表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

第六章:皆で記念撮影

1942年、北アフリカ。


イギリスの首都ロンドンで“とても有意義な”休暇を得た私は直ぐに原隊へと戻った。


私を先ず出迎えてくれたのは酷い“ジブチ”と呼ばれる砂嵐だ。


これの前では如何に近代兵器でも大人しくするしかない。


自然の前では人間など無力だ、と教えているようなものだ。


しかし、これが出迎えた事に対して私は少なからず安堵する。


ああ・・・・私は戦場に戻って来たんだ、と思える。


そんな感動を余所に私は直ぐに司令官の所へ招集された。


「どうだった?休暇は」


「とても有意義でした」


「流石は英国人だ。見事な言葉だ」


「ありがとうございます。それで・・・黄色の14は出ましたか?」


「あぁ。貴様が帰って来るより1日早く、な」


その日、出撃した“カーチス P40”と“ホーカー ハリケーン”が5機ほど撃墜されたらしい。


黄色の14に・・・・・・・・・・・


「・・・・・・そうですか」


休暇を早く切り上げていれば彼と戦えたかもしれない。


それを思うと悔しい。


「そう落ち込むな。これからは嫌だと言う程、貴様を出撃させてやる」


「と言うと陸軍が押されているのですか?」


「あぁ。流石は“砂漠の狐”だ」


砂漠の狐とは我々が敵軍の将---“エルヴィン・ロンメル”の事だ。


本名はエルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメルで第一次世界大戦にも従軍した経歴の持ち主だ。


