友人に推しへの恋を暴露されました
「あら、今日もひどい格好ですのね、フィーナさん」
汚れの染みついた制服、ほつれた髪型。
声をかけた同級生のフィーナは顔を上げる。
眼鏡の奥は、赤く腫れぼったく、潤んでいた。
「ティナさん……」
彼女はワナワナと震えながら、私に抱きついた。
「私、うまく同級生に馴染めません!」
(馴染めないどころか、虐められてるのよ!)
力一杯私を抱きしめる彼女に呆れながら、彼女の頭を撫でる。
「貴方、知らない常識や作法が多いのよ。常識知らずとは普通付き合いたくないのよ」
「……それでも付き合ってくれるティナさんて、良い人ですね」
鼻水を啜りながら、笑うフィーナに、呆れを通り越して頭が痛くなってくる。
「おい、フィーナ。何故泣いている……いや、笑ってるのか」
「あ、ケイン。うん、両方合ってる」
背後から声をかけられ、それにフィーナが返す。
私はフィーナを剥がし、ケイン様に渡す。
「クロフォード様。フィーナはクラスメイトに泥水を浴びせられ、魔法で操られた鳥に髪の毛をぐしゃぐしゃにされ、私にクラスで馴染めないと訴えてきています」
「……それは」
ケイン様は顔を引き攣らせ、フィーナを見る。
当人は「何よ、ただでさえ険しい顔つきなのに、悪化してるわよ」とのたまう。
「……迷惑をかけて、すまない」
「別に、いいですわ。もう慣れましたし」
そう言いながら、手持ちぶたさな指で髪を弄る。
私が彼女を構う理由は二つ。
ひとつは、彼女の人間性が好きだから。
もうひとつは、ケイン•クロフォード様が大好きだから。
「フィーナ、とりあえず帰るぞ」
彼はフィーナを当たり前のように肩に担ぎ、馬車に向かう。
彼女は私のほうを見て、笑顔で手をひらひらと振っている。
私も手を振っていると、彼は馬車の前で、ぴたりと足を止めて、振り向く。
「……ケインでいい。じゃあな、ティナ」
そう言って、口角を上げ、馬車に乗り込む。
私は表情を変えず、手を振る。
やばいやばいやばい。
そして、馬車が離れたのを見届けてから、地面にへたり込む。
「ケイン様……かっこよすぎるぅ」
ドレスの胸元をぎゅうっと両手で握りしめる。
胸の奥から心臓が飛び出そうなくらい、大きな音が鳴り響いた。まるで、初めて彼と出会った時のように。
ケイン様と出会ったのは、ちょうど一年前のことだ。
あの日も、彼はフィーナを肩に担いでいた。
明らかに異様な状況に、周りの人達は少し離れ、ヒソヒソ話していた。
だが、私の目は彼の顔面に釘付けだった。
浅黒い肌に、切れ長の緑色の瞳。短い髪に薄い唇。
全てが、私が幼少期から理想として、絵本まで作った理想の王子様そのものだったのだ。
彼に送っていた視線は、彼とではなく、何故か担がれているフィーナと交わった。
そこで、私は彼が彼女を担いでいることに気がついた。
えっ、何どういう状況なの? とおかしな状況に気がついた瞬間、フィーナはケイン様の肩から抜け出し、私の前に立ち、顔をずいっと近づける。
「ね! 私フィーナっていうの。友達になろう」
鼻先同士が触れそうなほど、近くで言われ、私はさっきとは違った意味で固まってしまう。
だが、フィーナはすぐに引き剥がされる。
「フィーナ、困ってるだろ」
思っていた通りの、低く響く声。
声まで、理想通りの彼が、フィーナの首根っこを抑えている。
彼は一礼し、離れようとする。
それに焦り、私は思わず声をかける。
「友達、なりましょう」
ケイン様の驚愕した表情と、フィーナの花が咲いたような笑顔の落差がひどい。彼女は私の手を握り、大きく振る。
「仲良くしようねぇ! なんで名前?」
「ティナよ。よろしくね」
恋にうつつを抜かすなんて、と今まで冷めた目でめていたりもしたけれど、人のこと言えないわねと、小さく笑う。フィーナはそんな私に笑顔でマシンガントークを繰り出し、ケイン様は「変わってるな」と呟いた。
マシンガントークは1時間続き、ケイン様にフィーナが担がれ強制終了となった。
もしかしたら、失敗したかも?
