表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

友人に推しへの恋を暴露されました

作者: あやお
掲載日:2026/02/28



「あら、今日もひどい格好ですのね、フィーナさん」


 汚れの染みついた制服、ほつれた髪型。

 声をかけた同級生のフィーナは顔を上げる。

 眼鏡の奥は、赤く腫れぼったく、潤んでいた。


「ティナさん……」


 彼女はワナワナと震えながら、私に抱きついた。


「私、うまく同級生に馴染めません!」


(馴染めないどころか、虐められてるのよ!)


 力一杯私を抱きしめる彼女に呆れながら、彼女の頭を撫でる。


「貴方、知らない常識や作法が多いのよ。常識知らずとは普通付き合いたくないのよ」


「……それでも付き合ってくれるティナさんて、良い人ですね」


 鼻水を啜りながら、笑うフィーナに、呆れを通り越して頭が痛くなってくる。


「おい、フィーナ。何故泣いている……いや、笑ってるのか」


「あ、ケイン。うん、両方合ってる」


 背後から声をかけられ、それにフィーナが返す。

 私はフィーナを剥がし、ケイン様に渡す。


「クロフォード様。フィーナはクラスメイトに泥水を浴びせられ、魔法で操られた鳥に髪の毛をぐしゃぐしゃにされ、私にクラスで馴染めないと訴えてきています」


「……それは」


 ケイン様は顔を引き攣らせ、フィーナを見る。

 当人は「何よ、ただでさえ険しい顔つきなのに、悪化してるわよ」とのたまう。


「……迷惑をかけて、すまない」


「別に、いいですわ。もう慣れましたし」


 そう言いながら、手持ちぶたさな指で髪を弄る。

 私が彼女を構う理由は二つ。

 ひとつは、彼女の人間性が好きだから。

 もうひとつは、ケイン•クロフォード様が大好きだから。

 

「フィーナ、とりあえず帰るぞ」


 彼はフィーナを当たり前のように肩に担ぎ、馬車に向かう。

 彼女は私のほうを見て、笑顔で手をひらひらと振っている。

 私も手を振っていると、彼は馬車の前で、ぴたりと足を止めて、振り向く。


「……ケインでいい。じゃあな、ティナ」


 そう言って、口角を上げ、馬車に乗り込む。

 私は表情を変えず、手を振る。

 やばいやばいやばい。

 そして、馬車が離れたのを見届けてから、地面にへたり込む。

 

「ケイン様……かっこよすぎるぅ」


 ドレスの胸元をぎゅうっと両手で握りしめる。

 胸の奥から心臓が飛び出そうなくらい、大きな音が鳴り響いた。まるで、初めて彼と出会った時のように。


 ケイン様と出会ったのは、ちょうど一年前のことだ。

 あの日も、彼はフィーナを肩に担いでいた。

 明らかに異様な状況に、周りの人達は少し離れ、ヒソヒソ話していた。

 だが、私の目は彼の顔面に釘付けだった。

 浅黒い肌に、切れ長の緑色の瞳。短い髪に薄い唇。

 全てが、私が幼少期から理想として、絵本まで作った理想の王子様そのものだったのだ。


 彼に送っていた視線は、彼とではなく、何故か担がれているフィーナと交わった。

 そこで、私は彼が彼女を担いでいることに気がついた。

 えっ、何どういう状況なの? とおかしな状況に気がついた瞬間、フィーナはケイン様の肩から抜け出し、私の前に立ち、顔をずいっと近づける。


「ね! 私フィーナっていうの。友達になろう」


 鼻先同士が触れそうなほど、近くで言われ、私はさっきとは違った意味で固まってしまう。

 だが、フィーナはすぐに引き剥がされる。


「フィーナ、困ってるだろ」


 思っていた通りの、低く響く声。

 声まで、理想通りの彼が、フィーナの首根っこを抑えている。

 彼は一礼し、離れようとする。

 それに焦り、私は思わず声をかける。


「友達、なりましょう」


 ケイン様の驚愕した表情と、フィーナの花が咲いたような笑顔の落差がひどい。彼女は私の手を握り、大きく振る。


「仲良くしようねぇ! なんで名前?」


「ティナよ。よろしくね」


 恋にうつつを抜かすなんて、と今まで冷めた目でめていたりもしたけれど、人のこと言えないわねと、小さく笑う。フィーナはそんな私に笑顔でマシンガントークを繰り出し、ケイン様は「変わってるな」と呟いた。

 マシンガントークは1時間続き、ケイン様にフィーナが担がれ強制終了となった。


 もしかしたら、失敗したかも?

