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エピローグ:アフリカの星は・・・・・・・・

最後の言葉はブレイズ氏が考えた物です。


私の祖父の弟も一式戦闘機---隼に乗っていたそうですが、この物語はブレイズ氏が書き手ですのでブレイズ氏にお願いしました。

私は・・・・・再び、砂の海に来ていた。


ここに来るのは実に50年以上になるだろう。


あれからここには足を運んでいないが・・・・・・・・


何も変わらない。


戦争の爪痕が他の場所に比べれば極めて少ない。


何故なら周りは砂漠などで覆われている。


だから、必然と都会での戦闘は起こり難く戦争の爪痕が極めて少ないのだ。


同時に血生臭い戦場の話が余り無い。


地獄の東部戦線ともなれば、枢軸軍もソ連軍も互いに捕虜を殺したりするなど血生臭い話が多い。


それだけで伝記が一冊できる程、だ。


しかし、ここは違う。


ある兵士は言った。


“北アフリカ戦線は騎士道が残っていた”


砂漠の狐と言われたエルヴィン・ロンメル元帥が、騎士道を重んじる人物だったのが、理由と言える。


またSS---“親衛隊”とそれに付属している“アインザッツグルッペン”も居なかった事も理由として上げられる筈だ。


彼等が居たら、恐らくここも地獄と化していた。


だが、ロンメル元帥は許さないだろう。


彼の息子が15歳の時、人種差別について得意気に語った時だ。


“私の前でそういう馬鹿げたことを2度と喋るな!!”


そう言って一喝したらしい。


この言葉からも解かる通り、彼は人種差別については否定的な面を持ち合せていた。


だからこそ、捕虜に対しても人道的に扱っていたのだ。


しかし、そういう理由と彼が反ナチ的な考えを持っていて、隠そうともしなかった。


それが自分の生命を縮める事になった・・・・・・・・


1944年10月14日、彼はヒトラーの使者である“ヴィルヘルム・ブルクドルフ中将”と“エルンスト・マイゼル少将”から「反逆罪で裁判を受けるか、名誉を守って自殺するか」の選択を迫られた。


反逆罪で裁判を受ければ家族にも危険が及ぶ。


ロンメル元帥はそれを恐れて服毒自殺をした・・・・・・・


死因は「戦傷による」と言われていたが、後になって自殺を強要された、と私は知ったものだ。


それとは対照的に我々英国軍の司令官だったバーナード・モントゴメリーは戦後を生き抜き、1951年から1958年に退役するまで北大西洋条約機構---“NATO”の副司令官になって18年後に死亡した。


彼こそロンメルを物量に物言わせて叩き潰した将軍だが、ロンメルに比べて他国の評価が高いのか?


そう問われたらイギリス以外では低い、と言えるだろう。


特にアメリカは低く、イギリスは高いと言う形になっている。


ロンメルも失敗はあるが、彼が犯した失敗は余りに理不尽過ぎる。


1944年9月に行われた“マーケット・ガーデン作戦”が彼の戦歴に大きく泥を塗った上で評価を下げていた。


成功率が極めて低かったが、連合軍内に亀裂を生じさせる彼を黙らせる為にアメリカの“アイゼン・ハワー”は政治的理由から妥協した。


そのせいで大勢の将兵が無駄死にした・・・・・・・・・


私の予感は見事に当たった。


だが、その時には既に諜報部員となっていた私には関係の無い話でしかない。


いや、マルセイユ大尉が戦死してから既にどうでも良くなっていた。


彼が眠る墓に私は居る。


彼の死体は戦友たちが埋葬し、ピラミッド状の墓を作り上げた。


そこに立つ私は大尉に語り掛ける。


「大尉、久し振りですね」


私は山高帽を取り一礼した。


「あれから私は諜報部員となりました」


大尉が戦死して身体が治ってから直ぐに私は諜報部員になった。


諜報部員になってから最初にした事は自分の経歴などを消す事だ。


そして仮の身分で偽り両親の前から消えた。


両親の道具になりたくない。


その一心で私は諜報部員となり、自分を消したのだ。


それからは裏方の仕事をして・・・・マリアと関係を持った。


私がイギリスに戻った時、彼女は涙ながらに抱き付き、無事を祝ってくれたのを今でも覚えている。


無事である事を願い、祈りを毎日のように捧げていた彼女を妻にしたい、と私は衝動的に思い結婚したのだ。


その事を大尉に伝える。


「大尉、貴方を撃墜する誓い・・・・果たせませんでしたね」


貴方は私に撃墜される前に星となり、消えてしまった。


勝ち逃げなんてズルイですよ。


だけど、そういう所も貴方らしい。


「大尉、貴方と私の事を・・・・本にします」


彼なら決して、派手な内容の本にはしない。


地味だろうと真実を書くに違いない。


そう思っていたからこそ、私は彼に話したのだ。


篝火という名を持つ若き侍の血を引く・・・・・ジャーナリストに。


「大尉、私から貴方に送り物があります」


懐から箱を取り出して、開ける。


中には勲章がある。


柏葉かしわば・剣・ダイヤモンド剣付柏葉騎士鉄十字章”


