十八話 決闘3
「おおーっ……?」
机の上にあるのはお皿に乗ったリンゴ一個。お昼を食べたから豪勢な料理は断ろうと思っていたけど、これは……。
「食材が切れてて、これしか出せるものがなかったのじゃ。食べれるか?」
「切らないんですか、これ」
「切る? わしらは丸かじりじゃが?」
丸かじり……!?
まあ、そうだよな。吸血族だという理由で妙に納得した。
「人間に習ってやろう」
ヴァンパさんがそう言って指パッチンをすると、血のナイフがリンゴを六等分に切る。芯も取り、皮もむいた状態にしてくれた。自分達のもそうすると席に座る。
「あーむっ。うまいなー! 人間の作る食べ物は全て美味じゃ」
ヴァンパさんを眺めているイアさんも同じように一口。目が輝いている。イアさんは食べたことないのか。
「座れ」
ヴァンパさんの言う通りに座る。ヴァンパさんは二個目のリンゴを口に放って俺に話す。
「ふぉふぁえははずたひゃかいなれひとりゃんな」
「なんだって?」
リンゴをかじる音が邪魔して聞こえなかった。ヴァンパさんはリンゴを飲み込むと同じことを言った。
「お前はまず戦い慣れしとらんな」
ヴァンパさんは俺にアドバイスをくれた。
自分の力を過信しないこと。ノリに乗ってもいいけど乗り過ぎないこと。相手と自分の力を理解した上で仲間を頼ること。
「以上三点。わしから言えることはこれだけじゃ」
「質問、いいですか」
「なんじゃ」
お皿に映る顔を見ながら話す。
「俺、急に力が使えるようになったんです。エルフの里でモンスター退治した時から急に…………」
「それで」
「なんでだろうって。勇者パーティーにいた時には使えなかったのに」
ヴァンパさんは考えると残ったリンゴを俺のお皿に移して言った。
「足りないピースがはまったんじゃな」
「足りない、ピース」
ヴァンパさんはイアさんのリンゴを奪って続ける。
「ボロ雑巾にされて劣等感を感じていたんじゃろ。だから思うような力が出なかった。だが人間、必要に迫られる時が必ずある。それがシェルの時じゃった。というわけか」
じゃあ、なんなんだ。今までの頑張りが茶番みたいだろ。
「強くなれると思って頑張って来たのが、無駄だったのか……」
「無駄などないぞ」
イアさんに無理矢理顔を上げられる。俺の顔を押さえながらイアさんは言う。
「我も最初は劣等感を持っていた。だが、妹に諭されてから考えを改めた。吸血族の誇りを胸に抱くことが、我らの使命だとな」
「誇りを、胸に…………」
「お前も胸を張って生きろ、ヨイヤミ。勇者どもを見返すくらいの力を振るえ。勇者を打ちのめすくらいの大きな態度を取れ。そして、どんな困難にも負けない強い意志を持て」
気が、だいぶ楽になった。思い悩む必要がないとまではいかないが、それでも。
「ありがとうございました」
「うむ!」
「もう離さんか。頬が細くなる」
イアさんの両手が離れた。ほっぺがちょっと痛いけど、自分の覚悟に比べたらどうってことない。
強い意志で、歩んで行こう。
辺りはすっかり暗くなっていた。
家に帰るとレイルとファルンがベッドで寝ていた。ヨイトの姿が見えないけど、まあいいや。
「おい」
家の中に声を響かせる。風呂場まで行きドアの前に立って一言物申す。
「人ん家のお風呂を勝手に使うな」
だいぶ勇気を振り絞った最初の言葉だった。顔を覗かせたのはきれいな女性。
待てよ? この顔……。
「許可は取ったの。お帰りなさい、ヨイヤミくん」
キレイでいて怖い笑みが向けられる。
お風呂に入っていたのは、マレインさんだった。




