十四話 エルフの里
「帰って来いとさ」
「親が顔を見たくなったのか?」
「そうだといいんだけど」
ヨイトはファルンにエルフの里へ帰ることを伝えていた。どうせすぐに出ていくことはわかっているが、顔を一目見たいのなら見せたい。
始めはヨイト一人で行くつもりがファルンがどうせなら全員で行こうと言ったため、全員で出向くことになった。だが、俺だけはそれでも行こうかどうか迷っていた。
ファルンとレイルに無言の圧をかけられた俺は素直に従った。
「ようやく帰ったかヨイト」
「久しぶり、父さん」
俺達はヨイトの父、カイルズが住む家を訪ねた。親子の再開は抱き着くものばかりではない。このような淡白な再開もあるのだ。
適当に座る。レイルは物色するように中を見渡しているが、行儀が悪いとファルンに止められた。
「お前は何も知らないから外へ出してみれば……。女を連れて来たとは」
「誤解だよ。彼の仲間になったんだ」
「じゃあ第二王子の肩書は捨てたのか?」
「捨ててないよ。誇りに思っている。彼らには信じてもらえてないけど」
カイルズの誤解を解くように話を進めるヨイト。話術が巧みなわけだ。
レイルは出されたお菓子を食べつくして床にゴロンと転がっていた。ファルンにひっぱたかれる。
「吐きそうになった」
「行儀が悪い。ちゃんとしろ」
「いやぴょん。絶対に寝てやる」
「……寝るならベッドで寝ろ」
蚊帳の外の俺は飲み物に映る自分の顔を見ていた。レンガさんの言葉が頭を埋め尽くしている。自分がどういう存在か、自分でまだわかっていないから。
ノックもチャイムもなしに突然開いたドアに、一同の視線が釘付けになる。
「…………いたのか」
声の正体はシェルさん。
「ただいま、母さん」
ヨイトがシェルさんにそう言った。シェルさんはヨイトの母親だった。
シェルさんは俺の姿を目にすると、闇による被害があった場所へ案内する。俺はその場所をレイルと出会った場所として覚えていた。
「ここでレイルと出会ったんです」
「…………」
無言のシェルさん。
「レッサードラゴン討伐のクエストでこうなったんですよね。俺がやったわけじゃないと思うんですけど……」
「…………」
シェルさんはずっと黙っている。俺はセクハラにならないように気を付けながら体をそっと触る。
ビクッと反応したシェルさん。俺が触ったことを理解すると、何とも言えない表情で睨んできた。
「あの、俺の話……」
「聞いていなかった」
「ああ……」
飄々としているというか……何というか。マイペースな人物だということは理解できた。
「シェルさんは、あの会議……どうして出て」
「私以外に直接被害に遭った場所はない。出る必要のない会議だけど、会いたいって人がいるから」
そう話すと上着のフードを被ってそっぽを向く。俺はもう少し話を聞きたくて回り込んだが、顔を見てくれない。
「恥ずかしいですか?」
失礼だと思うが尋ねる。数秒の沈黙の後、顔を真っ赤にしたシェルさんが本当に小さく頷いた。
近くの岩に背中合わせに座る。どうもシェルさんは人の目を見ることが苦手なようだ。
「ヨイトの様子は……」
「え、あ、はい。よくレイルやファルンをからかってますけど、いい人だなーって」
「そうか……。ありがとう、面倒を見てくれて」
柔らかい声。お母さんだと実感した。
「じゃあ、シェルさんは――」
風が強くなった。
「……森が、呼んでいる。助けを、求めている」
シェルさんは岩を降りて森の奥へと駆け出していく。俺も慌てて後を追いかけた。




