プロローグ
世界が、崩れ落ちていた。
燃え落ちる天空城の断片が、赤い彗星のように降り注ぐ。
炎の残光が、瓦礫の上に立つ二人の影を照らしていた。
一人は、全身を黒い霧に包まれた男。
その背後に揺らめくのは、千年の怨念を凝縮した禍々しい魔力――
“魔王ザイエル=オルグ”。
もう一人は、黄金の剣を手にした若き勇者。
ボロボロのマントを風になびかせ、なおも立つ。
“アレックス・ホーク”――英雄と呼ばれた男。
彼の周囲には、倒れた仲間たちが横たわっていた。
聖女シルフィ、剣士カイル、竜騎士レアナ……みなすでに戦えない。
勇者は最後の灯として、剣を握り直した。
「……終わらせる。俺の手で」
声は低く、だが確かな決意に満ちていた。
胸の奥で心臓が、燃えるように脈を打つ。
それは恐怖ではない。――責任だ。
魔王は笑った。
「終わらせる、だと? 人の身で神に抗う愚かさを、まだ悟らぬか」
「神? 違うな」
アレクは血を吐きながら笑う。
「お前はただの“呪いの塊”だ。誰かの絶望を喰って、生き永らえてるだけの亡霊だ」
魔王の瞳が、紫に光る。
「ならば、その絶望の中で朽ちるがいい――!」
刹那、空間が歪んだ。
黒い魔方陣が城全体を覆い、圧倒的な魔力の奔流が爆ぜる。
雷鳴とともに、大地がひび割れた。
アレクは即座に剣を構えた。
黄金の光が剣身を包み、無数の聖句が宙を舞う。
「――《勇者の律》!」
光と闇がぶつかり合う。
天を裂く轟音。空気が焼け、風が悲鳴を上げた。
彼は魔王の胸を狙って突き進む――。
だが、その瞬間だった。
「……遅い」
耳元で、誰かが囁いた気がした。
気づいた時には、魔王の指先が彼の額に触れていた。
「《魂喰の呪詛》」
目に見えぬ鎖が、アレクの全身に絡みつく。
骨が軋み、内側から血が沸騰するような痛みが走った。
「ぐっ、ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
魂が、引きずり出されていく。
視界の端で、黄金の剣が崩れ落ちた。
心臓が潰れそうな圧迫感。
意識が黒く染まり――そして、世界が反転した。
魔王の声が、耳の奥に響く。
「お前の肉体は、美しい器だ。――これほどの力、我がものにせぬ手はない」
「やめろ……!」
アレクは叫んだ。
だが、声は喉の奥で霧散する。
自分の体が、誰かに握りつぶされるような感覚。
足の感覚が消え、腕が、自分のものでなくなっていく。
魔王の影が笑った。
「さあ、英雄。お前の“肉”は私が受け取る。お前の“魂”は――闇に堕ちよ」
刹那、全てが音を失った。
──視界が、闇に飲み込まれた。
プロローグで、ダメ出しを受けたので、直しました。




