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第三章:黄色の14

1941年、北アフリカのエル・アライン。


今日も私は砂漠の海を飛んでいた。


後1機で撃墜王になれる。


それが私の心を焦らせたのか・・・・未だに確実な撃墜を見届けていない。


いや、撃墜したが私だけしか見ていなかった。


同僚は嫉妬しているのか・・・誰も言わない。


あくまで私の被害妄想でしかない。


しかし、そんな事さえ思う程・・・・撃墜王という言葉はとても力を持っているのだ。


「今日こそは・・・・・・・」


私は自分の気持ちを落ち着かせた。


これには訳がある。


撃墜王になりたいという焦る気持ちもある。


だが、それ以前に・・・・誘われているのだ。


諜報部員にならないか、と・・・・・・・・・


諜報部員となったら飛行機には乗れない。


それが私の気持ちを乱す。


断るのも手だ。


少なくとも保守的な考えである私の両親は、飛行機乗りを認めていない。


『あんな鉄の塊と死にたいのか!!』


飛行機乗りになる、と言い出した時に言われた言葉だ。


第一次世界大戦から飛行機は使われているが、両親はそれすら認めていない。


元々厳格“過ぎる”程に空は神の物、と言う性質だから仕方ないかもしれないな。


幼い私にも、その過ぎる信仰を求めたし植え付け様とした。


生憎と信仰は適度が、私の考えである。


そのため疎遠となっているが・・・・・・・・・


恐らく諜報部員の仕事も両親が圧力でもかけたのだろう。


何だかんだ言っても両親は顔が利く。


少なくとも諜報部員なら地上で仕事をこなす。


両親にとってみれば地上で仕事をこなし、戦死する事を望んでいるのだろう。


そんな両親でも大切だが・・・自分の人生は自分で決めたいと思う時はある。


『へい、トミー。今日こそは撃墜王になれると良いな?』


僚機が無線機で私に話し掛けてきた。


「あぁ。しかし・・・・今日もまた出るだろうか?」


『ああ・・・・“黄色の14”、か』


ここ数日の戦闘で我が軍の戦闘機は、とある飛行機に怯えている。


黄色の14がシンボル・マークの飛行機だ。


誰なのか?


