。」


僕は、想定外の返答に 少しばかり混乱する。



直人:「もう一人? …とは?」


礼子:「あれ、お父さんから聞いてなかった? 貴方達・・・、此処に二人で住むのよ。」


へー…



直人:「…って、6畳一間に二人暮しですか? 流石に狭く無いですか?」


礼子:「大丈夫よ、ロフトも有るし。 若い内はみんな こんなもんよ。」


まあ、いっか…元々贅沢は言えないし、

話し相手が居るのも気が紛れて良いかも知れないな…




ドアの音:「ガチャッ!」


礼子:「あっ、ちょうど帰って来たわ。 お帰り!」


礼子:「紹介するわ、ルームメイトの朝比奈直子ちゃん、こちら春日夜直人クン。 二人とも仲良くしてね。」


へー…



直人:「…って、なに!!」




其処には、これまでに見た事も無い様な生き物が立っていた。


背の頃は130cm、華奢で中性的な肢体。 傷一つ無い端正な小顔は透き通る様に白く、長い睫毛に大きくて深い瞳、ウェーブした艶やかな髪は腰まで届く豊かな長髪、 そして潤った唇。




まるで造り物の様に一点の欠陥も無い美少女が、怯えた眼で僕をじっと見つめている。


登場人物のおさらい

春日夜直人かすがやなおと:主人公

朝比奈直子あさひななおこ:ヒロイン

中川礼子なかがわれいこ:大家さん

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