十一話 装鬼決戦
大橋はたくさんの冒険者で埋め尽くされていた。勝てるわけがないと戦意を喪失している者もいれば、英雄になると意気込む者など、とにかく寄せ集めたと言っても差し支えなかった。
ヨイトはラッカルに説明を受けており、まだ眠そうなレイルはファルンが無理矢理起こしている。
「兎、装備は後で整えよう」
「んー……」
ヨイトが戻ったと同時、大橋の最前線から大声が上がる。
「装鬼が来たぞぉーーーー!」
ざわめきが広がり、冒険者一同は各々の武器を構えた。
装鬼は全身が赤く染まっており、血だと分かるのに数秒の時間を要した。瞬間――
「ごぶぇ……?」
声にならない困惑を上げたのは、最前列で装鬼が来たと言った屈強な男。一瞬の内に五等分に切り裂かれ、ぐちゃりと音を立てて命を散らした。
次の標的は隣の男。声を出そうとした瞬間に喉を裂かれた。
「ごぶょぉ……ぐ、ええええ…………?」
血が飛び散り、冒険者達の体を染めた。
「きゃああああああああ!」
「うわああああああああ!」
悲鳴を上げ、一目散に逃げていく冒険者達。絶好の獲物を追わず、装鬼の目に映るのはファルン達三人だけになった。男の死体を踏み越えた装鬼は雄たけびを挙げる。
「オオオオオオッ!!」
威圧感に体が怯み、レイルの体は震えていた。ファルンもヨイトも奥歯を噛みしめて震えをごまかす。
「…………」
精神を落ち着かせたファルンは刀を引き抜き、装鬼と相対する。
「装鬼。貴様の目的は闇だろう?」
「黙レ。オマエニ用ハナイ」
装鬼は全身に力を溜めて数メートルの距離を一瞬にして縮める。振るわれた爪の斬撃を受け流した刀が装鬼を捉えたものの、歪んだ空間に邪魔された。
「障壁の類か……!」
「グオオオオッ!」
装鬼の猛攻がファルンを襲う。受け止め、弾き、斬り返すも、全ての動きが読まれているように感じる。攻撃が当たらない。
「くっ!」
喉を裂く一撃を逸らしたファルン。前転で背中に回り装鬼と距離を取る。
「…………」
刀を鞘にしまう。息を吐き、体の力を徐々に抜く。風に乗るように、自然に溶け込むように。
「神仙」
ファルンの体が一瞬にして消える。装鬼は見渡すが、存在を感知出来ていない。ファルンは殺気を放ち装鬼を大橋の外へ誘導する。装鬼の姿は消え、残ったのはレイルとヨイトの二人になった。
「僕達も追いかけよう」
「…………」
「レイル嬢?」
「わ、わかった……ぴょん」
ヨイトに手を引かれファルンを追いかけるレイル。顔には、不安が現れていた。
斬撃を飛ばす。装鬼には当たらず、死体の一部を斬り裂いた。ファルンと装鬼は大橋から離れた住宅街で戦っていた。
この惨劇を見るに、住民も冒険者も全員死んでいる。血生臭い匂いには慣れているファルンでさえも目を覆いたくなるほどの地獄。だが、これ以上の被害が広がらない絶好の場所。
「貴様はここで倒す。闇は私が殺す!」
ヨイト。短い間なのに私のことを譲と呼んでくれて感謝している。
レイル。小さいのによく頑張っている。お前がいれば大丈夫だ。
ヨイヤミ。お前は必ず殺す。ただ、闇ではないと信じていたのにな……。
ファルンは三人に言葉を残す。仲間の元へ行けるのなら、どうなってもいい。ここで私の人生を終わりに出来るなら、それで――
「ファルーーーーン!!」
「兎!?」
ハンマーの一撃が地面を抉る。装鬼の着地点に魔法陣が広がると、火、水、風、雷が包み込んだ。
「グウウウウウウッ!?」
「大丈夫か、ファルン嬢!」
「エルフ!? どうして!」
驚愕するファルン。その答えは、眼前に示されていた。
「柊人はいないけど……!」
「私達がいます」
「アンタなんかに負けない。ハイネストはあたし達が守るから!」
小峰、蓮、帆乃香の三人が並び立っていた。
「ファルンさん……ありがとうございます。時間稼ぎをしてくれて」
蓮がファルンに回復魔法を施す。傷が塞がったファルンは揃った全員に礼を言う。
「ありがとう……」
「ファルンが礼を言うのは珍しいぴょん」
「ふっ、こんな運命もあるのだな」
二人の軽口に頬が緩む。死ねなくなった。闇を殺すのに、まだ生きていなければいけない理由が出来てしまったようだ。
「数ヲ揃エテモ無駄ダ。タッタ六人デ何ガ出来ル?」
「六人じゃないぜ!」
