表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王ちゃれんじ  作者: 大谷融
第四章 勇者の変事
82/108

領地トップ会談

 多少書けてきたので連日投稿していきます。

  ◇


 ロンデ村の春の到来は早い。というよりも冬が短いというべきだろう。

 寒冷な大陸北部とは違い雪もあまり降らない温暖な地域であるここは寒いと感じる期間が短く、新緑が芽吹いてくるのも早いものだ。


 冬の間にはこの地域の原因不明の風土病によって一騒動起きたが、それによって村で浮いた存在だった河童のセイジロウや、目が不自由なリールの2人が活躍してくれて立場を確立してくれた。少しは皆の連帯感も強まっただろうか。

 さらにマカンが連れてきた魔物、メイルズホースの赤角。

 最初はマカンが魔物を威圧し使役できるようになるための訓練相手として想定していたのだが、何を間違ったのか逆にマカンが使役されるというとんちんかんな関係になってしまった。

 一応はその後の食事制限が功を奏したのか、なんとか必死になったマカンが最近になってようやく赤角を魔力によって屈服させることに成功した。ここに至るまでの俺の努力と気苦労は誰かに労ってもらいたいものだが、村のみんなを不安にさせないためにも最初から赤角の使役に成功していたことにしていたのでそれもできないという……。


 ただそんな状態でも村に来た当初から赤角が大人しく村の誰にも危害を加えようとしなかったので助かっていた面もある。

 赤角がマカンの上の立場を主張することにはイラッとさせられたが、最初に脅しをかけたのが効いていたのか、マカン以外にはこれといって面倒ごとを起こさなかったのだ。

 さらには別に孤高を気取るでもなく人と接するのを嫌がりもせず、しばらくする頃にはある程度の指示には従うようになっていたし、なんなら荷運びだとかの手伝いすらしていた。賢い。

 思い返せば最初に村に連れてこられた時にも狩った鹿を背負ってたんだよな。できたばかりの配下の手助けまでしてやっていたのだ。そしてここのところは村の女たちと一緒に畑を耕すことに尽力している。

 普通の馬よりかはずっと体重が重く走る速度は遅いが、その自重を支える脚は太く馬力はある。人間だけで土起こしをするのに比べてかなり効率が良くて楽になったと聞く。おかげで評判は良い。




 俺はその日は朝食後ジルユードと向かい合って茶を飲みながら村の今後のことを話していた。

 俺とこいつは嫌い会っている仲とはいえ、村の意思決定権を持つ上位2名だ。反目しあって顔も合わさないでは何もかもが破綻しかねないので、面倒に思いつつもなんだかんだとこうして相談を重ねていた。

 その時の一幕。


「ビィ、あと何頭か手に入らないかい?」


 なにが、というとメイルズホースのことだ。

 見た目は確かに馬に似ているが、こいつは2本の反り返った赤い角とがっしりとした体格で魔法すら使うれっきとした魔物だというのに、赤角の働きっぷりはジルユードがこんなことを言い出すほどだった。


「魔物が欲しいと言われるとはな」


「こう言ってはなんだが、スケルトンやら河童よりかはまだ許容しやすい」


 ぐうの音も出ねえな。


 まあしかし確かに赤角はよく働いている。人間を怖がるでも敬遠するでもなく溶け込んでいる。

 もともとこの赤角は鹿の群れに混ざっていた。メイルズホース自体が群れで行動する性質の魔物ということもあり協調性は高いのだろう。


「馬車を用立てればまたできることが拡がりそうだね」


 すでにジルユードの中ではいかに活用するかの計画が練りあげられているようだった。


「なんにせよボースは貴重な労働力だ。貴様は早く雨風しのげるまともな寝床を用意してやるのだな」


「わかってるよ」


 かつてこの村にあった馬小屋は俺が改築して住居にしてしまっている。他には使えそうな建物もなく、今は急遽新規に作り直しているところだった。

 ……ああ、ちなみにボースというのは赤角の名前だ。マカンが人前でボスと呼んでいるのを聞かれてしまっていた手前、それにちなんだ名前をつける必要性ができてしまったんだよ。

 それだけこいつが期待されているということでもある。特に一番労働力を期待しているのはジルユードだろう。


 先に述べた通りボースは畑仕事ですでに活躍してくれている。その分だけ人手が予定よりも余る筈だと農作業を監督しているグーブールに持ち掛け、その余った人員を冬からとりかかっている紙製造に引き続きあてたいと相談しているらしい。

 案の定というか当たり前というか、やはり紙の製造は難航していて納得のいく品質にはまだ届いていない。


 こんなものは長期的にとりかかるべき案件だと思うのだが、ジルユードはあまり悠長にとりかかるつもりはないらしく、なるべく継続的に研究を進めて早期に結果を出そうという考えのようだ。

 食料の確保こそ最も怠ってはならないことなのは間違いなく、それらがまだ軌道に乗っていないうちから人を減らすことにグーブールが難色を示すのも理解しているが、ジルユードはなんとか説き伏せようとあれやこれや手を尽くしている。

 立場の違いでいえばジルユードが命令すれば一発なんだが、グーブールの意見を軽く見ているつもりはないからこそ議論を続けているということだろう。


 それに農作業に関してもジルユードは今後の展望を持っている。

 グーブールにこの土地で生育させやすそうな作物を考えさせ、今後はその種などを入手して耕作地も増やして……などなど計画を立てている。こちらに関しても人手があればあるだけ欲しいというのが実情だろう。

