『クラスのギャルが「ストーカーから守ってあげる!」と彼を庇うので、焦って彼の合鍵を作って不法侵入した結果。――なぜか彼が部屋の真ん中で嬉しそうに待っていました【短編】』
ご覧いただきありがとうございます。
このお話は、可愛いヤンデレ女子が、好きな男の子の部屋に合鍵で突撃する短編です。
前半は「ストーカーが撃退される話かな?」と思うかもしれませんが、綺麗にひっくり返ります。
さっくり読める、歪んでいるけれど最高に甘いハッピーエンド??ですので、ぜひ最後までお付き合いください!
「ハルトくん、ハルトくん。今日の髪型もすっごくかっこいいね……っ」
夕暮れの下校途中。わたしは電柱の陰から、大好きなハルトくんの後ろ姿を見つめていた。
胸がドキドキと暴れて、息がうまく吸えなくて、おかしくなっちゃいそうな頭を必死に抑える。
ハルトくんは今日も、わたしが「てくてく」と後ろを歩くだけで、びくぅっ! と肩を震わせて、真っ青な顔で競歩みたいに逃げていく。おびえるハルトくん、小動物みたいで本当に可愛い。
でも、最近ちょっとだけ邪魔者がいるの。
クラスのギャル、サクラさんだ。
彼女はいつもハルトくんに「おーいハルト、またあのストーカー(わたしのことかな?)に追われてんの? 大丈夫?」なんて親しげに話しかける。そのたび、わたしの心は、ドス黒い気持ちでいっぱいになる。
サクラさんは、怯えるハルトくんを庇うようにいつも私を睨みつける。
まるで『私が彼を救ってあげる』と言わんばかりの正義のヒロイン面。
うん、いいよ。わたしがハルトくんをこの手で完全に手に入れたら、サクラさんには絶望のどん底に落ちてもらうからね。
そのために、わたしは天才的な作戦を実行したの。
先週、ハルトくんが学校で体調を崩して保健室で寝ていたとき。わたしは彼のカバンから一瞬だけ本物の鍵を拝借して、近くのホームセンターで完璧な合鍵を作っちゃったんだもん!
その夜、家を出ようとした玄関で、お兄ちゃんが震えながらわたしの両肩を掴んできた。
『レイナ、頼むからあいつの部屋には行くな。お前が何をするか分からん……!』
むぅ、お兄ちゃん失礼だなぁ。サクラさんじゃあるまいし、わたしがハルトくんに乱暴するわけないじゃない。ただ、ちょっとだけ強引に、わたしだけのものにするだけなのに。
カチャ。
「……はぁ、はぁ。やっと、はいれたぁ……っ....我慢したかいがあった...」
真夜中、ハルトくんのワンルームマンション。
鍵を開けて滑り込んだ部屋は、静まり返っている。
ベッドに飛び込んで、シーツに顔をうずめて、すーはー、すーはー。
「えへへ……ハルトくんのにおいがするぅ……」
これでサクラさんにも、もう邪魔はさせない。
パチッ。
「……what?」
暗闇の中。部屋の明かりが、唐突に点いた。
ベッドの横。そこには、パジャマ姿のハルトくんが、スマホを片手に立っていた。
「ひゃぅっ!? あ、あ、ハルト、くん……っ!」
見つかっちゃった!
いたずらを見つかった仔犬みたいに、あわあわと涙目を浮かべてハルトくんを見上げる。
ハルトくんは怯えたように、一歩、後ろに下がった。その顔は真っ青で、唇を震わせている。
《レイナ……? どうして、どうやって鍵を……。ボクを……どうするつもり……?》
「おねがい、にげないでぇ……っ! わたし、ハルトくんを傷つけたりしないよ? ただ、わたしだけを見てほしいの……っ!」
ベッドから飛び降りて、彼の服の裾を、ぎゅっと掴む。
ハルトくんは恐怖に顔を歪めながら、ゆっくりと、リビングの奥へ奥へと後退していく。
その部屋の最奥には、普段は使われていない重い鉄の扉があった。ハルトくんは背中を扉に預け、ガタガタと震えている。
――カチ、カチ、カチ、カチ。
そのとき、部屋のどこからか、不穏なタイマーのような音が響き始めた。
何の音だろう?
まさかサクラさんや警察が突入してくるカウントダウン!?
