第38話『黒刃との戦い』
夜の路地。
レンを標的に、黒刃のヴァイスが冷酷に刃を振り下ろそうとした瞬間――アレクが飛び込んできた。
「させるかぁぁぁっ!!」
杖の石突きがヴァイスの刃と激突し、火花が飛び散る。
衝撃で小さな身体が弾かれそうになるが、アレクは歯を食いしばって踏みとどまった。
「……アレックス・ホーク」
ヴァイスは感情を持たぬ瞳でアレクを見下ろす。
「邪魔をするなら、お前も切り捨てるだけだ」
「やってみろよ! てめぇみたいな人形に、俺は負けねぇ!」
赤い瞳をぎらりと輝かせ、アレクは吠える。
路地の入口から駆けつけたカズマが叫ぶ。
「アレク! 後ろは任せろ!」
豪快に構えた木刀がヴァイスの脇を狙い、鋭く振り下ろされる。
ユウタは冷静に距離をとり、符を宙へ投げ放つ。
「封印陣・起動!」
光の紋様が地面に展開し、ヴァイスの足を束ねる鎖が現れた。
「……ほう」
ヴァイスは低く唸り、鎧の表面が赤黒く輝く。鎖はすぐに弾かれて砕け散った。
「やっぱり効きが浅いか!」
ユウタが舌打ちする。
「でも時間稼ぎにはなる!」
その隙を突き、アレクが跳びかかった。
「うおおおっ!」
杖を渾身で振り下ろす。だがヴァイスは片腕で容易く受け止め、逆に衝撃でアレクの体を弾き飛ばした。
「アレク君っ!」
レンが叫ぶ。
地面を転がりながらも、アレクはすぐに立ち上がる。
(やっぱり強ぇ……でも俺は退けねぇ!)
ヴァイスの刃が再びレンへと向かう。
「排除対象、捕捉――」
その瞬間、ミユが飛び出した。
「させない!」
小さな掌から光の魔法が迸る。
「ライト・フラッシュ!」
閃光がヴァイスの視界を覆い、わずかに動きが止まる。
アレクがすかさず叫んだ。
「ナイスだ、ミユ!」
しかしヴァイスはすぐに回復し、無機質な声で告げる。
「光属性……想定内」
漆黒の刃が唸りを上げ、再び振り下ろされる。
カズマが木刀で割って入り、火花が散った。
「ざけんなよ! 女の子に手ぇ出すんじゃねぇ!」
力比べに押されながらも、必死に耐える。
「カズマ、下がれ!」
アレクが叫ぶ。
「お前こそ下がれっての!」
二人の声が重なり、必死の攻防が続く。
ユウタは冷静に戦場を見極めていた。
「……鎧の紋様、やはり“呼吸”している。光る瞬間がある――あそこが弱点だ」
彼は符を十枚同時に投げ放ち、複雑な陣を描いた。
「封雷陣、発動!」
青白い雷光がヴァイスを包み込み、一瞬その動きが鈍る。
「今だ、アレク!」
「おうっ!」
アレクは跳躍し、杖を振り下ろす。
狙いは鎧の胸の紋様――だが刃が間に合った。火花が散り、攻撃は弾かれる。
ヴァイスの冷徹な声。
「……悪くない。だが、まだ足りぬ」
雷をも弾き飛ばし、再び立ち上がる。
レンは震える手で叫んだ。
「お願い、みんな無茶しないで! 私のせいで……!」
アレクが振り返り、怒鳴る。
「違う! 守りてぇから戦ってんだ! お前が狙われようと関係ねぇ! 俺が勝手に守りたいんだ!」
その言葉にレンの瞳が揺れる。胸の奥に熱いものがこみ上げた。
「……アレク君……」
カズマが笑う。
「ったく、口だけは一丁前だな! でも嫌いじゃねぇ!」
ユウタも頷く。
「僕らは“仲間”だ。誰一人欠けさせない」
四人の心が一つになった瞬間、空気が震えた。
ヴァイスが低く呟く。
「連携……無意味」
黒刃が唸りを上げる。
しかし今度は違った。
カズマが囮となり、ユウタが陣で足を縛り、ミユが光で視界を奪う。
その連携の隙を突き、アレクが跳んだ。
「これでぇぇぇっ!!」
渾身の一撃が鎧の紋様を直撃した。
「……ッ!」
ヴァイスの身体が大きく揺らぎ、赤黒い火花が散った。
「やった……!?」
ミユが声を上げる。
だがヴァイスは膝をつきながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「……解析完了。次は通じぬ」
「くそっ……やっぱり化け物か!」アレクが悔しげに歯を食いしばる。
レンが前へ出た。
「……私も、戦う」
アレクが驚く。
「馬鹿! お前は狙われてんだぞ!」
「だからこそよ! 私が逃げてたら、みんなずっと危ないまま! 創造主として……アレク君を作った責任があるの!」
レンの瞳には恐怖ではなく、確かな覚悟が宿っていた。
アレクはしばし黙り、そして力強く頷いた。
「……わかった。じゃあ一緒に戦おう。俺とお前は“創造主とホムンクルス”じゃなく、“仲間”だ!」
レンは涙をにじませながら笑った。
「うん!」
ヴァイスが構え直す。
「任務、継続」
だが、その瞬間――遠くから鐘の音が響いた。
夜の街に広がる結界の揺らぎ。ジンが駆けつけてきたのだ。
「……遅れてすまない」
冷たい声が夜を裂く。
ヴァイスがわずかに顔を上げる。
「新たな干渉……」
ジンの刃が光を反射する。
「アレク、下がれ。ここからは――俺が斬る」
夜の路地に、再び激しい火花が散ろうとしていた。




