五話 復讐の女剣士2
「ん、っ…………」
混濁した意識から戻って来たファルンは改めて周りを見渡す。
「起きたぴょん」
「おう」
状況が上手く掴めない。なにがどうなっているのかわからず、意識を手放そうとする。
「床じゃ痛いよな。こことことで、っと……」
首筋と膝の辺りに手が滑りこんでいく。ヨイヤミがお姫様抱っこをしようとしていることに気づいたファルンは暴れ出した。
「触るな! 不埒もの、変態、節操なし!」
暴れたせいで逆に目が覚めたファルン。立ち上がると近くの椅子へ座った。
「はぁ……。私は、なんでここにいるんだ?」
ヨイヤミもまた椅子に座る。図らずとも向かい合わせになってしまったが、ファルンにはどうでもいいことだった。
「私は、闇を追って、それで、ここに……」
ぼんやりとした記憶が鮮明に思い出されると同時に、ファルンはヨイヤミの胸倉を掴んで床に叩きつけていた。
「貴様か! 私の村を、リネールを滅ぼした闇は!? 答えろ!」
「まっ、て。何のことだよ!?」
「黙れ!」
ヨイヤミの頬に鋭い痛みが――
走らなかった。間一髪でヨイヤミがファルンの拳を避けたからだ。
「レイル! こいつ抑えとけ!」
「わ、わかった!」
レイルはファルンにタックルをかまして床に押さえつけた。
「ぐっ、離せ! そいつは闇だ! 私の故郷を滅ぼした敵なんだっ!」
なおもジタバタ暴れるファルン。ヨイヤミは仕方なく刀の切っ先をファルンに向ける。
「これで大人しくしてくれよ、な?」
「…………」
ファルンは諦めたのか、抵抗をやめた。
「飲み物も何もなくてごめんな。帰って寝たばかりだったから」
ヨイヤミがそう言って椅子に座るとレイルはとなりの椅子に座った。ファルンはまだ疑いの目を見せていたが、ヨイヤミの向かいの椅子に座った。
「何なんだ。お前は」
「レイルにも言われた気がするな」
「そんなことはどうでもいい!」
ヨイヤミの言葉を潰してファルンのペースに引き込ませた。
「なぜ私が襲って来たのがわかった」
「いや、なんでって……うん。なんでだ?」
「貴様ッ!」
「落ち着けぴょん。お前が怒り過ぎて話にならないぴょん」
レイルがファルンをなだめたが、ものすごい殺気で睨まれたレイルは大人しくなった。
「私はファルン。レウシア大国での呼び名だが、気にせず呼んでくれて構わない」
「レウシア大国での呼び名?」
「レウシアは獣人の国ぴょん。人間が使う言語とは別の言葉で話している時代があったから、その時の名残ぴょん」
ヨイヤミは意外と頭のいいレイルに驚きながらも、ファルンに尋ねる。
「闇だとか、色々わからないことだらけだ。俺達の情報も教えるからファルンの情報も教えてくれ」
「……誰が貴様なんかに」
「その言い方はねぇだろ?」
「なに?」
一触即発の空気を感じたレイルは慌てて二人を止めた。
「そこまでにするぴょん」
「……私は――」
ファルンは自分が置かれている状況を全て話してくれた。故郷が闇によって滅んだこと。身寄りがなくなった自分が行き付いたのがレウシア大国だったこと。
闇を殺すためにハイネストへやって来たということを。
「俺達は――」
ヨイヤミはファルンに習って状況を話した。勇者パーティーに捨てられ、クエストを受けた森に偶然レイルがいたこと。大金を手に入れて家を買ったこと。
ファルンは苛立ちを隠しながら話を聞いていたが、ヨイヤミが話し終えるとすぐに質問してきた。
「ギルド長から話は聞いた。ヨイヤミ。お前が闇を継ぐ者だということを。違うのか?」
「……初めて聞いた」
「そうか。なら、私にお前達と敵対する理由はないな」
ファルンは立ち上がると家を物色し始めた。
「おいおいおいおい!」
「何もないのになにしてるぴょん!?」
「私もここに住もうと思う。どれくらいお金があるのか知らないが、必要最低限の物は揃えておかなければ」
ああ、そうだ。起きたら何をするか考えていなかったから助かった。ファルンは家全体を見て回ると、ヨイヤミ達の首根っこを掴んだ。
「な、なにを……っ!」
「まさか……疲れたのにっ!?」
「買い物だ。行くぞ」
ズルズルと引きずられていくヨイヤミとレイル。二人はファルンと一緒に買い物をすることになった。