特別な日
12月24日20時現在、僕は妹にクリスマスケーキを買いに渋谷のとあるケーキ屋に来た。店の中はクリスマスツリーやサンタの人形などが飾ってあった。ケーキの入っているショーケースの中を見てみるとクリスマス仕様のケーキなどがあった。これらのことから今日はクリスマスなのだと錯覚する。日本ではクリスマスというと恋人と一緒に過ごすというのが主流だ。しかし、そんなことをやっている人は今の時代、数少ないのではないだろうか。今の若者は恋人のいる割合が昔より減っている気がする。というか恋人がいない人のほうが多いだろう。つまり、恋人ではなく、家族や友達と過ごす割合の方が多いことになる。(僕の妹は例外だ。)そんなことを考えながら妹はショートケーキがいい、と言っていたので僕はショートケーキを買い、店を出た。外はイルミネーションがとても綺麗だった。カップルはぼちぼちいる。僕にとってはいつもと変わらない日である。ただ、ケーキを買うのはクリスマスと妹の誕生日くらいしかないので、今日は異常といえば異常だ。街のイルミネーションを眺めながら、家に帰ろうと思い、歩いていた。すると、前から知らない女性が急に話しかけて来た。
「あの!」彼女はそういうと上目遣いで僕を見てくる。彼女は僕よりも少し背が低い。髪はショートカットで帽子を被っている。服装は温かそうな服を着ている。僕は服のことは全然わからないのでそれくらいのことしか理解できなかった。手袋までしている。温かそうだ。
「どうしました?」僕は戸惑いながら彼女に言った。
「俳優の方ですよね?」
「え?」彼女が何を言っているのか僕にはさっぱりわからなかった。
「プライベートですよね?話かけて申し訳ないです!けど、本当に好きなんです!」
「あの、」
「はい!」
「僕は俳優ではないです。ただの一般人ですよ」そう、僕はただの一般人だ。彼女の勘違いである。
「えっ!そうなんですか?とてもその俳優さんに似ていたので、申し訳ございません」
「そんなに似てます?」
「似てます!とてもカッコいいです!」
「似ているともカッコいいとも言われたことはないんですけど」これは事実である。
「本当ですか?私は好きですよ!」
「顔がですか?」
「いいえ、全部です!」
「全部?今、会ったばかりなんですよ」僕は少し笑ってしまった。
「あっ!ケーキ買ったんですね!」彼女は突然、話題を変えた。
「そうですね、妹のですけど」
「えー!優しい!妹さん喜びますね!」
「そうかもしれないですね」彼女はすごくテンションが高かった。人生でこんなにもテンションが高い人は僕が知るなかではいない。なかなか出会うことのない伝説のポケモンのようだ。
「あっ!ごめんなさい!妹さんに早くケーキ渡したいですよね?」
「そうですね。けど、今日は妹が彼氏の家にいるんですよ。なので、ケーキを渡すのは明日か明後日ですね」
「妹さんは彼氏いるんですね!」
「そうなんです」妹は僕とは正反対の人生を歩んでいる。
「えっと、お兄様は彼女いますか?」
「お兄様?」アニメでしかそんなセリフを聞いたことがなかった。
「ごめんなさい!お名前がわからなくて」
「名前は薫です。彼女はいないです」事実を言った。
「えっ!いないんですか?」
「そうです。いないのが普通ですよね?」
「そうなんですか?」彼女は不思議そうな顔をしている。
「最近の若者は恋愛なんかしないでしょう?」
「最近の若者って、薫さんも若者ですよね?」彼女は笑いながら言う。確かにそうである。
「そうですね。あなたには彼氏がいるのですか?」僕は彼女には彼氏がいると予想をする。
「それがいないんです!」彼女は誇らしげに言った。僕の予想は外れる。
「本当にいないのですか?」
「本当にいないです!悲しくなってきました」彼女は下を向いた。
「僕はもう家に帰ります」僕は寒かったので早く家に帰りたいと思っていた。そのため、彼女には申し訳ないが帰ることにする。僕は彼女の横を通り、歩いた。
「あの!」後ろから大声で言われた。
「はい?」僕は振り向く。
「私の誕生日、祝ってくれませんか?」彼女は恥ずかしそうに言った。
「今日が誕生日なんですか?」
「そうなんです!友達はみんな、彼氏がいて私は一人なんです」そして、彼女は下を向く。かわいそうであった。
「わかりました。祝いましょう」
「本当ですか?」
「お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「では」僕は家に帰ろうとする。
「あの!」
「はい?」また、呼び止められた。
「うちに来てくれませんか?」
