ドラゴン牧場と門番ドラゴン
ドラゴン牧場シリーズ第一弾。
ここは、いくつもの世界と隣り合わせに存在する、不思議な地。
住人たちはこの場所を「狭間の世」と呼び、それぞれの世界の接点として慎ましく暮らしていた。
しかし、異なる世界を自由に行き来することはできない。
その道を許されるのは、“資格ある者”――ごく一部の特別な者たちのみだった。
狭間の世の片隅にある、小さなドラゴン牧場。
そこに暮らす15歳の少年、ガスタ。
数日前、父親が寝ぼけたドラゴンの吐いたブレスを浴びて大怪我を負い、今は町の病院に入院している。
以来、ガスタはひとりで牧場を切り盛りし、日々ドラゴンの世話をこなしながらわずかな収入で生計を立てていた。
ある日、そんな彼のもとに、久しぶりに見知った顔が訪れる。
「お久しぶりです、ガスタ君。お父上はおられますかな?」
現れたのは渡り人――世界を渡る資格を持つ行商人、ミルスだった。
「父は先日、大けがをして入院中です」
「それは……お気の毒に。では、あなたが牧場を?」
「はい。ひとりですが、なんとかやれています。ところで、そちらの方は?」
ガスタの視線の先には、どこか上品で堂々とした雰囲気を持つ人物がいた。
「ドラゴンを一体欲しいということで、お連れいたしました」
顧客は静かに口を開いた。
「財産を狙う悪党どもに困っておりましてな。
門番として、強くて恐れられるドラゴンが欲しいのです」
ガスタは牧場に彼を案内し、いくつかの候補を紹介した。
どれも温厚で知性があり、命令をきちんと理解できる番人向きのドラゴンたちだった。
だが、顧客の視線が止まったのは、ガスタが紹介していない一体のドラゴンだった。
それはたしかに力は群を抜いていたが、知性に難があり、指示も通じにくいため、販売候補から外していた個体だ。
「このドラゴンがいい。こいつをよこしてくれ」
「ですが、その子は……。扱いが難しく、番人には不向きかと……」
「賢さなどいらん。力さえあれば、悪党どもなど一捻りだ」
顧客の言葉に押し切られる形で、ガスタはしぶしぶながらもそのドラゴンを売ることにした。
ミルスは懐から籠を取り出すと、術を使ってドラゴンの身体を手のひらに収まるほどに小さくし、その中へ封じた。
顧客は満足げに牧場を後にした。
それから数日後、ミルスが再び牧場を訪れた。
「例のドラゴン、見事に役目を果たしましたよ。
悪党どもを見事に蹴散らしたそうです。……ただ、ちょっとした問題が」
「問題、ですか?」
「ええ。どうやら主人の顔を覚えていなかったらしく……。
門の前に座り込んで、誰であろうと近づけば即ブレス。
今や、屋敷には誰一人近寄れぬようになっていますが……。」
「……それは、それで困りますね」
困ったように笑うミルスに、ガスタも思わず苦笑いを返した。
お読みいただきありがとうございました。
シリーズ物にはなりますが一話完結で短編として描いていけたらなと思っています。
よかったらお付き合いください。
生成AIにて主題歌を作ってみました。
ランキングタグ欄にリンクを張っていますのでよかったら聞いてみてください。
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