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13.王子の仮面の裏側

冷たい水の中で、強く抱き寄せられた。

ルイの腕だった。


かつてないほどの近さで、

ハニーブラウンの瞳がミオだけを見つめている。


(この表情は…何を考えているんだろう)


ミオの意識が遠のいていく。



「おい、バカ女…バカ女!」


安堵と苛立ちが混じった声だった。

ミオが目を開けると、視界一面にルイの顔と背景の青空が映り込んだ。


起き上がると、ルイの腕がまだ肩を支えていた。

その距離の近さに気づき、ミオの心臓が跳ねる。

慌てて離れた。


辺りを見回すと、湖の岸辺のようだ。周辺には二人以外、人影はなかった。


気を失う直前、水中で見た輝くハニーブラウンの瞳を思い出す。


「す、すすみません!巻き込んでしまって…本当に申し訳ないです」


ミオは首が折れそうになるほど、何度も頭を下げた。


「大丈夫だよ。すぐに魔法で乾かした」


確かに彼には、水に濡れた形跡が全くない。

ミオの髪や制服も同様に濡れた形跡がなかった。


「君も冷えただろ」

「すみません、私まで乾かしていただいて」


顔を上げ、ルイに謝罪をすると、彼の頭上に三色の札が並んでいるのが目に入った。


(あ、私の札!)


慌てだしたミオを見て、ルイは小さく笑って言った。


「そっちも、大丈夫。残ってるから。彼らの札は僕がとった」


ミオが安堵のため息をつくと、ルイは立ち上がった。


「君が問題ないなら、そろそろ出口に向かおうか。残り五分で交流戦終了との合図があった」


「はい」


ミオはゆっくりと立ち上がり、ルイと視線を合わせた。しかし、一向に歩き出す気配がない。


数秒、二人は無言で見つめ合った。ミオが疑問を口にしようとしたその時。

ルイの完璧な笑顔がスッと消えた。


「バカ女」


これまでの彼からは、到底想像もできない低い声。


「俺が呼んだ声、聞こえてただろ、さっき」


ミオは一拍遅れて、彼が何を言っているのかを理解した。


目を開ける前に聞こえたルイの声。もちろん、はっきりと聞いていた。

だが、できるだけ、彼とは関わらないでいたい。

これまでの距離を保ち、平穏な生活を送りたい一心で、気づかないふりをしたのだ。


「…なんのことでしょう。何も聞こえてないです」


声が震えないように、息を深く吸って勢いよく答えた。そして、その勢いのまま「行きましょう」と歩き出そうとする。

しかし、ルイはフッと気の抜けたような笑い声をあげた。


「嘘が下手だな」


(ひぃぃぃ!…なんで?いつもの作り笑顔で流してくれないの!?)


「お前、俺と目が合うといつも変な顔してたな。猫被ってることに気づいてんだろ」

「め、滅相もございません!」


即答する。しかし、彼はミオの返事はまるで求めていないように続けた。


「それに、自分が監視されてることも聞いただろ?何も言わないのか」

「え…」


(エリオがその話をしている時にはいなかったと思うんだけど)


「なんで、そのこと知ってるんですか?」


ルイの左の口角だけがゆっくりと斜め上に引き上げられる。

端正な顔立ちに似合わない歪んだ笑みのまま、愉快そうに言った。


「監視してるから」


「怖っ!」


思わず大きな声が出てしまい、慌てて手で口を覆う。

彼は喉奥を低く鳴らし笑った。


「昼休みにはぐれたお馬鹿さんを探そうと思って、集音魔法をかけた。その時、声を拾っただけだ」


いつもより低く、冷たい口調をしているが、随分と楽しそうな表情をしている。


「…性格悪いって言われません?」

「いや、ないね。王子様みたい、と言われたことはあるけど」


(そうだった。この人、猫被り王子なんだった)


先ほどまで、新しい玩具を見つけたかのように楽しげだったルイの表情が、すっと引き締まる。


「ところで、お前。異能は使わない方がいいって言ったよな」


意味が分からず、ぼんやりした表情を浮かべているミオに、彼はさも面倒だというようにため息をついた。


「湖に落ちる時、俺の手に何か巻き付けて、引っ張っただろ。」


「…!あ、あれは無意識と言うか。不可抗力と言うか」


ルイは一瞬だけ目を丸くし、再びため息をついた。


「意識して発動させた訳じゃないことは分かった」


ルイはそう言うと、何かを測るようにミオを見つめた。


(この人は…私の異能がはっきりするまで、見張り続けなきゃいけないのかな)


彼は交流戦のペアになり、放課後の時間も割いている。今日は巻き込まれて、湖に落とされた。おそらく、ミオが知らない間にも彼の時間は割かれ、迷惑を掛けているのではないだろうか。


「すみません、早くコントロール出来るように頑張ります」


彼が何を言っているのか分からないという表情をするので、ミオは慌てて続けた。


「私の異能がはっきりすれば、見張る必要もないですし…」


「あぁ。別に」


彼は今まで以上に冷たい声を出した。


「監視対象はお前だけじゃない。

 俺の生活は、最初からそういうものだ」


どういう意味か聞きたいが、そんな隙は与えられなかった。

何事もなかったように歩き出したルイの後を追い、森の出口へと向かう。


出口に近づくにつれて、生徒数が増えてきた。

周囲の生徒に完璧な王子の笑顔で応じるルイを見ながら、ミオは思った。


(この人、やっぱりいい人じゃない)


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