 ジルユードのことは好きになれないが、こうして領主として村を復興させようと努力している様には頭が下がる。


「そう人……人手が足りん」


 最近は事あるごとにこれだ。

 やりたいこと、やろうと思うことは数あれど、それにかけれる人員がいないためなかなか思うようにできないことに不満を持っている。


「だからといって安易に人を増やそうと考えられても困るんだがな。俺からしてみればマカンを指導していける環境であることが第一なんだから」


 もともと俺にはこの村を復興させようという気があまりないんだ。俺がマカンの指導に集中できるようにそれ以外のことを片付けてくれる人員が欲しいだけだった。それがこいつが関わってきたことで話がだいぶ大きく変わってきてしまっている。

 だから釘を刺した。

 人の往来は最小限、ここで生活する人間も少なくて良い。ここで魔物や魔族が暮らしているということが広まることこそ迷惑なのだから。


「わかっている。だから悩んでいるのだろう。人が増やせないのならいっそ魔物でもいいかという気になってきたのもそのせいだ」


「その開き直りもどうかと思うが」


「貴様が言うな」


「…………」


 ジルユードは家畜を増やしたいとも思っているのだ。

 代表的なのは馬や牛、豚に羊にヤギといったところか。運搬などの力仕事を任せたり、毛や乳も需要が多く無駄にならない。最終的には肉となって俺たちの腹を満たしてくれる。世話に手はかかるが家畜というのはいればありがたい存在だ。


 が、これがなかなか手に入れるのが難しい。

 長い魔族との戦争時代、極度の食糧難に陥った王国ではほとんどの家畜を食い尽くしてしまった。かろうじて馬だけは軍事行動に欠かせないということで生き延びることができたが、それ以外の家畜はすでに入手が困難な状況なのだ。

 戦火を逃れた一部の地域や、人が逃げた後も逞しく生き残った家畜がわずかにいるらしいので全滅してはいないようだが、とにかく希少で高価な代物になっている。行商人として各地を回っているオージも相手が手放さないのでそう簡単には手に入らないと言っていた。


 それはわかるが、だからといって魔物でもいいかというのは突拍子すぎるだろうに。


「……魔物を使役している者から買い取るか? 告知を出せば積極的に魔物を見つけて捕まえようとする者も増えるかもしれん」


「止めておけ。マカンがいるからこそ俺は魔物の使役も積極的にしていくつもりはあるが、国内ではどこでも敬遠されていることだ。下手に意図を勘繰られるのも困る」


 魔物は確かに使役することは可能だが、だからといって家畜化などは論外とされている。なぜかっていうと、魔王が魔物への絶対支配権を持っているせいで魔族と戦争になれば人間が使役している魔物も敵に回るのが確定しているからな。

 まあ余人の知らない本当のところは、魔王の命令は確かに魔物には絶対だが声を届かせられなければそれに従うことはない。だからそこまで神経質になることはないんだが、その魔物の脅威につい最近までさらされていたのだから気にするなという方が無理だろう。


「……ままならん。アルマリス」


「はい、ジル様」


 ジルユードはお茶を飲み干すとアルマリスに空になったカップを向け、そこにアルマリスが茶をそそいだ。


「ビィ様もどうぞ」


「ああ」


 俺も茶のお代わりをもらう。

 少し薄いが気にならない。お湯や水をそのまま飲むよりかは好みにあう。

 この茶葉だってかなり高価なんだ。薄くなったからといって捨てるのももったいない。食えない物は作らずなるべく腹持ちの良い物を作るというのが戦時中の鉄則に近かったから、茶葉は一時ほとんど作られていなかった。それを思えばずいぶんと贅沢をしているな。


「ビィ、今日は昼からエステルも連れて回る。かまわないな?」


「午前中は訓練にあてるからぶっ倒れてなければな」


「それぐらいは加減せよ」


 ジルユードは最近はエステルにも領地経営のなんたるかを説くようになってきた。村の中を連れまわし、何を見て何を考えるべきなのかを教えている。そう遠くないうちに男爵として領地を任されることになるエステルには貴重な経験となることだろう。

 ジルユードだって領主としては新米だが、こいつは終戦からの2年間、侯爵家を継いだ弟のルイヴィスを補佐してきたらしくそれなりに経験を積んでいる。あの2年は激動の年だった筈だから、まあそれを乗り切った手腕は確かなものなのだろう。


 考えてみればこの村の復興を急ぐのも実家であるクロインセ家への影響を考えてのものなんだろうな。

 大貴族とはいえクロインセ侯爵家の地盤はかなりもろくなっている筈。

 なにしろ長く家を支えていたのはジルユードの父親である先代侯爵と跡取りだった長男、そして勇将として名を馳せた次男だった。現在家を継いでいるルイヴィスは3男でまだ年も若く、まさか自分が当主になるなどとは思いもしなかったかもしれない。周りの者だってそうだろう。新当主就任時には相応のごたごたがあったのは間違いない。

 ま、当時はあっちこっちの貴族がそうだった。

 なにしろ王都にいた貴族のほとんどが代替わりしなくてはならなくなってしまったのだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 [一言] お疲れ様でございます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