十三話 会議開幕
「失礼しまーす……」
中に入ったのはいいものの、誰もいなかった。
「……」
適当な席に座って部屋を眺める。
豪勢な飾りのような類いは一切なく、ただ会議のために用意された部屋といった感じだ。
静かな空間に足音が聞こえた。振り返ると、赤いふかふかしたマントを羽織り、王冠を頭につけ、杖をついた年老いた男がこっちにやって来た。
「……おおう、君か。確か……」
「ヨイヤミです」
「ああ、立たんでよい。座っておれ」
年老いた男が部屋の中で一番豪華な椅子に腰を下ろす。
「ワシはハイネストの国王レンガ。おじいさんでもジジイとでも呼んどくれ。まあ、名前で呼ばれれば嬉しいんじゃがな」
ほっほっほと笑いながら入口を見るレンガさん。未だ誰か現れる様子もない。レンガは杖に力を込める。すると、机に二人分のお茶とお菓子が出てきた。
「ゆっくり待つとしようかの」
そう言ってお茶を飲むレンガさん。俺はクッキーに手をつける。
「…………」
美味しい。ふんわりとした食感。口にバターの香りと生地の柔らかさが広がり、一口噛むごとに程よく混ざっていく。
他のはどうだろうかと手を伸ばす。と――
「先客か?」
「そうじゃ。お前さんも座るか。えーと、名前は……」
「シェル」
シェルと名乗ったエルフはレンガの右斜めの席に座った。俺をじっと見つめるも、興味がないのかそっぽを向いた。
「もう三人座ってるぞ~。珍しいな~」
「ふわああ……まだ寝ていたかったのじゃ」
「ふふっ……」
ドワーフ族、吸血族、マーメイド族の代表が現れた。好きな席に座り、レンガさんによって出されたお茶とお菓子を飲み食いしている。
俺は疎外感を感じていた。だって、知らない場所に放り出されるのがこんなに怖いと思わなかったから。
「シェル。あの子に話しかけてみない?」
「いや、私は……」
「だから友達が少ないの。勇気出して」
俺が視線を感じて顔を上げると、シェルさんが目をギラギラさせて見つめていた。怖くなった俺は顔を下げた。
「ごめんなさい。シェルはいつもあんな感じなの」
「あなたは?」
人魚のような美しい女性はマレインと名乗った。シェルさんとは古くからの友人であり、シェルさんが唯一話せる相手だそう。
「すまん。遅刻したか?」
現れたのはライオンのような毛並みと重圧感を持った大男。彼が獣人族代表のようだ。
「いや、これで全員かな。では、始めるぞ」
レンガさんの言葉で入口の重厚な扉が閉まる。
「緊急の会議で申し訳ない。どうしても話す必要がある内容のために、彼にも同席してもらうことになった」
その場の全員が俺に視線を向けた。緊張しているのが伝わったのか、レンガさんの目線が少し柔らかくなる。俺は大きな声で名乗る。
「ヨイヤミです。よろしくお願いします」
礼も忘れない。だが、誰も礼を返さず話が進む。
「闇が蘇った。これについて各々情報を知っている者がいれば、この場で意見してもらいたい」
「俺は特にないな」
獣人族の男が意見を述べる。どうやら名前はゴーメットというそうだ。
「わしもないぞー」
「おらも」
「こっちもないわ」
ヴァンパ、モーゴ、マレインも同じようだ。……あれ? なんで名前がわかるんだ?
「私は知っているぞ」
俺の疑問はシェルさんの言葉によって霧散した。
「エルフの里付近に被害が出ていた。木々は倒され、湖は消え、忌々しい竜の血がこびりついていた。あの威力は闇でなければ出ない」
その意見に皆考え込む。が、ゴーメットさんが異議を唱える。
「闇は百年前に滅んだ。お前さんの言うことに間違いはないと思うが、本当か?」
「私自ら被害を確認したんだ、間違いない」
ゴーメットさんは納得したのかそれ以上追及しなかった。俺は彼らが何を話しているのかよくわからなかった。闇なんてまず知らない。だから意見のしようもなかった。
「情報がこれだけなら、話し合いも終わりじゃな」
「おらはお腹減ったし、新しい道具作りたいからな~。帰りたいぞ~」
「今日は解散でいいか?」
「ワシも疲れた。今日は解散にしよう」
席を立ち帰って行く彼らを、俺はただ眺めるだけだった。
「いつもこんな感じだよ。場所だけがしっかりしている」
「は、はあ……」
意外にもあっさり終わった。意外というか、こんなに緩くていいのかというのが正直な感想だった。レンガさんは杖に力を込めると、お茶とお菓子を机から消した。
俺はどうしていいかわからず席も立てなかった。そんな俺の近くにレンガさんがやって来た。
「おぬしはどうやら、歪な存在だな。ゲームで例えると……あれか。ラスボスと主人公が一緒になっている存在、かのう」
首を傾げた。ラスボスと主人公が一緒なんて言われてもよくわからない。詳しい理由を聞こうとしたが、レンガさんはそのまま奥へ行ってしまったため、話を聞くことは叶わなかった。
だから俺も帰ることにした。
「お疲れ様です。ヨイヤミ様」
出迎えたのは案内してくれた女性。帰りも付き合ってくれるみたいだ。
「ヨイヤミ様に伝えたいことがあると仰っていたのですが、自分では伝えられないと、あのようなことを計画したのです。皆様には大変苦労をおかけしてしまいました」
俺はそんな話を聞ける状態じゃなかった。
ラスボスと主人公が一緒。つまり、敵であり味方ということになる。理解出来ない。
「案内はお任せを。またお呼びするかもしれませんので、よろしくお願いいたします」
見送られながらエルフの里を後にした。家へ帰ることは、何故か億劫に感じた。




