教師の本当の仕事
自分を太陽だと勘違いした星は、自分が周りを照らしているわけではないことにいつ気付くのだろうか。
「……というわけですので、本当にしっかりとご指導お願いします!!」バンッ!!
校長室に隣接する来賓室のドアを叩きつけるようにして、帰って行くのは6年生の保護者の母親だ。いわゆるモンスターペアレントだ。
「…やれやれ、もうひと仕事、頑張りますか…」俺は、先程出て行った保護者、正確には保護者に憑いているヤツららを追う。
時間は午後10時前、体育館だの校庭だので学校の施設を使う連中も帰っている。校舎には、俺とヤツらだけだ。
俺は慣れた手つきで、自分の両手に印を結び、言い慣れた言葉を紡ぎだす。「照らせ、現せ、破城の燈…在」
すると、いつものようにヤツらは姿を現す。4、8、12…匹か…思ったより少ないな。
キョロキョロ不思議そうに辺りを見渡してやがる。相変わらず、何も変わらないな…と溜息を吐きながら、俺はそれこそいつも通り、同時に現出させていた自分の剣を振り下ろす。
ほんの少しの抵抗を剣に感じながら、俺は今日の最後(最後にしてほしい)の仕事を終える。
「…あっ、副校長先生⁉︎あれっ私、あれっ?」と呟きながら突っ立っている件の保護者に声をかける。
「お母さん、大丈夫ですか?急に学校にいらっしゃったと思ったら、すぐにお帰りになるとおっしゃって出ていかれたので心配で追いかけてきたのですが」…と言い慣れた台詞をつなぐ。
「えっ、あっ、私、あんまり覚えてなくて…申し訳ありません。大丈夫です。帰ります。ご迷惑をおかけしました。」と心配そうに校舎の外で待っていた父親の車に乗り込む。
やれやれ、やれやれだぜ。この田舎に赴任してからというもの、3ヶ月。ほっといてもいいレベルの憑鬼を何体処理してきただろうか。この時刻じゃなければ部下たち教諭で充分対応できるだろうに…チッと舌打ちをしながら帰り支度をする。
そう俺は、公務員なんだ、早く帰らせてもらいたいよ。全く。こうして、俺のいつも通りの1日が今日も終わっていく。