突如聞こえた男の声。「とおっ!」という掛け声と共に、ファルン達の背を飛び越えて現れた。
「俺はハイネストの平和を守る守護神。鎌野英雄!」
英雄はジャケットを脱ぎ捨てる。
「ハイネストの平和を乱す装鬼! お前に報いを受けてもらう!」
英雄は右腕を斜めに構えてゆっくり回す。腕が真上まで行った瞬間、左腕と右腕を交差させ、自らのスキルを叫ぶ。
「変身!」
交差させた両腕を正面に振り下ろす。
英雄の姿が変わっていき、騎士を思わせながらもスタイルのいい格好をした戦士へと変わる。
「変身完了、ファースト・ワン!」
「……オオオオオオオオ!!」
装鬼の咆哮が刃となり家々を砕き死体を吹き飛ばす。広がった戦場で英雄は叫ぶ。
「行くぞォ!」
「草木よ、奴の動きを封じろ!」
「エクスプロージョン!」
ヨイトが動きを止め、帆乃香の魔法が炸裂する。爆風の中から飛び掛かる装鬼をファルンの刀が受け止める。
「ぐっ……!」
はじき返されそうになる体を支えたのは小峰と英雄。英雄が躍り出てパンチやキックをかます。小峰もスキルを発動させて、猛攻に加わる。
「ぐああああああああっ!」
スキル『バーサーカー』。自身の身体能力を限界まで強化する危険なスキルの一つ。普通であれば周りの被害も顧みず暴れる狂戦士となるが、小峰は扱いに長けているため、一回り強い力を発揮できる。
「オラアッ!」
英雄のパンチが装鬼の腹に決まり動きを鈍らせる。続くように小峰の蹴りが顔面に入る。
「ああッ!!」
小峰の細い足に力が宿り、装鬼の顔面にヒビを入れていく。だがーー
「ゴガアアアアッ!」
装鬼は小峰の足を掴んで振り回し、英雄を巻き込んで空中へ吹き飛ばす。飛び上がり重い一撃を叩き込む。
小峰の腹に装鬼の足がめり込み、地面に叩きつけられた小峰は動かなくなった。
「小峰! 破壊の化身よ!」
帆乃香の杖に紫の魔力が溜まる。隙だらけの体を装鬼の鋭い尾が貫かんと狙い定めた。
「させない!」
蓮が防御壁を五重に展開。迫る尾を防ぐ盾となる。
「消エロオオオオオオオオッ!!」
「させるか、ってんだッ!」
英雄が身を挺して尾を受け止めた。ドリルのように回転している尾は英雄の両手から火花を散らす。
「ぐっ、うう……!」
壁の一枚が破れ、蓮の額から汗がにじむ。ヨイトは溜めていた魔力を解放。光と闇の弾をありったけ装鬼に食らわせる。
だが、装鬼は防御せずに尾に力を込める。英雄の体を持ち上げ、残りの壁を全てぶち抜いて蓮に英雄の体をぶつけた。重なり合って倒れた二人に攻撃を仕掛けんと獣のように地を這う装鬼。
ファルンの刀が装鬼の首を斬らんと迫る。刀をかわした装鬼の体が浮き上がったと同時、レイルが渾身の一撃を背に放つ。ファルンは刀の向きをすぐさま変え、装鬼の腹を一閃。地中から現れたゴーレムの巨大な手が装鬼を掴み投げ飛ばした。
地が抉れ、家を二件突き抜けて止まる。
「…………」
三人は並んで装鬼の行動を注視していたが、ファルンが何かに気づく。
「尻尾が増えている……!」
一つだった尻尾が二本になっていた。装鬼は攻撃など無意味というように叫ぶ。未だ動かない帆乃香に狙いを定め一歩踏み出した瞬間――
「我が魔力の全てを賭けて、万物を消し去らん。〈終末の一撃〉」
帆乃香の杖が眩い輝きを放つと、背後に巨大な魔神が姿を見せた。
魔神は装鬼に目を向け手をかざす。巨大な魔力の奔流、極太のビームが装鬼を襲った。帆乃香の帽子が爆風で吹き飛びファルンでさえも腕で目を覆う中、装鬼は全身を焼く痛みに苦しみながらも地に足をつけていた。
「邪魔ダアアアアアアアアッ!!」
叫ぶ装鬼。すると、周囲に魔力で作られた紫の糸が現れファルン達を狙い襲う。
ヨイト、帆乃香、レイルが捕まり動きを封じられた。ファルンは糸を斬ろうとするもするりと通り抜けて斬れない。ファルンも動けなくなった。
「ぐっ……!」
「グ、ウッ……! オオオオオオッ!」
装鬼が苦しんだと思うと、両腕から棘が生えてきた。前かがみの姿勢を取り、棘をミサイルとして発射する。
動けない四人に直撃する。ファルンは唯一目を覚ましたが、他の三人の姿は酷い有様だった。ファルンも足をやられ立ち上がれず、利き手にも力が入らない。
(ここで、終わるのか……?)
