多魔
愛の形は知らないが、それが存在しないことは知っている。
中規模。比較的新しく出来た街、多魔。俺が、本庁を辞めた直後に赴任した街でもある。
新しく、中規模、しかしながら、複雑怪奇、今でも原因不明の事件や、事故が絶えない魔都。
俺は何かあるのなら、この街、多魔にあると踏んでいた。
ハッキリ言って俺はこの街が嫌いだ。油断ならないこの空気、相変わらず気が滅入るぜ。
部下達が気を遣って「ここは我々だけで、情報収集に参ります。」そう申し出てくれた。養護教諭は1人、俺の側に付くと言う。
養護教諭は、特に俺の過去を深く知っているからな。
「いや、有難いが、そういうわけにもいかん。もちろん君たちなら大丈夫だとは思うが。嫌な予感がするのだよ。」
俺は、極力冷静に伝わるよう努めてビジネスライクに伝えてみたものの、3人には無理しているようにしか見えなかっただろう。しかし3人は、俺の指示に従ってくれた。
この多魔は、地区内に3つの中心街がある。しかしながら
その1つ1つが公共交通機関で直接つながっておらず、行くなら徒歩か自転車となる。ちなみに我々教師は車通勤は基本的に禁じられている。
それ程大きくない街に3つもの中心街をもち、それぞれが連携が取れていない。ますます、よくわからない街だよ。
まずは第一の中心街、多魔中央に行ってみるか。続いて、那蛾山、そして最後に聖蹟へ。
懐かしいはずだが、ちっとも感傷の情が湧かない。やれやれだぜ。………うむ、どうやら当たりだ。この気配。どうやら無事だったようだ、残念ながら。
「副校長!よくきたな。」すでに呼び方に敬意すら消えたか。「爺さん、生きていたんですね。別に、来たくて来たわけじゃありませんよ」何故だろう、俺はこの主幹と関わるのが特に面倒くさく感じてしまう。上司としてはいけないね、反省反省と。
「ここは俺1人でやらせてくれ。ちなみにもうわかってしまったが、あとの2つの中心街に、教諭の同期2人がいるだろうな。」
「ういっす。そいつらは俺に任せて下さい。主任にも手伝ってもらいやすから。」
「おまえね、そういう時は1人で行きますって言ってから、俺が1人じゃ無理だ、俺も行こうってなるところだろうが!」
「すんません、面倒だったんで、端折りました。よろしくお願いします!」
「ふう、大物になるよ、お前は。」
「あざっす!」
「養護教諭、すまないが2人について行ってくれないか?」
「しかし、それでは…」
「すまない。でも、そろそろ吹っ切りたいとも思ってるんだよ。もしもの時は頼むよ」
「…わかりました。でも必ずですよ。前みたいな事、私絶対に嫌ですからね。」
「ああ、わかってるよ。ありがとう……と久しぶりに養護教諭の本当の名前を呼ぶ。」
「…………行きます……。」
あ〜あ、また女を泣かせちまったよ。やれやれ。
さて、いくかね。