 ちょっとだけ、本当にちょっとだけそう思った。



「フィーナ、貴方とケイン様ってどういう関係なの?」


 ストレートに疑問をぶつけると、彼女はサンドウィッチを頬張りながら答える。


「はれは、はいはいふひほはへいに」

「ごめんなさい。食べ終わってからでいいわ。食事中に話しかけた私がマナー違反だったわね」

 

 彼女はニコニコしながら、サンドウィッチを頬張り続ける。最後には、私のお皿からもひとつ、サンドウィッチをつまみ、口に運んだ。

 そして、よく咀嚼してから「ごちそうさまでした」と言った。


「えっとね、彼は代々うちの家系に支えている騎士の一族で、私のお目付役なわけ」


「そうなのね……それで、その、彼のこと、好きだったり、するの?」


 思いの外もじもじ聞いてしまい、何なのよ私は! と自分自身にいらいらしつつ、下を向いて返答を待つ。


「まぁ、好きだけど家族として、みたいなかんじかな」


 彼女の返答に、私は顔をぱっと挙げ、彼女を見る。

 彼女は耳を真っ赤にして、デレデレした表情をしている。


「えと、だから……私、ティナちゃんの気持ちには応えられるよ?」

「待って、私が好きなのはケイン様だから」

「えっ?! そうなの!」


 しまった。否定したくて、素直に言い切ってしまった。


「てっきり、私に告白したくて探り入れてるかと思ってた」

「探り入れられるとかの感覚はあるのね……じゃなくて! ケイン様には絶対に内緒にしてよね」


「俺に内緒?」


 頭上から声がして、私はゆっくりと上を見上げる。

 そこには、少し怪訝そうな表情をしたケイン様がいた。

 まずいまずいまずい。

 生きてきた中で得た、全ての知識を集結しなければ!

 なんて返す?! マカロンが好きってことを内緒にしたいっていう?! いや、おかしいか。逆にマカロンが嫌いってことにする?! いや、好き嫌いとかだめか?!


「ティナちゃん、ケインのこと好きなんだって」

「いやぁぁぁあ!!」


 フィーナの発言に思わず叫んでしまう。でも、脳裏ではまだ巻き返せるのでは?! と思考が巡る。

 とにかく、何か言わなければ!


「ケイン様の、飼ってる犬が! 好き過ぎて! お家に会いに行きたいくらいなんですって、言いたかったんですの。でも、それってはしたないかなって思って、内緒にして欲しいって話だったんですわ!!」


 息継ぎもなく、そう捲し立てる。

 フィーナが「そういうことだったんだー!」と能天気に返し、ケイン様が横を向いて震えている。これ、笑われてるわ。絶対。


 乱れた息を整えていると、ケイン様が「今度、フィーナと一緒に遊びに来たらどうだ」と言う。

 誤魔化せた! そう思い、私は笑顔で大きく頷く。

 すると、ケイン様が私の耳元に顔を近づける。


「俺のこと、好きなんだよな。今度、デートしようか。二人で」


 そう言って、顔をゆっくり離す。

 彼の顔は、悪戯っ子のような笑みを浮かべていて、私はすぐさま、その場に倒れる。


「ええ?! ティナどうしたの?! ケインの息が臭かったとか?!」


 ムードを壊すフィーナの声が聞こえる中、私は瞼を閉じ、心の中で呟く。


 

 悪戯っ子気質、最高です。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