それは判っている。


ハンス・ヨアヒム・マルセイユだ。


詳しい事は知らないが、彼は私の初陣---バトル・オブ・ブリデンから参加したらしい。


つまり私と同じ初陣だったのだ。


そしてドッグファイトが得意という所も同じだ。


初陣が同じ場所だった・・・私が撃墜したかもしれない。


また彼に撃墜されたかもしれない。


いや、そうだ。


きっと彼だ。


何故か私は確信していた。


そして、またこうして北アフリカで戦う事になるとは・・・・・・・・・・


「運命なのか?」


運命など自分の蒔いた種が芽を出して、花が咲いたようなものだ。


全ては自分の行いから来る結果であり結論なのだ。


しかし、こういう場合は・・・・神の悪戯、としか言えない気がする。


まぁ、良い。


彼を撃墜して、私は撃墜王となる。


『北アフリカのエースを撃墜した英国の撃墜王』


そう・・・歴史には名を残したい。


だが、幾ら探しても彼等は出て来ない。


『気を落とすなよ?まだチャンスはある』


「・・・・あぁ。しかし、時間が無い」


『ああ、そうか。諜報部員になるかもしれないんだったな』


帰り道で私は愚痴を零す。


それを僚機は聞いてくれた。


「諜報部員となれば、飛行機に乗れない。恐らくこのままでは両親の圧力に屈する。その前に・・・・・・・・・・・・・・」


『なるほどな。しかし、こればかりは運だ。自分で掴み取れるもんじゃない』


「分かっている。だが、それでも・・・・焦るし憧れる」


『気持ちは解かるぜ。後一機で撃墜王の称号を得るんだ。飛行機乗りなら憧れるさ』


誰だって撃墜王になりたい。


後一機だ。


後一機で・・・・なれるんだ。


その思いを抱き続けながら私は基地に帰還した。


「来たか。トミー」


基地に帰ると司令官が出て、私に伝えた。


「先日、私に君の両親から連絡が来てな・・・早く帰って来い、との事だ」


「・・・どうせ、諜報部員になれの催促ですよね?」


「あぁ。君には失礼だが・・・両親は飛行機乗りを馬鹿にしているな」


「えぇ。していますよ」


自嘲交じりに私は答えた。


「神の領域である空の上で戦争をして、天国に行ける積りか?」


否・・・・行けない。


「地獄だ。行き先は地獄でしかない。ですが、果たして信仰心が熱くても軍人を馬鹿にする者が果たして行けますか?」


司令官は葉巻を吹かしながら私の問いに耳を傾けた。


やがて煙を吐いてから答える。


「行けんな。少なくとも制空権の大事さを分からない以上・・・飛行機乗りを馬鹿にする事は許されん」


「信仰も問題ですね」


「あぁ。まぁ、安心しろ。私から言ってやったよ」


『空を飛ぶ者を侮辱する輩は私の部下には居ない。そして両親にもだ。くたばれ!下種野郎!!』


「そう言ったのですか?」


「あぁ。上官からこっ酷く怒られるだろうし、左遷されるかもしれん。しかし、後悔はしない」


司令官が私の肩を叩く。


「何せ我が隊で初めて撃墜王になるかもしれない男だ。そう簡単に解放して堪るか」


「・・・ありがとうございます」


「気にするな。しかし・・・アフリカの星は何処に居るんだろうか?」


誰もがその問い掛けに耳を傾ける。


アフリカの星は神出鬼没で現れる。


ロッテ戦術で行動するが、私の知る限り彼は僚機を置いて行く。


いや、僚機は付いて行こうとする。


だが、追い付けないだけだ。


そこ等辺は些かどうかと思うが・・・・実力は申し分ない。


最後を飾るには良い相手と言える。


しかし、と思う。


空戦は競技ではない。


自分が落とされる立場になったら・・・・・・・・・


初陣で私はそれを味わった。


敵機に背後を取られて撃ち落とされそうに時に思った。


これは競技じゃない。


生か死。


このどちらかしかない極限の場所なのだ。


それを知ったからこそエースになれる“可能性”が生まれた、と私は思っている。


「なに暗い顔をしているんだ。紅茶の時間---ティータイムだ」


司令官を始め皆は紅茶を飲む用意を始めた。


我々は紅茶を好む。


両親も宗教と紅茶に関しては何時も以上に口煩い。


「どれ、今日は俺が淹れてやるよ」


僚機に乗る相棒のエンジェルが紅茶を淹れ出した。


天使のように可愛い笑顔、という理由で名付けられたらしい。


歳は私より同い年だが、渾名の通り少しばかり幼く見える。


「すまないね」


「気にするなよ。しかし、お前も大変だよな?両親から仕事を理解されないなんて」


親に職業を理解してもらえない。


これほど子にとって辛い事はない。


親に育てられたから今まで生きている事に感謝しているが、職業などにまで口を挟むのは止めて欲しい。


それが適切であれば受け入れるだろう。


しかし、私の両親はあくまで私の夢も希望も聞こうとしない。


彼等にとって私はただの「機械」でしかないのだ。


「随分とやつれたな?」


エンジェルが気遣うように言う。


「まぁね。おまけに勝手な事だが、私に婚約者を作ったよ」


「そいつは初耳だな。誰だよ」


自分の紅茶を淹れたエンジェルは席に座り訊ねてきた。


「王室の侍女を務める女性の娘らしい」


「かー、随分と凄い血筋を引いた娘だな」


「だから嫌なんだよ。私は飛行機乗りをやりたいし、結婚相手も自分で見つけたい」


「当たり前の事だな。で、誰か好きな女は居るのか?」


「居ない」


「駄目じゃねぇか」


エンジェルという渾名とは裏腹に悪魔的に口が辛くて毒を吐く。


「まぁ、帰国してから探すよ。今は撃墜王になる事が夢なんだ」


「そうだな。安心しろ。俺がシッカリと見届けてやるよ」


「頼むよ?エンジェル」


「任せておけ」


私とエンジェルはカップを合わせて乾杯した。


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