第7話『蒼玉の真実』
地下室の魔獣を倒したものの、《蒼玉のペンダント》はどこにも見当たらなかった。
アレクは苛立ったように髪をかき乱す。
「チッ、せっかく魔獣を片付けたのに、肝心のペンダントは影も形もねぇ……」
レンは心配そうに辺りを見回した。
「アレク君……もしかして、魔獣が持ってたわけじゃなかったんだよね?」
「そうだ。あれはただ結界の綻びに引き寄せられただけだ」
ジンが冷静に断言する。
「つまり、盗んだのは……人間だ」
三人が屋敷の廊下へ戻ろうとした、その時だった。
「その通り……だが、もう遅い」
低く湿った声が響き、闇の中から一人の影が現れた。
屋敷の執事服をまとった男――依頼人に仕えるはずの執事だ。だが、その手には確かに《蒼玉のペンダント》が握られていた。
「……テメェ!」
アレクが叫ぶ。
「どうしてそんなものを……!」
レンの声が震える。
執事は口元に歪んだ笑みを浮かべた。
「この家に仕えるのも、もう疲れた……。この宝を売れば、俺は自由の身になれる」
「くだらねぇ理由で……!」
アレクが拳を握る。
だが次の瞬間、執事の全身を黒い瘴気が包み込んだ。
「な、なんなの!?」
レンが後ずさる。
「……やはりな」
ジンが低く呟く。
「そのペンダントには、古い封印の力が宿っていて、持つ者の心を蝕む呪具なんだ」
「へぇ……詳しいな」
執事の声はもう人のものではなく、魔獣の唸りが混じっていた。
瘴気が形を変え、執事の身体は黒い獣のように膨れ上がっていく。
「……やべぇ、完全に取り込まれてやがる!」
アレクが構えを取った。
執事の怪物――《ペンダントの憑依体》が咆哮し、廊下を揺るがす。
「レン、下がれ!」
アレクが叫ぶ。
怪物の腕が振り下ろされる。アレクは小さな体で飛び込み、ギリギリで受け流した。
だが衝撃は重く、床に叩きつけられる。
「くっ……やっぱり体が軽すぎる!」
「アレク君!」
レンが駆け寄ろうとするが、ジンが腕を伸ばして制した。
「近づくな。巻き込まれれば即死だ」
ジンの目は冷たくアレクを見据えていた。
「……証明してみろ。お前が本当に妹を守れる存在なのかを」
「ふざけんな……!」
アレクは血の滲む唇を拭い、立ち上がった。
「俺は英雄アレックス・ホークだ! ガキの身体だろうが、勇者の誇りは変わらねぇ!」
彼は周囲を見渡し、目に留まった壊れた燭台を掴む。
「武器がねぇなら、これで十分だ!」
怪物が咆哮し、突進してくる。
アレクはミユに助けられた時と同じ勘を研ぎ澄ませ、レンの声を待った。
「アレク君! 胸の魔石が光ってる!」
「よし、狙いはそこだ!」
怪物の腕を紙一重で避け、アレクは燭台を突き立てた。
ズガァン!
魔石が砕け散り、瘴気が弾ける。執事は絶叫と共に元の姿に戻り、床に倒れ込んだ。
静寂が戻った廊下で、アレクは荒い息を吐きながら立っていた。
レンが駆け寄り、必死に支える。
「アレク君、大丈夫!?」
「お、おう……なんとか、な……」
ジンはペンダントを拾い上げ、厳しい目で睨む。
「やはり呪具か。……これは処分する必要がある」
アレクは鼻を鳴らし、にやりと笑った。
「どうだ、ジン。俺がいなきゃ依頼は解決できなかっただろ?」
「……調子に乗るな」
そう言いながらも、ジンは以前ほど冷たい目をしていなかった。
こうして最初の依頼は解決した。
だが、アレクの胸には一つの疑念が残る。
(……呪具。ペンダントみたいなものが、他にもあるのか? それを操ろうとしている奴が、この世界に……?)
勇者の魂を宿すホムンクルスの物語は、まだ始まったばかりだった。




