救出、脱出、そして…
「……ここか」
スラム街にたどり着いた俺は、グリードさんに教えられた情報を頼りに1件の家を見つけた。
外装はボロボロだが、窓から部屋の明かりが漏れているのが見えて人が住んでいることが分かる。
俺はその窓に近づき、バレないよう慎重に中の様子を伺った。
中には誘拐された本人であろう1人の少女がいた。
肩にかかるくらいの淡く綺麗な金髪で、左サイドに銀の髪飾りをしており、前髪は若干ぱっつん気味でいわゆるお嬢様ヘアだ。瞳はエメラルドのように綺麗なグリーンで、服はリボンの付いた可愛いドレスを着ている。
そしてその少女を取り囲むように、がたいの良い4人の男性が座っていた。
「いっひっひお頭!今回はとびきりの大物ですねぇ〜。なぁねえちゃ〜ん?」
「離して!!わたくしに触らないでくださいましっ」
「よせマードック。そいつは一応商品だ。下手に価値を下げるんじゃねえ」
『お頭』と呼ばれるそいつは、黒の眼帯をして顎髭が目立ついかにも強ボスっぽい雰囲気を醸し出している。
腰には何本も剣を携えており、きっと戦い慣れもしてるのだろう。
「ちっ、いつもみたいに可愛がってあげられないのが残念だなぁ〜」
「…商品ですって!?わたくしをどうするおつもりですの」
「本来なら回して遊んだ後処分するところだが、お嬢ちゃんは中々の上出来だ。南のザラ砂丘の奴隷商に売って金にした方が賢い。命が救われるだけ喜ぶんだな」
「っ……この人でなし!あなた方のような人にはきっと天罰が下りますわ!」
「ふん、囚われてるのにずいぶん強気なお嬢様だな。まあいづれそんな生意気な口も聞けなくなるくらい、奴隷としてご主人様にたくさん可愛がってもらえるだろうよ」
「く〜!俺がその奴隷商から買い取ってやりたいくらいだぜぇ!!」
「いやっ……ここから出して!!家に帰して!!!」
「ちっ、ぎゃーぎゃーうっせえな。おいマードック!コイツを2階の物置部屋に隔離しとけ。他の奴らはメシの準備すっぞ」
「へいへい!今日もパーッと飲むぞ〜」
……チャンスだ。
相手は4人。まともに真正面からぶつかると確実にゲームオーバーだが、気づかれないように忍び込めば助けられるかもしれない。
しかも夕食の時間も相まって警戒が薄れるだろう。
「仕掛けるなら、今しかないな…」
少しイメージトレーニングした後、晩餐会のタイミングを見計らって俺は行動に出た。
ーーーーーーー
外から4人全員が1階の小部屋に集まっているのを確認し、正面入口から静かにかつ素早く侵入。
幸い入口のドアが壊れていたため、無駄な物音を立てずに済んだ。
「ふぅ……。まずは第1関門クリア」
正面入口から入ると左手に2階へ繋がっている階段、そして右手にはおそらく4人が集まっているだろう小部屋がある。その小部屋からは灯りが少し漏れており、ガハハと下品な声が聞こえる。
奴らがあそこにいるのは間違いないだろう。
「よし、慎重に慎重に」
木製でボロボロの床板は歩く速さ、足に込める力に比例して音を鳴らす。
音を立てないよう最大限に注意してるつもりだが、緊張感MAXで動揺しているせいか 1 歩歩く事にギシギシという音が耳に響き渡る。
「ホラゲを実体験してるみたいで心臓に悪いな…」
見た目は子供、中身は大人といっても何でも達観しているわけではない。
焦りや恐怖に襲われながらも、ゆっくりと一段一段登った。
階段を登りきったところで一度深呼吸。
今下から奴らが来たら逃げられないな…。
後には戻れず、腹を括って静寂な廊下をゆっくり進む。
1階に奴らがいるため、2階の廊下は特に慎重に歩いた。
「……ん?」
今声が聞こえたような……
落ち着いて聞き耳を立てると、2階の突き当たりの部屋から僅かだが泣いているような声が聴こえた。
慎重にその部屋へ近づき、ドアに耳を当て中の様子を探る。
「っく……おとうさま、おかあさまぁ……」
うん。ここだ。
ゆっくりとドアノブを回し中に入ると、先程盗賊の1人に連れて行かれた少女が椅子に手足を縛られた状態で泣いていた。
「……つ!! あなたはっ!?」
「しーっ!! 君を助けにきた。驚くのは分かるけど今は何も言わず俺を信じて」
こちらの真剣さがちゃんと伝わったらしく、その言葉に少女はコクっと黙って頷いた。
俺は少女に縛られたロープを両腕両足の計 4 箇所、一つづつ丁寧に解いた。
「……立てる?」
「大丈夫ですわ。本当にありがとうございます」
「よし。じゃあすぐにここを出よう。素足だと痛いかもなんだけど少し我慢してもらってもいい?」
「全然ですわ!行きましょう」
先頭を切って元来た道を引き返す。
行きと同じ距離で同じ経路なのに、異常なほど緊迫感がある。
そういえば潜入系の映画とか、目的を達成して帰るときに大体ラスボスと鉢合わせるイベントがあるよな。
……いやいや考えるな!!大丈夫、きっと上手くいく。
ほんの数メートル先の階段をとてつもなく遠くに感じながらも、なんとか前に進んだ。
階段まで着くと俺は先に降りて下の様子を観察した。
右奥の小部屋は灯りがついたままだが、先ほどと違い妙に静かだ。
食べて眠ったか? とりあえず今のうちに……
少女に下に降りていいと合図を出し、警戒しながら降りてくるのを待つ。
降り終わったのを確認して入口を出ると、少女の手を引き一目散にその場から立ち去った。
ーーーーーーーー
「はぁ、こ……ここまでくれば!」
「そう……ですわね…!」
先ほどまでいた東地区のスラム街と真反対の西地区まで3時間近くかけ逃げてきた。
空はもう真っ暗で、時刻は 21 時ぐらいだろう。
周囲にひとけは無いが、まだいくつかのお屋敷の電気が付いているおかげで少しだけ道が明るい。
とりあえず、無事ここまで来れてよかった……
ほっと一安心するが、すぐに警戒状態に戻った。
まだ油断はできない。
少し違うかもだけど、帰るまでが遠足っていうしな。
そう思って先に進もうとした時、彼女に手を捕まれ動くのを止められた。
「あの……」
「うん?」
「あなたは一体?どうしてわたくしのことを助けに……?」
そうだった。
あのスラム街を抜けて以降ずっと一緒に逃げてきたけど、まだ何一つ説明してなかった。
「俺は…「そいつはオレもききてぇなぁ〜!!」」
!?!?
背後から聞き覚えのある声がし、街灯の灯りがこちらに近づくその声の主の姿をあらわにする。
「よぉお嬢ちゃん。そして初めまして勇敢な兄ちゃん」
そこにいたのは盗賊団のうち、お頭と呼ばれ黒い眼帯をしたあいつだった。
こんばんは、根暗みかんです。
拙い文章で大変恐縮ですが、いつも読んでいただきありがとうございます…!
また、応援メッセージをくださった方もありがとうございました!!超励みになります >_<
今後も更新頑張るので、ぜひお楽しみください!