プロローグ
世界を覆い尽くす闇が、炎のごとき赤光を放ってうねっていた。
その中心に、災厄そのもの──魔王が立ちはだかっている。
「……ここまでか」
アレックス・ホークは、傷だらけの剣を握りしめ、口元に苦笑を浮かべた。全身はすでに限界を超え、視界はかすみ、意識も遠のいている。それでも彼は足を止めなかった。仲間たちの犠牲の上に辿り着いた、この一瞬を無駄にするわけにはいかない。
魔王の咆哮が戦場を震わせる。耳をつんざく音に、鼓膜が破れそうだ。それでもアレクは前に出た。
「誰かが、終わらせなきゃいけないんだよな……なら、俺がやるしかない」
最後の力を振り絞り、聖剣を振り上げる。
刃に宿る光が、暗黒を裂いて閃光を走らせた。
──ズゥンッ!
光と闇がぶつかり合い、天地を震わせる衝撃が大地を裂く。
魔王の胸を、確かに剣が貫いた。
「……ざまぁ、みろ」
勝利の確信と同時に、全身を焼き尽くすような激痛が襲う。魔王の断末魔と共に溢れ出た呪詛の奔流に、彼の肉体は容赦なく蝕まれていった。
視界が闇に沈む。
血に濡れた剣を手放し、膝が崩れ落ちる。
(……俺の人生、ここで終わるのか……?)
絶望の表情を浮かべながら、アレックス・ホークは最期を迎えた。
だが、その魂が見知らぬ時代へと導かれることを、彼はまだ知らない。