強制移動
ー2ー
『あれ?』
雅をかばってうずくまっていた俺は、暴れ馬に蹴り飛ばされているはずだった。
目をつぶって覚悟を決めていたのに、いつになっても衝撃が伝わってこない。
恐る恐る目を開けてみると、俺達は見慣れたバスの車内にいた。
『痛い……痛いよ、博人くん……』
俺はハッとして雅から離れた。
『ごめん。痛かった?』
『ちょっと……でも、守ってくれてありがと。』
泣き笑いをする雅をまたギュッと抱き締めていた。
『痛い、痛い……』
『あ、ゴメン。』
痛いと言いながら、雅は嬉しそうだった。
『戻されちゃったわね。』
その言葉に振り向くと、レイコさんがバスの車内を見渡していた。
俺も見渡してみると、他にも戻ってきている人が大勢いた。
レイコさんは自分の席に戻ると情報端末を操作する。
『この時代、まだ徳川幕府が開かれたばかりだから、歴史に残らないような小さな小競り合いはあちこちであったみたいね。』
レイコさんがそう言うと、先に戻ってた人がレイコさんの端末を覗き込みながら、
『あとはユウリさんのグループだけですね。……まさか……大丈夫ですよね?』
と言った。
『私も一度しかないけど、可能性はあるわね。』
そう言うレイコさんに俺は聞いた。
『なんか問題でも?』
『私達スタッフのランダムトリップは、情報収集がメインなのは言ったわよね。』
『はい。』
『だから、万が一全員が危険回避の為に戻されると、その時間は危険と判断して、脱出機能が働くんだけど、まだ情報収集が不完全だと、前後一世紀の範囲で強制移動がかかるのよ。』
『強制移動?』
『情報収集の為になるべく近い年代に移動するんだけど、その時に許可された時間からトリップするとなると、前後一世紀位の範囲になっちゃうのよ。』
レイコさんはそう言うが、未来の決まりごとなど知る由もなく、ただ『はぁ……』と言うだけだった。
『大丈夫よ。全員が戻されるなんて、そうそうないから。』
レイコさんが振り返ってそう言った時、車内後部が光って、そこにユウリさん達が現れた。
『あれ?戻ってきちゃったよ。』
雅がそう言うなか、俺とレイコさんは顔を見合わせた。
やがてバス全体が光に包まれ、俺は意識を失った。
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