二十二話 襲撃
その日、ハイネストに最大の危機が訪れていた。
悪魔が現れたというのだから。
腰を沈ませ、爪を光らせる。獰猛な目は人も物も等しく壊さんと狙う。
「オオオオオオッ!!」
吠える。地を蹴った悪魔は、流れるように人間を殺した。
「何が起こっている……?」
騒ぎを聞きつけたファルンが外に出る。建物は壊れ、死体が散乱している。
あの時と同じ。ファルンは唇を噛み締めていた。
煙の中に影が見える。影は死体を踏み越え、姿を見せた。
「…………」
悪魔。
モーゴが打った刀を鞘から引き抜いて構える。
「…………」
精神を研ぎ澄まし、目を開く。
「…………ごふっ」
ファルンは瓦礫の中で血を吐いていた。視界が安定しない。刀はどこだ? 考えが、まとまらない。
「強き者は、何処にいる」
悪魔が唸る。
「飢えを満たす強者は、何処にいる……!」
大地が震える。念動力で大きな瓦礫が持ち上がる。
「戦ええええええッ!!!!」
瓦礫がファルンの体を押しつぶした。
ファルンが目を開くと、男に抱えられていた。
「……お前……は」
「ハイネストの守護神、鎌野英雄」
英雄はファルンをゆっくり降ろすと、悪魔に向き合う。
「俺はお前を倒す! 変……身ッ!」
英雄の体が変わり、戦士となる。
「変身完了、ファースト・ワン」
「来い」
「ッ……!」
英雄は左足を下げ、飛び上がる。
「スクリューキック!」
回転を利用した蹴りを食らわせる。
悪魔は英雄の足を掴んで振り回す。壁に叩きつけられた英雄は一瞬動けなくなる。
悪魔の咆哮が戦場を広げ、手を交差させると先端が赤い爪が生えた。
「グオオオオ……!」
飛び掛かる。英雄は爪を紙一重でかわして殴る。
避けきれなかった爪の一撃が体を襲う。
「ぐっ! いってぇ…………」
大したダメージじゃない。
英雄は右手に力を込める。体制を低くし、爪を警戒する。
「オオオオオオ!」
英雄の喉元を狙う悪魔。がら空きの体を狙う一撃。
「スーパーパンチ!」
ストレートをかます。悪魔の体が怯む。だが
「ぐああああああああっ!!」
胸の辺りを裂かれた。
倒れ込む英雄に対して、悪魔は何事もなかったように着地。
英雄を一瞥すると、ファルンへ歩みを進める。
「ぐっ、あ…………」
首を締められる。ファルンは悪魔の手を引き離そうとするも、力に負ける。
視界が明暗を繰り返す。息が出来ない。
「……れい、る……」
突如、悪魔はファルンを投げ捨てる。
頭を叩きつけられたファルンが見たのは、魔法弾を放つヨイトの姿だった。
「何だお前は、ぐうっ……!」
ヨイトは何が起きたのかわからず、目線を下にする。
腹に穴が開いていた。
「――――」
ヨイトが倒れる。
悪魔は冒険者の軍団の気配を感じて振り向く。
一歩進む。
冒険者が下がる。
また進む。
また下がる。
「ここに、強い者は居ないか……」
落胆は一瞬。すぐに悪魔の魔力が高ぶる。
冒険者が動けなくなる。
悪魔は口を開き、尻尾を地面に刺す。
赤と青の線が輝く。力が、満ちる。
目が紫に輝くと同時、咆哮を上げる。
魔力を、冒険者に打ち込んだ。
凄まじい魔力の奔流が冒険者を飲み込まんと襲う。
逃げようとする者、盾にしようとする者。全て無意味。
あらゆる障害を消し飛ばす一撃。
その奔流に飲まれた人も建物も、無に帰す。
ハイネストの一部が元から何もなかったかのように消失した。
「…………」
悪魔はゲートへ入ると姿を消した。
その日、ハイネストは悪魔によって崩壊した。