第3帝国になる前のドイツ---“ドイツ帝国”時代には“ブルー・マックス”を授与された事から彼の実力が窺える。


更に彼は騎士道に精通しており、捕虜となった我が国の兵達を人道的に扱っていると言う。


敵ながら彼は尊敬に値する、と思っている。


そして彼が相手では我が国の陸軍も押されて当然と思う。


「トミー、貴様は明日から出撃して敵飛行機を蹴散らせ」


「明日から?今日からでも良いですよ」


「そうはいかん。今日は休め。そして飛行機を念入りに整備しておけ」


そうすれば・・・・・・・・


「貴様は撃墜王となる。俺を失望させるなよ?」


「勿論です。必ず敵機を撃墜し司令官殿に撃墜王の名を持って帰って来ます」


「良い答えだ。では、行け」


「はっ!!」


敬礼をして私は自分の愛機へ向かった。


司令官の心尽くしだろう。


私の愛機は私専用である。


撃墜王にならなければ与えられない特権を与えられている事に、興奮と感動を覚えるのは仕方ない事だろう。


愛機に近付くと整備兵が敬礼をする。


「どうだい?私の愛機は」


「はっ。良い状態です」


整備兵はスピット・ファイアを撫でた。


「後一機で撃墜王・・・羨ましいです」


「そうでもないよ。寧ろ、その一機が私の命取りになる」


「?」


訳が分からない整備兵は首を傾げる。


「後一機・・・・それだけで私はエースの仲間入りだ。だから、焦るし作戦を忘れる」


それを恐れていた。


「皆、そうだと思いますよ。私だって中尉の立場だったら、そう思います」


「だろうね。皆が憧れているからね」


撃墜王に・・・・・・・・・


「確かにそうですね。それで今日は出撃しないんですか?」


「あぁ。明日からだ。どうやら陸軍が押されているらしい」


「砂漠の狐、ですか。騎士道精神を持った将軍と聞いておりますし、卓越した戦術家だとか」


「あぁ。それに比べて私たちの最高司令官は・・・・物量主義者だからね」


「そんな事を言っては駄目ですよ。当たってますけど」


私と整備兵は顔を合わせて笑い合う。


私たちの最高司令官---“バーナード・モントゴメリー”将軍は物量主義者と言われている。


彼は8月18日を持って北アフリカ戦線に参加している“第8軍”の司令官に任命された。


その彼だが、とにかく圧倒的な物量でドイツ軍を押すような方法を取っている。


更に言えば慎重“過ぎる”性格の持ち主とも陸軍の友人から聞いたから苦労するだろう。


空軍である私には直接的な関係はないが、少なからず私たちの間ではモントゴメリー将軍に対して良い印象を持ってはいない。


恐らく彼は後々・・・・とんでもない失敗をやりそうな気がする。


それこそ歴史に汚名を残すような大失敗を、だ。


「どうしたんですか?」


整備兵が私の顔を覗き込み訊いてくる。


「いや、どうも・・・嫌な予感がしたんだ」


「勘、ですか?」


「それに近いね。しかし、勘なんて簡単に当たる物じゃない」


「まぁ、そうですけど・・・・・・・嫌な予感ほど当たる物ですよ」


「君も嫌な予感がするのかい?」


「えぇ。どうも、嫌な予感がするんです。今の指揮官---モントゴメリー将軍は、何れとんでもない失態を犯す、と思うんです」


「私もだ。それで、私に関しては何か感じるかい?」


「いいえ。寧ろ・・・・撃墜王として歴史に名を残す予感がします」


整備兵は笑顔で親指を立てる。


「ありがとう。それじゃ、君は撃墜王の愛機を整備した者として歴史に名を残すよ」


「おいおい、それなら俺は僚機---相棒としてだろ?」


「それなら私は司令官だ」


何時の間にかエンジェルと司令官が来た。


「記念撮影を撮るぞ」


いきなり司令官は言った。


見れば後方にはカメラを持った兵士が立っており2脚にカメラを設置している最中だった。


「さぁ、並べ」


司令官は中央に何時の間にか用意した椅子に座る。


こういう事に関してはテキパキしているな、と改めて思う。


まぁ、私も司令官の隣に腰を下ろしているが。


エンジェルは私の隣、整備兵は司令官の隣に座った。


愛機が背後にある。


「では、良いですか?撮りますよ」


『あぁ』


私達は声を揃えて頷いた。


パシャ・・・・・・・・


軽い音と光が一瞬だけ私たちを包み込んだ。


「もう一枚、撮ります」


カメラマンとなった兵士は、またシャッターを押した。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

「これが、その写真ですか」


俺は渡された写真を見る。


スピット・ファイアを背後に4人の男たちが椅子に座った姿が写っている。


若い頃のウォルター氏・・・・かなり美形だ。


007を演じる俳優みたいで、“初代”に似ているな。


実際、諜報部員をした過去があるウォルター氏なら本物の007と言われても驚かない。


「・・・・・懐かしいよ」


ウォルター氏は、もう一枚ある写真を見ながら言う。


あの時代を思い出したのか僅かに瞼が濡れている。


「この写真に写っている方たちは・・・・・・・・」


「皆、死んだよ」


僅かに哀しみを込めてウォルター氏は答えた。


「・・・・・・」


「最初に司令官、次にエンジェル、次に整備兵という順番で死んで行った」


大戦中ではなく大戦後で、かなり年月が経ってからだと言う。


彼等からすれば戦後も無事に生きて死ねたのだから、ある意味では幸福だったのかもしれない。


司令官は北アフリカ戦がイギリスの勝利に終わった後で、左遷されたらしいが、本人は気にしていなかったようだ。


「今でも司令官の言葉は覚えている」


『俺は撃墜王の司令官だ。どれだけ撃墜王の司令官が居る?星の数こそ居る司令官の中でも稀だ。俺はその稀に選ばれたんだ!!』


それを晩年まで言い続けていたらしい。


「良い司令官ですね」


「あぁ。相棒だったエンジェルも良い奴だった。整備兵---ギャビンも良い奴だったよ」


彼等とも晩年も変わらず親交を続けていたらしい。


しかし、彼等はもう居ない。


否・・・・果たして、あの時代を経験した者達が今、どれだけ居るだろうか?


殆どの者は既に土の下に居る。


ウォルター氏やモーガン、ゴダール大佐、ハント大尉は稀だ。


そして、彼等もまた居なくなってしまう。


「さて、そろそろ話に戻ろうか?」


騎士道が生きていた、と思った瞬間の話を・・・・・・・・・


「そうですね」


俺は写真を返して再びテープを持ち頷いた。


ふと、その時・・・・飛行機のプロペラが回る音が聞こえた。


上を見るが、何も見えない。


どういう事だ?


しかし、ウォルター氏には解かったのか眼を細めた。


「ああ、大尉・・・もう直ぐ貴方との出会いを話せますよ」


マルセイユ大尉の事だろうか?


ウォルター氏は話を始めたので、俺は話に集中した。


未だに耳から離れないレシプロ機のプロペラ音を聞きながら・・・・・・・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