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転生のホムンクルス-最強勇者は魔法が存在する現代日本に転生しました-  作者: エア


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第50話『戦いの残響』

 夜空に上がった花火の残光が消えていく頃、広場は一面の静寂に包まれていた。

 先ほどまで太鼓の音と歓声に満ちていた祭りは、いまや恐怖と混乱の残り香しか残していない。


 櫓は半壊し、屋台は倒れ、石畳には無数の裂け目が走っている。

 人々は広場の端に避難させられ、すすり泣きとざわめきが絶え間なく続いていた。


 その中心で、アレクは荒い息を吐きながら地面に膝をついていた。

 小さな体のあちこちに切り傷や打撲が浮かび上がり、制服は泥と血に汚れている。


「アレク君!」

 レンが慌てて駆け寄り、彼を抱き起こした。

 温かい血が手に滲む。レンの胸は締め付けられるように痛んだ。


「おい、しっかりしろ! 意識はあるのか!?」

 カズマが声を張り上げる。


「……へへ、うるせぇな。これくらいで倒れるかよ」

 アレクは口元を吊り上げたが、その笑みは苦しげだった。


「無理するな」ユウタが冷静に言う。「敵は退いた。いま必要なのは休養だ」


 アレクは悔しそうに唇を噛み、俯いた。

 「……わかってる。けど、あと少しで届いたんだ。絶対に斬れたはずなのに……!」


 拳を握りしめるその瞳には、まだ炎が宿っていた。



 そのやり取りを見守っていたジンは、眼鏡を押し上げながら現場を歩き回っていた。

 石畳の裂け目を膝をついて調べ、指先で黒い残滓をすくい取る。


「やはり……呪具由来の残滓だ」

 低い声が夜気に落ちる。


 レンが振り返った。「お兄ちゃん……あのヴァイスって、やっぱり呪具なの?」


「半分は、だ」ジンの瞳が冷たく光る。「人間の肉体を核に、呪具の鎧で縛り、心を消し去った存在……“刃の従者”だ。あれはもう、普通の人間ではない」


 ミユの顔が青ざめる。「じゃあ……救うことは」


「できない」ジンはきっぱりと言い切った。「存在そのものが呪いの産物だ。破壊する以外に道はない」


 その言葉に、レンは唇を噛んだ。

 アレクは、ただ黙って拳を強く握りしめていた。



 市民たちが次々と広場の外へ誘導される。

 泣きじゃくる子どもを抱えた母親、顔面蒼白の老人、屋台を守ろうとして負傷した若者。

 彼らの目に映るのは、瓦礫と炎の残り香。


 「祭りが……」

 「さっきの影は何だったんだ……?」

 「もうこの街は安全じゃないのかもしれん」


 そんな声があちこちから漏れ、群衆に不安が広がっていった。


 ミユは耐え切れず声を上げた。

 「大丈夫! アレク君が戦って、追い払ったの! だから、安心して!」


 その必死の叫びに、一瞬、人々の目が彼女に向いた。

 だが不安の炎は完全には消えない。


 「……子どもが? 本当に?」

 「いや、見間違いだろう」

 「でも確かに……影が斬られて消えた……」


 ざわめきは収まらず、むしろ疑念と恐怖が複雑に混じり合っていった。



 やがて広場に静けさが戻ったころ、ジンが仲間たちを集めた。

 彼の表情はいつにも増して険しい。


「奴は退いた。しかし――これは終わりではない」


 アレクが睨む。「また来るってことか」


「来るどころか、次はさらに強大な力を伴うだろう」

 ジンの言葉は冷酷だった。

 「今日の襲撃は“試し”。奴らは我々の力を測っただけに過ぎない。本命は……まだこれからだ」


 沈黙が落ちる。

 誰もが予感していたことだが、改めて突きつけられると背筋が凍る思いがした。


「じゃあ……どうすれば」レンの声が震える。


 ジンは妹を見据え、そして全員を見渡した。

 「選択肢は二つ。戦うか、逃げるかだ」


 その言葉に、アレクは即座に立ち上がった。

 「逃げるなんてあり得ねぇ! 俺は絶対に戦う!」


 声は小さな身体からは想像できないほど力強かった。


「俺は勇者だ。元の体を取り戻すためにも、この世界を守るためにも――絶対に立ち向かう!」


 カズマがにやりと笑う。「へっ、言うじゃねぇか。まぁ俺も同じだ。逃げるなんて性に合わねぇ」


 ユウタは冷静に頷いた。「合理的に見ても、敵は執拗だ。逃げても必ず追ってくる。ならば、迎え撃つのが正解だ」


 ミユも胸に手を当てた。「……私も。怖いけど……でも、もう目を逸らしたくない。アレク君が戦ってるのに、私だけ逃げるなんてできない」


 レンも強く頷く。「私だって同じ。アレク君を守るために、この手でできることをやる!」


 五人の瞳が一つの方向を向く。

 その光景を、ジンはしばらく黙って見ていた。

 やがて彼は、ほんの少しだけ眼差しを和らげて言った。


「……いいだろう。ならば戦う準備を整える。だが覚悟しろ。次は命の保証はない」


 全員の喉がごくりと鳴った。

 しかし誰一人、視線を逸らす者はいなかった。



 夜更け。

 水鏡屋に戻った一行は、それぞれの思いを胸に作業を始めた。


 レンは机に向かい、新しい呪具対策の研究ノートを開いた。

 震える指先を必死に押さえながら、アレクの赤い瞳を思い浮かべる。


 ミユは札の写本を並べ、異常な反応を記録していく。

 「……ヴァイスの鎧、やっぱり札の連結式だ。もし中枢を壊せれば――」


 カズマは木刀を磨き、ユウタは古文書を広げていた。

 「次は一撃でぶっ壊してやる」

 「それには理論が必要だ。力任せでは限界がある」


 そしてアレクは、静かに拳を握りしめた。

 (必ず……必ず倒す。俺の仲間を、街を、誰一人傷つけさせない!)


 窓の外、秋風が提灯の残り火を揺らした。

 市民祭の夜は終わった。

 だが――戦いの幕は、まだ上がったばかりだった。

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