ちょっとだけ、本当にちょっとだけそう思った。
「フィーナ、貴方とケイン様ってどういう関係なの?」
ストレートに疑問をぶつけると、彼女はサンドウィッチを頬張りながら答える。
「はれは、はいはいふひほはへいに」
「ごめんなさい。食べ終わってからでいいわ。食事中に話しかけた私がマナー違反だったわね」
彼女はニコニコしながら、サンドウィッチを頬張り続ける。最後には、私のお皿からもひとつ、サンドウィッチをつまみ、口に運んだ。
そして、よく咀嚼してから「ごちそうさまでした」と言った。
「えっとね、彼は代々うちの家系に支えている騎士の一族で、私のお目付役なわけ」
「そうなのね……それで、その、彼のこと、好きだったり、するの?」
思いの外もじもじ聞いてしまい、何なのよ私は! と自分自身にいらいらしつつ、下を向いて返答を待つ。
「まぁ、好きだけど家族として、みたいなかんじかな」
彼女の返答に、私は顔をぱっと挙げ、彼女を見る。
彼女は耳を真っ赤にして、デレデレした表情をしている。
「えと、だから……私、ティナちゃんの気持ちには応えられるよ?」
「待って、私が好きなのはケイン様だから」
「えっ?! そうなの!」
しまった。否定したくて、素直に言い切ってしまった。
「てっきり、私に告白したくて探り入れてるかと思ってた」
「探り入れられるとかの感覚はあるのね……じゃなくて! ケイン様には絶対に内緒にしてよね」
「俺に内緒?」
頭上から声がして、私はゆっくりと上を見上げる。
そこには、少し怪訝そうな表情をしたケイン様がいた。
まずいまずいまずい。
生きてきた中で得た、全ての知識を集結しなければ!
なんて返す?! マカロンが好きってことを内緒にしたいっていう?! いや、おかしいか。逆にマカロンが嫌いってことにする?! いや、好き嫌いとかだめか?!
「ティナちゃん、ケインのこと好きなんだって」
「いやぁぁぁあ!!」
フィーナの発言に思わず叫んでしまう。でも、脳裏ではまだ巻き返せるのでは?! と思考が巡る。
とにかく、何か言わなければ!
「ケイン様の、飼ってる犬が! 好き過ぎて! お家に会いに行きたいくらいなんですって、言いたかったんですの。でも、それってはしたないかなって思って、内緒にして欲しいって話だったんですわ!!」
息継ぎもなく、そう捲し立てる。
フィーナが「そういうことだったんだー!」と能天気に返し、ケイン様が横を向いて震えている。これ、笑われてるわ。絶対。
乱れた息を整えていると、ケイン様が「今度、フィーナと一緒に遊びに来たらどうだ」と言う。
誤魔化せた! そう思い、私は笑顔で大きく頷く。
すると、ケイン様が私の耳元に顔を近づける。
「俺のこと、好きなんだよな。今度、デートしようか。二人で」
そう言って、顔をゆっくり離す。
彼の顔は、悪戯っ子のような笑みを浮かべていて、私はすぐさま、その場に倒れる。
「ええ?! ティナどうしたの?! ケインの息が臭かったとか?!」
ムードを壊すフィーナの声が聞こえる中、私は瞼を閉じ、心の中で呟く。
悪戯っ子気質、最高です。