「ざまぁ」されて引き離されるのだけは絶対に嫌だよ! 焦ったわたしは、ハルトくんを扉に押し付けた。
「ここ、開けて……? 二人で、ずっといっしょにいよう?」
その瞬間、カチリ、と音が止まった。
ガコンッ!!!
ものすごい重低音と共に、背後の鉄の扉が、内側から自動で勢いよく開く。
同時に、ハルトくんの声が、不自然に、低くなった。
怯えていたはずの彼の瞳から、すっと光が消える。
《待ってたんだよ、レイナ。君が、一線を越えてくれるのを》
「……え?」
ぐいっ、と強い力で腕を引かれ、わたしはハルトくんと一緒に、真っ暗な地下室へ転がり落ちた。
背後で、ガッシャーン! と、何重もの強固な電子ロックが閉まる音が響き渡る。
明かりが点く。そこは、広大な地下室だった。
「ハ、ハルト、くん……? お顔、ちっとも怖がってない……?」
床にへたり込むわたしの前に、ハルトくんがしゃがみ込んだ。
そして、自分のスマホの画面をわたしに向けて、えへへ、と無邪気に笑った。
そこに映っていたのは――先週の保健室。ハルトくんのカバンから、必死に鍵を盗み出しているわたしの映像だった。
《これ、ボクの保健室の棚に仕込んであった隠しカメラの映像なんだ。すっごく可愛く撮れてるでしょ?》
「な、なんでそれを……!」
《ボクがそうさせたんだよ。君、サクラさんとボクが話してると、いつも目が怖くなってたから。わざと彼女に頼んで『ボクを心配する幼馴染』を演じてもらって、君の嫉妬を煽ったんだ。案の定、焦った君は保健室で鍵を盗んでくれた》
ハルトくんは、わたしの頬を優しく撫でた。その瞳は、底なしの愛で満ちている。
《サクラさんは本当にボクを助けるつもりだったみたいだけど……ボクの狙いは別さ。こうして君が『合鍵を作って不法侵入した映像』があれば、ボクは完全な被害者。それにボクから監禁したら犯罪だけど、君が不法侵入してくれたなら『正当防衛』だよね?
ああ、サクラさんには『レイナが怖くて引っ越した』って言ってあるんだ
だから、君をこの地下室に一生閉じ込めても、誰も来ないし誰もボクを疑わない。》
その瞬間、わたしの脳裏に、お兄ちゃんのあの言葉がフラッシュバックした。
『レイナ、頼むからあいつの部屋には行くな。お前が何をするか分からん……!』
あ、これ違う。
お兄ちゃんがハルトくんに「妹が迷惑をかけて申し訳ない」って謝りに行ったあの日、ハルトくん、小さい声で『早くボクを襲いに来ないかな』って呟いてたんだって。
お兄ちゃんは、わたしがあいつに『何(捕食)されるか分からん』って意味で、震えてたんだ――!
《君に付きまとわれてから、ずっとこの日を待ってたんだ。さっきの音はね、不法侵入を検知して、この地下室の扉が自動ロックされるまでのタイマーだよ。……ねえ、レイナ。ボクを一生離さないって言ったよね? ボクも、君を一生ここから出さないよ》
ハルトくんが、上目遣いで、小首を傾げて、すっごくあざとく微笑む。
トクトクと、わたしの心臓が、嬉しさと衝撃で激しく暴れだす。
わたしがハルト君を追いかけてた思ってたのは、全部、ハルトくんの計算通りだったんだ。
「……うん、……うんっ! ハルトくん……っ! わたし、ずっとここにいるぅ……っ!」
わたしは彼を抱きしめ返した。ハルトくんはわたしの背中に腕を回して、耳元でくすくすと、愛おしそうに囁く。
《えへへ、つかまえた。……もう、絶対に外には出してあげないからね?》
あぁ、ハルトくん。
わたし、世界で一番幸せなストーカーになれちゃったみたい。
お兄ちゃん、ごめんね。
わたし、世界で一番幸せなヤンデレになれちゃったみたい。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
罠にハメる側のハルトくんのあざとさに「ヤバい」「最高にゾクッとした!」、あるいはレイナちゃんのチョロ可愛さに「お幸せに!」と思っていただけましたら、執筆の励みになります。
なろうって絵文字とか使えないのかな?