「どうしてです?」
「すぐ近くなんです!」理由にはなっていなかった。
「出会ったばかりなので、申し訳ないけどそれは無理かな」僕は当然のことを言う。
「えっ」すると、彼女は泣きだした。周りにいる人たちはこちらを向く。これはまずいと思った。
「わかりました。行きましょう」本当にいいのだろうかと思ったが、泣かれる方がまずいだろう。
「本当ですか?うれしいです!」彼女は嬉しそうに飛び跳ねた。うれしくて飛び跳ねるなんて、これは現実か?まさか実際にそんなことをする人がいたなんて。僕は驚く。
その後、彼女のあとを僕は黙ってついて行った。
「ここです!」彼女は指を指していう。彼女はマンションに住んでいるらしい。彼女は一人暮らしのようだ。彼女の家の中はとてもきれいであった。リビングにはクリスマスツリーやクリスマス仕様の飾り付けがされていた。一人で作ったのだろうか。
「この飾りを全て一人で作ったのですか?」
「そうなんです!」彼女は胸を張って言う。
「すごいですね」
「ありがとうございます!私、クリスマスが好きなんです!」彼女は目を見開いて言った。
「どうしてですか?」
「だって、年に一回しかないですし、それにこの時期はイルミネーションとかがとても綺麗です!」彼女はすごく楽しそうに言った。
「それが楽しいのですか?」
「あと、恋人もいればもっと楽しいと思うんです」彼女の声は段々と小さくなっていった。彼女も街のイルミネーションや自分の家にクリスマスツリーを飾り、今日がクリスマスだという錯覚に陥っている。やはり、人間の想像力は恐ろしい。この話題はやめようと思った。彼女も辛いだろう。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」名前を知らなかったので聞いてみた。
「はい!琴音といいます!」彼女は元気になった。この人の情緒はどうなっているのだろうか。
「そこのソファに座ってください!」僕はそのソファに座った。ソファにはサンタのぬいぐるみが置いてあった。「あ!コーヒーでも飲みますか?」彼女は思いついたように言いながら、インスタントコーヒーを作る準備をしだした。僕は外が寒かったので頂こうと思った。
「ありがとうございます」目の前の机にコーヒーが置かれた。「もしよければ、このケーキを差し上げますけどいります?」僕は妹のケーキをあげようと思った。
「けどそれ、妹さんのためのケーキですよね?」彼女は僕の隣に座りながら言った。
「妹の分は後でまた買います。これは僕からの誕生日プレゼントです」
「えっ!いいんですか?」
「もちろんです」
「うれしい!ありがとうございます!」ケーキの箱を彼女にあげた。
その後、僕たちはコーヒーを飲みながら他愛もない話を話した。琴音さんは僕のあげたケーキを美味しいと言って食べていた。すると、琴音さんは僕の肩に頭を乗っけてきた。僕はびっくりして、体温が上昇する。
「私、薫さんのことが好きになりました。付き合ってくれませんか?」琴音さんは至近距離で僕の顔を見て言った。
「今日出会ったばかりですよ?」
「はい!運命的な何かを感じたんです!」彼女の顔は真剣であった。
「友達からではいけませんか?」僕も彼女のことが嫌いなわけではない。
「友達からでも構いません!それでも、何があっても私の気持ちは変わることはないと思います!」彼女の真剣な表情は変わらず、真っ直ぐと僕の目を見て言った。
「わかりました」僕も彼女の目を見て答える。
ということで、この日から彼女と頻繁に会うようになり、一年後には結婚をした。結婚記念日は12月24日でクリスマスイブだ。そして、僕たちが初めて出会った日でもある。そして、そのまた一年後には僕の妻が第一子を出産した。女の子だ。名前は鈴音である。生まれたのは12月25日であった。つまり、クリスマスの日に生まれたのだ。
それから6年後の12月24日。
「今日はママとパパの結婚記念日なんだよ~」琴音は僕の肩に頭を乗せてきた。
「わかってるよ。ママ」鈴音は呆れた表情をしている。
「サンタさんに何か欲しいものお願いした?」琴音は鈴音に手招きをしながら言った。
「欲しいものはヘアゴム!」鈴音は僕と琴音の座っているソファに来て、僕と琴音の膝の上に乗った。
「それって、どんなやつだ?」僕は鈴音が欲しいヘアゴムがわからなかった。
「じゃあ、これからみんなで一緒に買い物に行きましょ!」琴音は僕の顔を見て笑っていた。僕たちはクリスマスの夜に家族3人で外出した。外はイルミネーションが綺麗だった。
「クリスマスも悪くないな」僕は独り言を言った。
The end.