スカジャン
俺たちは計らずも、桶狭間の戦いで信長の勝利に貢献した後、今度こそ人気のない所へバスを降ろしていた。
上空で待避していた時に位置情報が機能するようになり、そこが間違いなく桶狭間であることを確認できた。
俺と雅は動揺していたが、レイコさん達は、
『まさか私達が関わってたなんて、ビックリしたわね。』
と言いながらも、そんなに動揺しているようには見えなかった。
その後、正確に位置情報を把握したレイコさんは、慎重に場所を選んでバスを降下させたのだ。
『ここは戦国時代だから、くれぐれも気を付けて。』
レイコさんは全体を見渡してそう言った。
『ただ、そうそう全員戻されるような事態にはならないと思うし、大きな対戦はさっきの桶狭間位だから、気を付けてれば、大丈夫だと思うわ。』
俺は、またまたフラグが立ったような気がして心配になる。
レイコさんが注意事項を一通り告げると、それぞれ数名のグループでバスを降りていった。
『あなた達はどうする?』
レイコさんに聞かれると、俺はバスの後部を見た。
そこには、先程まで裸だった例の三人組がいる。
三人のうち二人が褐色の肌で、一人は日本人風だ。
それぞれが、ジーパンにスカジャンという俺達の時代では見慣れた服装をしていた。
特に俺は子供の頃横須賀に住んでいたので、懐かしい気分になる。
『あら、彼らが気になるの?』
レイコさんにそう言われて、俺は『はい。』と答えた。
レイコさんはフフッと笑うと、
『実は私も気になるの。あのカッコでこの時代の人に会ったらどんな反応するか。しかも二人は肌も違うでしょ?』
と言った。
どうやらレイコさんも同行する気らしい。
レイコさんの作戦によると、三人には日本語での会話をさせず、レイコさんが通訳をるという形を取るということだった。
織田信長が弥助という黒人を家来にするのは、まだ先の話だが、その時も肌の色の珍しさから信長が気に入ったというから、それだけこの時代では異質なのだろう。
だからこそ、レイコさんもその反応に興味津々なのだ。
『でも、何でスカジャン?』
雅が可愛らしく首をかしげた。
その時、後部にいた三人が歩いてきて、
『それ、聞きます?』
と、笑いながら行った。
何でも、前回うちの店にきた翌日に横須賀へ行き、もらった花の事でテンションが上がっていた彼らは、夜の横須賀でかなり盛り上がっていたらしかった。
米兵の多い横須賀で盛り上がっていたら、同じようにハイテンションの黒人達に声を掛けられ、『ブラザー』と呼ばれ、肩を組んで歌ったり笑ったりしていたら、何故か自分の来ていた服と彼らのスカジョンを交換していたらしい。
らしいと言うのは、かれらも泥酔していて、翌日起きたときに、何故こんな派手なジャンパーを着ていたのか理解に苦しんだという。
その時一緒にいたユウリさん達に事情を説明されて、初めて顛末を知ったと言うのだ。
そして、その後の国連時代での飲酒はレイコさんに厳しく禁止されたらしい。
恥ずかしそうにその事を話した彼『ロジャー』はチラッとレイコさんを見た。
レイコさんは笑いながら、
『いいじゃない、その後からは飲めてるんだから。』
『いや、怖くて思う存分飲めないですよ。』
ロジャーと一緒にいた三人は頭をかきながら笑った。
もう一人の褐色の肌の男性は『パンダ』、日本人ぽい人はケントだと分かった。
パンダさんの名前を聞いたとき、雅は、
『ぱ、パンダさんですか?』
といって笑っていた。
かくして俺達は、レイコさんとその三人組、そして俺と雅の六人で共に行動することになった。
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