不思議な人達
それは、とても不思議な雰囲気の人達だった。
新婚二年目。
最愛の妻であり、恋人であり、親友であり、または兄妹のようでもある雅と一緒に、かねてから念願のコーヒーショップを開いてから約半年。
その人達は現れた。
この店はコーヒーショップとフラワーショップが併設してあり、店内からも移動出来るようになっている。
コーヒーショップの店内にはいたるところに花々や観葉植物が飾ってあり、気に入ったお客は、購入出来るようにもなっている。
また、フラワーショップで五千円以上の買い物をすると、コーヒーショップでコーヒーなどのサービスが受けられる。
それが中々の好評で、開店時からかなりの盛況を博していた。
基本的に、コーヒーショップは店主の俺、小山内博人が勤め、フラワーショップは妻の雅が勤めていた。
開店時こそ、それぞれ一人でこなしていたが、思いもよらず好評を博したため、二人では対応しきれず、すぐにアルバイトを雇うようになった。
とはいえ、二人とも初めての自営業なので、アルバイトは経験者を募集したところ、それぞれとても良い人材に恵まれた。
人柄もよく、またコーヒーショップやフラワーショップにもそれぞれ精通していて、ともすれば俺たちよりもプロ意識が高かった。
特にフラワーショップで雇った二人は、仕入れや経理までまかせられるほどの人材だった。
そんな彼女達、姫野ユキと坂上輝美、そしてコーヒーショップの店員である九条隼人と田中聖美とも一緒に飲み会や、レクリエーションなどの交流も行っていたので、連帯感が生まれていた。
そんな中で、俺達夫婦の仲の良さも当たり前のように認識され、『二人が別々にいるのはなんか見てられない』と姫野ユキが言い出した事から、『やっぱそうだよね。』ということになり、雅はほとんどの時間をコーヒーショップの看板娘として過ごすようになっていた。
そんな時、あの不思議な人達は現れた。
店内に入るなり、子供のようにキラキラした眼で店内を見渡し、雅がテーブルに案内すると、とても喜んで『ありがとう』と言っていた。
俺が不思議な人達と感じたのは、まずその多様性だった。
ファッションもバラバラで……といっても、変なわけではなく、それぞれがちゃんとしているのだが、フォーマルな人もいればカジュアルな人もいる。それが同じ団体という事が面白かった。
団体といっても、15人程なのでそれほどでもないのかもしれないが、うちの店にとっては過去最多の団体だ。
たまたま午後の一番空いている時間帯だから良かったものの、カウンター席五人、テーブル席20人のうちとしては、結構な人数だ。
そして、その人種。
聞いていると全員日本語を話しているようではあったが、半数近くが外国人に見えた。
流暢な日本語を話しているので、皆さん在日の方なのかもしれない。
そして一番目を引いたのが、様々なファッションに身を包んでいるにも関わらず、全員が同じタイプのアクセサリーをつけていたことだった。
しかも、俺が今まで見たこともない変わったアクセサリーだった。
ピアスのように埋め込み式になっているのか、全員が首の後ろ辺りに小さなブローチのようなアクセサリーを着けていた。
デザインは様々であり、見ていても変ではなく『へー、こんなアクセサリーがあるんだ』『お洒落だな』という感じなのだが、全員が同じ場所に着けているのが、ちょっと不思議だった。
その人達は提供された飲食に、目を丸くして語り合い、各テーブルや窓際に飾られた植物を興味深げに眺めては語り合っていた。
そして帰り際、雅がサービスの花を1輪ずつ手渡していくととても喜び、握手を求めたりハグしたりしていた。
中には涙ぐむ人までいた。
料金を支払っていた引率者っぽい人が、最後に『ぜひ今度私たちのツアーにも参加してください。』と言って、名刺を置いていった。
その名刺もとても不思議で、まるで液晶画面のような3D加工がしてあり、思わず二度見してしまった。
裏を返すと、小さく『21st Century 』と書かれていた。
そんな彼らを店の外で見送った雅は、店に戻ってくるなり俺のところに来ると、目をキラキラと輝かせながら、
『すーごく綺麗なバスだったよ!』
というので、手を休めて見に行くと、はるか彼方に後ろ姿が見えるだけだったので、何でも感動しやすい雅がまたオーバーに言っていただけなんだろうなと、そのときは思っていた。
不思議な人達が乗るそのバスに自分達も乗ることになるとは、まだ夢にも思っていなかったのだ。