ファルンが折れかけた、その時。
「俺はここにいるぞ」
背後から声が聞こえた。振り向くファルン。そこには
「…………ヨウヤク来タカ」
「亡霊如きが。まだ彷徨っていたか」
黒を基調とし、金と銀の装飾が散りばめられている荘厳な格好をしたヨイヤミが立っていた。
「貴様ニ奪ワレタ俺ノ全テ、返シテモラウゾオッ!!」
俺に向けて棘のミサイルが放たれる。直撃し、爆風が包み込んだ。
「俺を葬るのなら、その程度の力では意味がない」
爆風を抜け、瞬間移動と見間違うかのスピードで装鬼の目の前を通り過ぎた瞬間、装鬼の体に傷がついた。
「オ、オオッ……!」
装鬼の苦し紛れの猛攻を片手だけで弾き、鳩尾、首、脳といった急所に攻撃を入れる。動きが鈍くなるのも時間の問題。回し蹴りを頬に当て、追撃の魔法弾を何発も当てて距離も取る。
それでもなお向かってくる装鬼は鋭い爪を俺に振り下ろした。
「がっ……」
俺は倒れていた女を盾にすると、空間を裂いて取り出した剣で女ごと装鬼の腹を刺す。
剣を引き抜き女を投げ捨てる。その間に剣を銃に変えて足に二発。動きを止める。
「復讐は終わりか?」
「マダダ! 力ノ先ヘ行ク俺ヲ、止メラレルト思ウナアアアアッ!」
二本の尾が俺の心臓と首を勢いよく刺し貫く。
勝利を確信した装鬼が顔を上げる。だが――
「ッ…………!」
貫いたはずの二本の尾が消えていた。
「お前の復讐もここまでだな。大人しく、俺の一部として還れ」
体が紫の粒子となって俺に吸い込まれていく。装鬼は最後の悪あがきとして糸を巻き付けたが、すぐに消えてしまう。
「貴様アアアア……!!」
「この世界を支配するのは俺だ。お前は消えろ」
今までの攻撃よりも苦しんでいた装鬼は最後に言葉を残した。
すまない、――ナ、と。
「終わったか」
俺は血まみれで横たわる女の姿をあざ笑う。迫りくる気配に顔を振り向かせると、勇者が立っていた。
「ヨイヤミ。お前が……」
「勇者、か。懐かしいな」
勇者は剣を両手で握りしめ、気を静める。黄金のオーラが身を纏う中、勇者はスキルを唱える。
「エクスカリバー」
一撃必殺の最強スキル、エクスカリバー。どんな存在でも一撃で葬れる反則級のスキル。俺もこのスキルによって葬られた。
「うおおおおおおおおおお!!」
ガキンッ!! と音が聞こえ、勇者は俺に当たった剣を見つめる。
「ッ……!」
根本から折れていた。目を見開いて驚く勇者。俺はスキルを発動させた。『束縛』で金縛り状態に、『浸食』で作った糸で剣と盾を縛る。『狂化』と『獣化』を重ね掛け右手に黒い爪を生やし、『鬼』の影響下に置いて精神を完全に屈服させる。
「勇者も……弱くなった」
爪の一撃が、勇者の体を引き裂こうと迫った。
「俺を、忘れんなよッ……!」
俺の後ろにいる男が弱々しい声を上げ立ち上がる。俺は男を赤い衝撃波で吹き飛ばすと、勇者を鬼の影響下から外した。
「なんの、つもりだ……?」
「強くなって俺を倒しに来い。お前とは殺し合う気にもなれない」
俺の言っていることがわからず困惑する勇者の前で、スキル『逆行』を使う。
空間がねじ曲がる。俺は笑う。世界が、巻き戻った。
「ヨイヤミー。今日の行動指針はどうするぴょん?」
「俺は……知らない」
「エルフ。お前に任せる」
「全く、君達は放任主義だね」
俺のパーティーにヨイトが仲間入りした。出会い方は最悪だが、今では頼れる仲間の一人。
一方、勇者一行は力をつけるためダンジョンに行くと言っていた。それぞれ交わることないと思っていたが、縁は人を引き寄せるのか。
「…………」
「どうした」
「いや、なんでもない」
ファルンにそう言って席を立つ。窓からは、暖かい日差しが入り込んでいた。
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