マルセイユ大尉が授与される勲章の一つ“だった”物だ。


しかし、これはヒトラーが直接、渡す事になっていた為、彼が生きて授与される事はなかった。


死後も同じだ。


これを用意するのは苦労したが、彼に対して渡す物なら良い。


「ハンス・ヨアヒム・マルセイユ大尉。貴殿の働きは敵味方を問わず多くの兵達に敬意を表された。よって英国空軍中佐ウォルター・ネモリーズが授ける」


墓前に置き、敬礼をする。


その時だ。


懐かしいジブチが来たのは・・・・・・・・・・・・


山高帽で顔を隠したが、直ぐにジブチは去った。


眼を開けたら勲章が無い。


代わりに眼に入ったのは・・・・・・・・・・・・・


「・・・・・メッサーシュミットBf」


第二次世界大戦でドイツ空軍の馬として戦場を駆けた飛行機が目の前にいる。


胴体には黄色の14が描かれていた。


「・・・・大尉」


『有り難く貰っておくぜ。中佐』


操縦席から悪戯小僧の笑みを浮かべる大尉。


手には私が渡した勲章がある。


「・・・・・はい」


私は敬礼をしたまま泣いた。


メッサーシュミットはエンジン音とプロペラ音を残して、最後に会ったように砂の海に消えた。

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カチャ・・・・カチャカチャ・・・・カチャ・・・・・・・・


煙草を吸いながら俺はタイプ・ライターを打っていた。


今頃、ウォルター氏はマルセイユ大尉と会っている所だろうか?


そう思った。


あれから俺は個人的に調べ続けた。


と言っても他の奴等が入った記事を書く訳じゃない。


ウォルター氏に係わった人物を調べただけだ。


マルセイユ大尉を捕虜にしようと言った撃墜王---Eは勲章剥奪後に不名誉な渾名を頂戴した。


“卑怯者の撃墜王”


これが彼に与えられた渾名で、彼はそれを払拭しようと空を飛んだが20機を撃墜する前に味方の対空射撃で死亡したらしい。


運に見放されたんだな。


そしてウォルター氏の両親---CとDは、ウォルター氏が諜報部員になった途端に絶縁されたらしい。


その事が社交界で広まった為か、急速にパイプなどを失い戦後間もなく2人して孤独に世を去ったらしい。


碌な死に方をしておらず、調べなくても良かった事だ。


ただ、気になり調べただけで記事にはしない。


後、もう少しで記事は書き終える。


他社のように興奮するような記事ではない。


あの時代に残っていた騎士道を現代に伝えるだけの記事だ。


2人の撃墜王が生き抜いた時代の真実を・・・・・・・・


カチャ・・・・カチャ・・・・カチャ・・・・・


煙草を捨てて、両手でタイプ・ライターを打つ。


『不肖ながら自分の先祖も戦闘機乗りであった為、今回のコンタクトは非常に有意義かつ興奮を覚えるモノであった事は隠し立てる必要はない。好敵手は北アフリカの蒼穹に星となり消え、もう一人の星も…地に降りて消えた。彼は自分を“平凡な撃墜王”と呼んだが、私は違うと思う・・・・いや、そう思いたいのだ。彼が生きているからこそ“アフリカの星”と呼ばれた星は初めて蒼き空に輝き、地に降ちた星もまた輝けたのだ。戦場ジャーナリストとして、戦場にロマンティシズムを追求すべきではないとは重々承知している。だが・・・・いや、多くは語らない方が良いだろう。これは彼等だけの物語だ。歴史に語られぬ事が無かった彼等だけの・・・・・・・・・・              パリ編集者 ブレイズ』


                                アフリカの星は・・・・・・ 完


これにて物語は終わりです。


短い話で、戦闘シーンは殆ど無い物語で退屈したかもしれませんが、次回ではもう少し長く、そして戦闘シーンにも力を入れたいと思います。


最後になりますが・・・・・・・・・・・・・


この物語を第二次世界大戦で空に散って行った飛行機乗りたち全員に、捧げたいと思います。


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